第8話

 夏休みも終わりに近づいたある土曜日。

 今日は、千明と約束していた隣町の夏祭りの日だ。

「__どうしよう。」

 あれから十日程経ったが、璃音はまだ告白の答えを出せないでいた。

 __そろそろ、ちゃんと答えを出さなきゃ。

 よし、と気合を入れ、準備をしようと一階へ降りた。




「お母さん、これでいいかな」

 浴衣を着終え、最終確認を母にする。

 バッチリよ、と言った母に、ありがとう、と返す。

 せっかくの夏祭りなんだから、浴衣で行こう、と千明に提案され、クローゼットの奥から浴衣を引っ張り出してきた。

 鏡の前で最終確認をし、財布などを入れた巾着袋を持ち、玄関へ向かう。

 途中で姿を現した将人にもいいじゃん、と褒められた。

「じゃあ、気をつけて行ってきてね。千明君にもよろしく」

「うん、行ってきます」

 玄関のドアを開けると、家の塀に千明が寄りかかって待っていた。

 濃紺の浴衣がよく似合っている。

「ごめん、待った?」

 急いで千明のもとへ駆け寄る。

 ううん、と答えた千明は、璃音の方を見て一瞬固まったが、次の瞬間には、にこりと笑って、言った。

「璃音、浴衣似合ってるね。可愛い」

 その言葉に、璃音は顔が熱くなるのを感じる。

「あ、うん、この浴衣、可愛いよね」

 勘違いしないように、と思ってそう言ったが、千明に

「浴衣もだけどさ。俺は璃音のこと可愛いと思って言ってるんだけど?」

と言われ、顔の火照りが治まらない。

 二人の間に甘い空気が漂う。

 そんな空気を振り切るように、よし、行こう、と千明に言って、璃音は歩き出す。

 空は暁に染まり、心地よい風が二人の間を吹き抜けていく。

 二人の間には、人ひとり分の距離があった。




「うわー、人凄い」

 会場に着くと、そこにはたくさんの人々がひしめき合っていた。

 大通りには出店がずらりと立ち並んでいる。

 通りの先にある公園には、大きい櫓が見え、その周りに人や出店が集まっている。

「先に何か食べるもの買おう。夜ご飯っぽいの」

 そう言って、璃音は出店を見ようと歩き出す。

 千明は隣に並んでいたが、少し何かを考えるそぶりを見せると、

「璃音、手出して」

と言った。

 何故そんなことを言うんだろう、と考えながら手を差し出すと、ぎゅ、と千明に手を握られた。

 思わず千明を見上げると、

はぐれたら困るから、繋いでて」

と笑顔で言われた。

「じゃ、行こう」

 そう言って、有無を言わせず歩き出す。

 どくり、どくり、と聞こえるのは自分の鼓動だろうか。

 繋いでいる手が、熱い。

 千明の背中が、やけに大きく見えた。

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