彼の空
わたあめ
第1話
―― 私の元カレは空が好きだった
嫌いになった今でも
夏空 冬空 はたまた夕日といった言葉すら
彼を思い出す
なぜ嫌いになったと聞かれても
ぱっとは答えられない
ほんの少しして その時の感情 「大嫌いだ!」といった感情がふつふつと湧き上がってくる
彼は笑顔が素敵な身長の高い
メガネをかけた いわゆる
好青年と呼ばれるタイプではないだろうか
"好きな物はなにか?"と問うたところ
"俺ねぇ…空がすきなんだよねぇ…"
と 人の胸を打つような笑顔で話した時の映像を
いまだに覚えている
私は笑顔も空も大嫌いだ
大体 この時期になると 夏だ夏だと世間がさわぎ
『 夏』というワードに思いを浸らす若者が急増する
好きじゃなかった。
なのに嫌いな要素を持ち合わせた彼に
惹かれたのはなぜだろうか?
LINEの背景を空にした
暑い夏 堤防まで走って空の写真を撮った
空についての知識をたくわえた
全ては彼のためだった
別れは悲しいことのはずなのに
『 空 』といった存在によって美しく、思い出を
取り固めてくれている
そう考えているのは私だけかもしれないが
だから夏は嫌いなんだ
今なら若者たちの気持ちが分かる
それでも思い出に浸るつもりは無い
空を見ると同時に嫌いになるまでの過程が
時間と共に色味を増してしまうからだ
忘れろ。
どうだっていい。
消えろ…。
でも… ありがとう
彼の空 わたあめ @wata_me6
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