【蔵出し】ダークヒーローもの【単発】

アルターステラ

ダークヒーローは金が無い

ヒーロー

それは人々に光を与える存在


嘆き悲しむ人達に救いの手を差し伸べ

危害を与えんとするもの達に立ち向かう強き者

強大な災いを退けて

時には人々の繁栄と平和を象徴する

アイコニックな存在


ではヒーローとは何をもってヒーローたらしめるのか

その定義は曖昧だ





建ち並ぶ建物の合間に無数とも言える道が伸び

次々と行き交う雑多な人混みと喧騒

どこを見渡しても人、人、人

「ウンザリだ」

もう人は見飽きたし、ダラダラ見てても何をしているのかさっぱりだ

だがしかし、俺には金がない

どうにかして今日の食い扶持、今月の家賃代、年税なんぞを稼がなきゃならない

どこかで勝手に事件でも起きないか

でないと稼ぐ手段を画策しないとならなくなる


キャーー!!!

「悲鳴だ やっと出番か」

数日の食糧難で思考回路が散らかったまま

悲鳴の元へ走る

いち早く駆けつけてできる限り迅速に対応する

俺にとっての稼ぎかたはこれしかねえ


「どうした!何があったか手短に話せ!」

現場らしき場所には悲鳴の主らしい小娘1人と

いかにもな ガタイのいいおっさんが1人

「あの…あの…あなたは誰ですか…?」

悲鳴の主の小娘を見やると

どうやらまだ手をあげられた形跡は見受けられない

突然の来訪者に面食らった様子であるものの

誰彼構わず助けを求めてくる様子もないことから

状況は緊迫していないことは明白だった

「なんだ、痴話喧嘩かよ

人騒がせな悲鳴あげやがったから来ちまったが

揉め事とかじゃねぇなら帰るぞ

じゃあな」

踵を返して足を踏み出すも

「まっ!待ってください!助けてください!」

どうやら揉め事ではあったらしい

「あぁん!?

何から助けて欲しいんだテメーは

見たとこ殴り合いの喧嘩でもねぇようだが?」

おっさんを一瞥するも特に表示は変わらない

一言もしゃべらねぇってことは

余裕ぶっこいてるってわけか

「はい……私…ちょっと、この人のオーナーさんに目をつけられたみたいで…その…あの…」

「歯切れが悪いな 要するになんだ?!」

「ひっ…!…えと…あの……これからその、オーナーさんに会わなきゃいけない…みたいで……その、1人じゃちょっと不安…なので……よ、よろしければ…一緒についてきて頂けない…でしょうか…?」

消え入りそうな声とその表情からは、本当に困っている様子だが、話の流れがよく分からない

「なんでそんなのに付き合わなきゃなんねえんだよ 赤の他人だぞ俺は」

「…!…あ…えと…うぅ……そう…ですよね…うぅ……すみません……」

「他に宛がねえならしょうがねえ

ついて行ってやる

こちとら腹減ってるんだから手短にしろよ」

「…う?え…!?…ほんとについてきて頂けるんですか?」

「報酬忘れんなよ」

「ぅえ?報酬?」

「1回飯おごれ それでいい」

「え?あ、はい それなら何とかなると思います」

「よし、決まりだ さっさと案内しろ」


おっさんはガタイに似合わず、

丁寧にお辞儀をして後ろを向いた

ついて来いって感じで歩き出したが

一言もしゃべらねぇ

小娘は意を決したような顔つきで

おっさんについて行く

一応小娘とおっさんに歩調を合わせておく

俺の飯がかかってやがるが面倒なことになった


オーナーとやらはどうやら金持ちらしい

街の喧騒から少し離れて

広い道幅が続く いわゆる高級住宅地についた

しかもおっさんは馬車まで用意してたらしく

豪邸の門を馬車でくぐり、数分間揺られた

マジで腹が鳴るんだが気合いで抑えた


正面らしき玄関を通されたことに驚きが隠せない

隣の小娘はそんなこと気にしてない様子だが

貴族か商家の豪邸に正面から入るのは敷居が高い

貴族や商家のやつらに用があるなら

通常は書簡のやり取りで段取りをつけてから

通用口で手短にことを済ませる

俺はそうしている

本人に会わずに使用人らしきやつとしか

話さないことも往々にある

こいつ、妙に慣れてやがる雰囲気出しやがって

もしかしてそっちのツテでもあんのか?


案内されたのは見たところ

屋敷の3か4等級くらいの応接室

窓が小さく椅子とテーブル

調度品は花挿し瓶と壁掛けの大きな絵画くらいで

華美な印象ではないので正直少しほっとした

テーブルにはティーセットが置かれ

カップに紅茶が注がれた

味は正直よく分からないが悪くない

そんな気がする

小娘をみると紅茶の飲み方に

品を感じさせる手つき

マジで場違いじゃね?俺


少しの時間、小娘と2人で応接室に待たされた

その間に一応顛末を聞き出した

要はオーナーとやらが小娘のある品に目を留めた

だから声をかけられたが、1人では怖いし

付き添いが欲しかった

おっさんのことも聞いてみたが、

突然話かけられてびっくりして悲鳴をあげた

それだけだったらしい

なんともしょうもない現場に来ちまったようだ


しばらく待ったがオーナーは忙しいらしく

代理人のニールダンと名乗るやつが

今回の話し相手らしい

ニールダンは手を擦り合わせて

張り付いたビジネススマイルを小娘に向ける


長々と挨拶文を述べるニールダン

その後もやたらと長い規約だのポリシーだの

滔々と続けやがる

俺はイラついてコツコツと机を叩きそうになる

隣を見れば、ソワソワと落ち着かねぇ小娘

そういや、名前すら知らねぇ


長い話は嫌いだが

言葉の端々から

どうやら小娘の持つ何らかの能力を

こいつらが欲しがっていることだけはわかった

俺は小娘のただの成り行きのつきそいだから

よくわからねぇ

不安気にペンを握る小娘に聞いてみた

「お前、これほんとにやりてぇのか?」

「え?」

「やりたくねぇならやらないだろ、普通」

小娘は目を見開いている


ニールダンが割って入ってきた

「何を言っているんだキサマは!?

オーナーの権力は絶大なんだぞ!?

ここで断れば、こんな小娘1人

すぐにあの世行きだ」

「はっ!?お前こそ何言ってんだ!?

権力者なら小娘を守りやがれ!」

ニールダンは理解できないものでも見るような

覚めた視線で俺を指さし

部屋の隅に待機していたガタイのいいおっさんに

俺の首を切るように指図した

ガタイのいいおっさんは静かにこちらに向かってくる


「おい、小娘。お前はやりたいのか、

やりたくないのか、どっちだ?」

「私は……やりた…く」

「よし!じゃあ腹くくれ!」

俺は叫んで自らの腰に両手を押し当てると

腰から幾何学模様が幾重にも重なって

組み合わさったベルトが出現した


次の瞬間、7色の閃光が部屋を焼き尽くし

俺はお馴染みの姿に変わっていた

やはりこの姿の方が滾る!


いち早く光のショックから立ち直ったおっさんが

腕を振り上げながら俺を捕捉する

全力で振り下ろされる剛腕を

俺は腕を交差して受け止め

止まらねぇ!?


床に両足が沈み込み

バリバリと木の割れる音を響かせて床を突き抜ける

こいつは重てぇ

手足がビリビリと痺れ

言うことを聞かねぇ


キャーー!!!

またあの小娘の悲鳴だ

おっさんの剛腕に抱え込まれ

必死に俺の方に手を伸ばす小娘の姿


されるか!!!

落ちた先の床を踏み抜く勢い

抜け落ちた穴から帰還して

振り向くおっさんの顔面に拳を沈める

よろめくおっさんの顔は俺の拳の形に凹んでいる

腕がわずかに緩んだ隙を見逃さず小娘が抜け出す

なかなか肝っ玉がすわってるじゃねぇか


手加減の必要が無くなった俺の拳を

おっさんの体、いや、サイボーグの体に

無数に沈める続ける

やがて動かなくなり、赤熱する巨大な鉄塊と化した


事の顛末を見届けて

恐怖を張り付かせたニールダンの前に

鉄塊を投げよこす

ジュッ!と熱せられた鉄塊が床を焦がす


「キ、キサマは何者だ!!?」

床に腰を抜かせてガタガタと震えるニールダン

「お前に名乗る名など無い!オーナーとやらはどいつだ?」

「い、言えない!こ、殺される!!」

「今ここで俺が殺してやってもいいんだぜ?」

「キサマ、それでもヒーローか!!?」

「悪に情けをかける生易しいヒーローは、

とっくの昔に辞めちまったよ」

「く、くそぉ!!!どうか!どうかお許しをおぉぉ!!!」

ニールダンが主人を売る決死の覚悟が完了した瞬間

ニールダンの体はバラバラに砕け散っていた

「ヴェア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ーーー!!!!」

凄まじい断末魔と共に



ニールダンを殺ったのは俺じゃない

バラバラに砕けた体は・・・

こいつもサイボーグだったか

ならば、予めトリガーを仕込まれていたのだろう

哀れな奴だ


小娘を見ると気を失っている

ここは危ない

安全なところまで送ってやろう


しかし、これで俺の晩飯は無くなった

まあいい、数日食わなくても生きていたことはある

明日はまともな飯を食える仕事を探そう

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