第32話【ウソでしょ?】

 おにぎりかサンドイッチ、どちらか迷うところだが……。


 小腹が減っているとはいえ、夕食前という事を考慮して軽めに済ませたい。基本的に米派なのであまりサンドイッチは食べないのだが、たまに無性に食べたくなる時がある。


 というわけでサンドイッチの棚へ移動した。


 カツサンドにテリヤキサンド、様々なサンドイッチがある中で、チョイスしたのはレタスハムサンド。シンプルなレタスサンドと迷ったが、やはり育ち盛りの男子高生ならば肉は欠かせない。このハムがあるかないかで、夕食までの腹持ちが違ってくるのだ。


 さて、次はドリンクだ。


 おにぎりの時は決まってコーラだが、サンドイッチとなると、その組み合わせも違ってくる。サンドイッチには緑茶がマストだ。普通に考えればコーラの方が合うのだろうが、これには理由がある。


 幼少の頃、食パンを口いっぱいに頬張り過ぎて、喉に詰まらせた事があった。その時、偶々近くに置いてあった緑茶を飲み干し、九死に一生を得たのだ。あの時の緑茶の爽快な喉越しを、俺は忘れない。緑茶は命の恩人、いや恩飲み物と言っても過言ではない。


 というわけで緑茶を手に取った。


 そういえば、ムサシがおにぎりを喉に詰まらせた時は、コーラで流し込んだっけ? あれから彼女もコーラが大好物になったみたいだし、土産に買っていってやるか。しかし、あの衝撃的な出会いから、もう一ヶ月が経つのか。時が過ぎるのは早いものだ。まさに光陰矢の如し──


 原宿でのスイーツ天下統一作戦から始まって、道場破り、ミーチューバーデビューと、それこそ矢の如きスピードで走っていく彼女を思い返し、少しほんわかした気持ちになったが、実は一つだけ気になっている事がある。 


 それは、武蔵と対決するはずだった、佐々木小次郎の事だ。


 タイムスリップしてしまった宮本武蔵は、あの時代で絶賛行方不明中のはず。だとしたら、小次郎は舟島でまだ武蔵のことを待っているかもしれないのだ。いや、もう一ヶ月経ったんだし、流石に諦めてるか。でも、舟島で待っていなくても、国中をめちゃくちゃ探してる可能性は十分ある。ムサシは「そうかもね」なんて言って、笑っていたけれど……。


 様々な憶測を頭の中で巡らせながら、レジで精算を済ませてコンビニを出た。


 その時、再び衝撃的なモノを目の当たりにしてしまった──


 ハハハ。


 もう笑うしかない。


 だって、だって。


 ゴミ箱に人が……。


 人が逆さの状態で突き刺さっているんだもの。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る