第3話

「あー、やっとテスト終わった」

「今回あんまり良くなさそう」

 期末テストが終わったばかりの教室は、いつもよりざわめきが大きく感じる。

 璃音は、クラスでも仲のいい夏実なつみ杏理あんりと一緒に話していた。

「テスト返し終わったら夏休み来るから頑張ろ」

 璃音が真面目な顔で言うと

「そうだね」

と夏実も気合を入れるようなジェスチャーをする。

 一方で杏理は、

「でも夏休みは夏休みで課外あるよね」

と苦そうな顔をする。

 まあまあ、と杏理を宥める夏実も、その事実からは目を背けたいと思っているように見える。

「夏休みか、何しようかな」

 璃音がそう呟くと、

「やっぱり花火大会と夏祭りじゃない?」

「プールとかも絶対いいよ!」

と二人がさっきまでの暗い顔から一転、目を輝かせて話し始める。

 楽しいことしか考えてないけど、と言いながら、笑う。

「もし予定合えば三人でどっか遊び行こうよ」

 ふと思いついたことを言うと、

「いいね、絶対楽しい」

と杏理が言い、それに夏実も頷く。

「課外終わった後でも、一日中でもいいよね」

「海とか行っちゃう?」

 まだ遠い夏休みに向かってどんどんテンションが上がっていく。

 そんな風に話していると。

「璃音、一緒帰ろ」

 いつの間にか教室に入っていた千明にそう声をかけられた。

「あ、ちょっと待ってて」

 そう言い、千明から夏実と杏理の方へと目を移す。

 呼ばれたから行くね、と少し申し訳なく思いながら言うと、

「いいよ、桜葉と帰りなー」

「後でどこ行くかみんなで決めよ」

 連絡してね、と杏理に言われ、頷く。

荷物を詰め込んだ鞄を、急いで肩にかける。

「じゃあ、後で連絡するね。また明日」

 そう言ってひらりと手を振り、千明の方へ向かう。

「話してる途中だったよね、ごめん」

 千明が申し訳なさそうな顔で言ってくる。

「大丈夫だよ、あの二人だから」

 夏実と杏理は、それくらいで怒るような人ではないことはよくわかっている。

 璃音がそう言うなら大丈夫かな、と呟く千明に、

「夏休みどっか行こうかって話してただけだし」

と笑って言う。

 そっか、と言って黙り込んだ千明。

 次に何を言うのか璃音が待っていると、千明はちょっと考えて、ゆっくりと言った。

「じゃあ、今度の花火大会と夏祭り、二人で一緒に行かない?」

 そう言って少し緊張した様子で璃音の方を伺う千明に、

「え、行きたい! 行こう!」

とうれしそうに答える璃音。

「どっちも久しぶりに行くから楽しみだなー」

 夏祭りは一緒に浴衣着て行く? と千明にわくわくしながら問いかける。

「ん、いいよ、浴衣着よ。……てか、本当にいいの? 俺と二人で」

 ちょっと顔を曇らせて言う千明に、なんでそんなことを言うんだろう、と思いながらも、

「良くなかったら行きたいって言わないよ」

と笑って返す。

 それにほっとしたように笑う千明。

 その笑顔に、何故か少しだけどきりとしたのは、内緒だ。

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