第9話 【パンケーキ】

向かった先はハワイアンテイストが満載の店構え。ここは……なるほど、パンケーキの店か。どうやら、ここ数年に流行したスイーツを制覇するつもりらしく、まず手始めにパンケーキから攻める作戦……いいや、ムサシ的には兵法というべきか。


 兵法、それは宮本武蔵の名書、五輪書にも記されていた、言わば戦略的思考の事だ。


 六十戦無敗を誇った宮本武蔵は、常に思考を巡らせ、戦術的に動く。つまり、このスイーツ天下統一という作戦においても、彼女には何かしらの考えがあるのだろう。


 店内に入り、席に着くと、ムサシはいの一番にメニューを手に取った。


「うわぁ~どれもこれも美味しそー。ネットのレビューで評価が高かったのは、やっぱこの定番ベリー系パンケーキよね。でも、このふわふわのホイップクリームがたっぷり乗ったのも美味しそーだし。うー、悩むぅ~」


 いい。なんかいい。


 メニューを見ながら、あれこれ悩む女子の何と麗しき事。しかも大手グルメサイト、食べロヤのレビューも交えながら選んでいる。うん、とても二週間前まで、四百年前に居たとは思えない。


 さて、俺も何食べるか決めないと。


 メニュー表を開くと、そこには見るからに甘ったるそうなパンケーキの面々が名を連ねている。う~ん……これは確実に体重が理不尽に増加するぞ。


 ミニマリストであるが故、どれだけ豊富なメニューがあろうとなかろうと、選ぶのは一番シンプルなプレーンタイプに限る。しかしながら、驚きなのはその価格だ。プレーンタイプのパンケーキが1500円。そこへトッピングが乗ろうものならば、2、3000円など当たり前だ。1500円あったら、巣鴨でフルーツ大福が3つも買える。やはり土地柄的に場所代も含まれているのだろう。以前、友人と共に入った新橋の駅前カフェにて、コーヒを注文しようと思ったら、何と一杯1000円。逃げる様に店を出た事を思い出した。


「注文決まった?」


 そう尋ねると、「うんっ!」と元気な良い返事に満面の笑みを添えてきた。


 数分後、注文した品がテーブルに並べられた。俺の目の前にはプレーンタイプのパンケーキが皿に一つと、ハニーソースが。そして、ムサシサイドにはベリーソースがたっぷりかかったパンケーキ三段重ね、ホイップクリームがマウンテン盛りされたパンケーキ三段重ね。極めつけに、カラフルなアイスクリームが積み重なったパンケーキ。マジか……。コレ、全部一人で食うのか? 


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