第10話

 帰り道。

 千明への恋愛感情に気付いたばかりの璃音は、そわそわしながら千明の隣を歩いていた。

「あー、楽しかった」

 夜空を見上げながら呟く千明に、私も、と返す。

 __この気持ちを、早く伝えたい。

 はやる気持ちを深呼吸して落ち着かせてから、言った。

「千明。ちょっと、寄りたいところがあるから、一緒に来て欲しい」

 その言葉を訝しみながらも、千明は、いいよ、と答える。

 千明が頷いてくれたことに璃音はほっとする。

 少し前に決めた場所に向かう為に、いつもなら右に曲がる交差点を、そのまままっすぐに進んでいく。

 暫く歩くと、河原が見えてきた。

「ここ、花火大会の時に来た……」

 千明の呟きに、うん、と頷く。

 夜遅いこともあって、人の気配は疎らだ。

 そんな中を、璃音は前回花火を観た高台に登っていく。

 迷いのない璃音とは対照的に、千明は戸惑う。

 階段を登り切ると、そこには、綺麗な夜空が広がっていた。

「やっぱり、綺麗だな」

 誰に言うともなく呟いた璃音の横顔は、街灯の灯りでオレンジに染まっている。

 どうしてここに連れてこられたのだろう、と千明は戸惑いの中考える。

 璃音は、そんな千明を見つめた。

 __やっぱり、好きだな。

 そう強く思った璃音は、千明の方へと向き直って言う。

「聞いてほしいことがあって、ここに来たんだ」

 璃音は今までにないほど緊張していた。

 高鳴る鼓動を鎮めようと、一つ深呼吸をした後、口を開く。


「千明、好きだよ」


 しんとした空気の中、言葉が響く。

 璃音の想いが込められた言葉は、口からするりと、しかし力強く出された。

 その言葉を聞いた千明は、頭が真っ白になる。

 目を見開いて固まっていたが、暫くすると思考が働きだした。

 最初に浮かんだ言葉は、『信じられない』だった。

 __でも、確かに『好き』だと言われた。

 その事実に、段々と嬉しさが込み上げてくる。

「__璃音、ありがとう。すごく、嬉しい」

 そして、千明は、満面の笑みを浮かべて、言った。

「俺も、璃音が、好き」

 返ってきたその言葉に、璃音はほっと息を吐く。

「よかったぁ。すっごく、どきどきした」

 漸く璃音の顔に笑顔が浮かんだ。

 その笑顔に、千明は安心感を覚える。

「そうだよね。本当にありがとう」

 そうして暫し微笑みあっていた二人だが、不意に千明が真剣な表情になった。

 璃音の肩に手を置き、言う。

「そうだ。これを言わなくちゃ。__璃音、付き合ってください」

 その言葉に思わず固まるが、じわじわと嬉しさが込み上げてくる。

 璃音は笑って、

「はい。よろしくお願いします」

と返事をした。

 それを聞いて、千明は笑顔になる。

 少し照れ臭くなった璃音は、千明から目を逸らして空を見つめる。

 その視線につられて千明も空を見上げる。

 二人の頭上には、星たちが瞬いている。

 暫く夜空を眺めていたが、千明が名残惜しげに言った。

「__帰ろっか」

 璃音はそれに頷いて、二人は高台を降りる。

 璃音が階段の最後の段を降りたところで、千明に手を差し出された。

 璃音は、その手を、満面の笑みを浮かべて、握った。

 そうして、二人は、歩き出す。

 道を歩く二人の距離は、なくなっていた。




    〈了〉

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天才君の恋。 エイト @slb_04

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