第9話

 ようやく櫓が設営されている公園まで辿り着いた。

 二人の手には、焼きそばやたこ焼き、ベビーカステラが入ったビニール袋がある。

「あそこに座って食べよう」

 そう言って千明が指差したのは、人気ひとけのない公園の端にある石のベンチだった。

 ざわめきが遠くに聞こえるそこに、ビニール袋を真ん中に挟んで座る。

「璃音は焼きそばとたこ焼き、どっちがいい?」

 ビニール袋の中から買ってきた食べ物を取り出しながら、千明が聞いてくる。

 どっちも食べたいな、とちょっと迷って、焼きそば、と答える。

 千明は、焼きそばの入ったフードパックを、割り箸と一緒に璃音に差し出す。

「はい、焼きそば。あと、たこ焼き一個あげる」

 そう言って、たこ焼きを箸で摘んで、焼きそばの上に乗せた。

「え、いいの?」

「うん。その代わり、焼きそばひと口頂戴」

 そう言って見せた笑顔に、胸がぎゅっとなる。

 心なしか顔が赤くなっているような気がして、少し顔を伏せる。

 そのまま、割り箸を割って焼きそばをたこ焼きの空いたところに詰めた。

「はい。このくらいでいいかな」

「ありがとう。じゃあ、いただきます」

 そう言って千明はたこ焼きを頬張り、

「ん、美味しい」

と呟く。

 璃音は、そこでやっと、顔の火照りが治まってきた。

 ふう、と息を吐いて、焼きそばを口に運ぶ。

「美味しいね」

 二人はぽつぽつと話しながら、焼きそばとたこ焼きを食べ進めていく。

 それを先に食べ終えた千明が、ビニール袋から紙袋に入ったベビーカステラを取り出し、口に入れていく。

「甘くて美味しい」

 そう千明が言うと同時に、璃音も焼きそばを食べ終えた。

 空のフードパックをビニール袋に入れ、千明の持つ紙袋に手を突っ込む。

 掴み取ったベビーカステラを口に入れると、優しい甘さが広がっていく。

「ベビーカステラ、久しぶりに食べたかも」

「確かに」

 ベビーカステラは、あっという間に二人の胃の中へと消えていった。

 千明がビニール袋を近くに設置されていたゴミ箱に捨てて戻ってくると、璃音が出店を指差して言った。

「ね、千明。かき氷食べに行こう!」

 目を輝かせてそう言う璃音に、千明は微笑んで、

「うん、一緒に行こう」

と手を差し出した。





 かき氷を出店で買った二人は、かき氷を片手に出店を見て回る。

「見て、りんご飴」

「金魚すくいだ、懐かしいな」

 出店はどこも人で溢れていて、見ているだけでわくわくしてくる。

「千明、今日すっごい楽しい!」

 自分でも頬が緩んでいるのがわかって、思わず千明に笑いかける。

 そんな璃音に、千明はくすりと笑って口を開く。

「楽しいね」

 そう言って千明が見せた笑顔は、眩しいくらいに輝いていて。


 ____好きだな。


 璃音は、唐突に自分の想いを自覚した。

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