第10話【映える】

 その甘々しい光景はもはや暴力、甘い暴力だ。


「くぁ~……たまんなぁい」


 捉え方によっては、少々エロい言い回しで歓喜するムサシ。うん、いい。多少エロい方がいい。


 彼女はポケットからスマホを取り出すと、カメラモードにして並べられたパンケーキを撮影し始めた。 


「うわぁ~、超映えるぅ。ポンスタにアップしとこっと」


 いつでもどこでも気軽にポンッと写真をアップ出来る、令和の若者御用達のアプリ、ポンスタグラムに慶長の人間がスイーツの写真をアップしている。これはもう微笑みを浮かべるしかない。


 ちなみに彼女のスマホは、母さんの名義で入手した。ま、月額使用料は渡されている生活費の中から支払う事になっているので、無問題。 しかし、本当に凄いな。三日前にゲットしたばかりのスマホを、既に意のままに操っている。流石は大剣豪。にしても、写真すらなかった時代の人間が、映え写真を撮影しているこの姿。う~ん、もはやファンタジー。


「撮影完了! んじゃあ、いっただきまぁ~すぅ。はむ……」


 フォークとナイフを駆使し、パンケーキを食べる剣豪宮本武蔵。何気にその姿を撮影する俺。


「ほわぁ~……はわわぁぁ~…………あまぁ~い。ふぅ~」


 しまった。動画にしておけばよかった。


 言葉にならない萌えが、口元からポロポロと零れ落ちる。まぁ、慶長には団子やら饅頭ぐらいしかなかったんだ。そりゃあ、こんなの食べたら、そんな声も出るよな。


「むふっ……むふふふふ」


 笑顔が絶えない彼女は、あっという間に一皿目のベリーソースパンケーキを平らげた。よし、そろそろ俺も食ってみるか。


 パンケーキを切り分け、一口食べた。


「……うっ!」


パンケーキと言えど、所詮はホットケーキっしょ? という既成概念が一気に覆された。物凄くフワフワで、俺の知っているホットケーキとはまるで別物だ。ムサシがこんな風になる理由が食べてみてわかった。やはり何事も経験だな。一つ勉強になった。


 彼女は既に次のパンケーキに手を掛けていた。


「ふっわふわ♪ ふっわふわ~♪」


 うん。鼻歌すらも可愛い。


 可愛さ全開でパンケーキを食べ進めていると、それを見ていた近くに座る女性客から、「見て見て、あの子食べ方超カワイー」という声が漏れ聞こえてきた。うん、口元がクリームだからけで、確かに可愛いですが、お姉さん達~この子は宮本武蔵なんですよ~。


「ぷっはぁ~! 美味しかったぁ~。すっごくほわほわした気持ちになったよぉ~。ごちそうさまでしたぁ」 


 三皿あっという間に完食。お見事だ。


「よし、じゃあ帰るか」


「待って待って、え~っとぉ……」 


「なんだよ?」


 スマホで何やら検索を開始した。


「次はこのお店!」


 俺の眼前に画面を近づけてきた。


「……クレープ?」


 おいおい、これだけ甘味を極めたのに、まだスイーツ食うのか?


「やっぱ原宿と言えばクレープでしょ! これは絶対に外せないわ。その後は、昭和レトロな喫茶店でプリン・アラモードと、チョコレートパフェ食べてぇ~、その次はタピオカとティラミスとぉ~」


 ご……豪傑過ぎる。

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