第3話

「ねぇお兄さん?」


 少女は問う、気晴らしで漫画を読みにきただけの僕に。

 「今日はどうしたの?」と問い返す。


「課題は終わった?」

「……あと少し」

「今日中に終わらせられそう?」


 漫画ばかりが並ぶコーナーに一人座りながら、次々と飛ぶ問いに答えていく。

 彼女はと言うと、興味もないであろう漫画コーナーの棚を歩きながら物色している。普段漫画を読んでいる姿を見たことがないのだ。単純に話しかけにきているだけだろう。


「今日中ねぇ……頑張り次第かな?」


 期限の日は近い。なるべく集中しやすい場所で、ささっと終わらし、提出を急がねばーー。

 彼女は僕に、そういえば、と話を切り出した。


「その課題が終わった後って何か予定があったりする?」

「……特にないけど、それがどうしたの?」


 またしても嫌な笑みを浮かべながら、空ちゃんはこう言う。


「私はこの後上京するの。お兄さんもくるかなーって」


 僕は驚きのあまり問い返してしまう。


「え、東京に行くってこと!?」

「そうだよ?変?」


 東京は恐ろしい場所と聞く……。女の子一人で行くには危ない気がする。なにより心配だ。

 しかし………。


「ーー何のために?」

「勉強の為よ。東京の方で有名な科学者の講演会があるの。話を聞きたくて」


 空ちゃんは相変わらずだ。そうやって一人進む彼女は、とても素晴らしいと思う。であるならば、やはり応援する他ないだろう。


 わかった、行くよ。そう返答しようとした時である。口を塞ぐように、一本の人差し指が僕の唇を押さえた。


「ーーっていうのが半分。もう半分は暑いしプールに行きたいなって」


 予想外の発言に驚きを隠せない。

 初めからそう決めていたのだろうか、それとも僕が了承しようとしたからだろうか。


「で?お兄さんは来るの?」


 どこか挑発的というか、これも計算のうちなのか、なんてことを少し考えて、改めて彼女に告げる。


「わかった、行くよ。帰って課題でも終わらせてくるよ」


 僕はパタンと本を閉じ、元あった棚に戻しに行く。彼女もまた背後からついてくるのだった。


「少し考えたね。私の水着姿でも妄想した?」

「してない」


 振り返るまいと本棚だけに視線を向け、ただ本を丁寧に戻すことだけに意識を集中した。

 彼女はまるで僕の心の中などわかっているかのように、少し笑いを零した。

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