第29話 創造者を倒す方法

 エラアは目をゆっくり開くと話し出した。


「方法はある」

「あるの?」

「そうだ。それは私の世界に住むことだ」

「あなたの世界に住む?」

「これから私は……」


 エラアは上に人差し指を向けた。


「あそこにある扉をあける。お前たちはその扉の奥まで行ってコアを破壊してくるんだ」

「コア?」

「それを破壊すれば私たちの世界は作れる」

「何でぼくたちがその破壊をするの?」


「私がやってもいいが、私がやるとすべての破壊になる。だが、お前たちが破壊すればそうはならない。この世界は残り、創造者のいない世界が訪れて、世界を作り直すことができる」


 ウヨネは一度黙り何かを考えている。それからエラアに言った。


「少しみんなと話し合うから待ってて」


 エラアは頷いた。ウヨネたちは話し合った。


「みんなどうする?」


 ウヨネが聞くとダロウが答えた。


「別にいいんじゃねーのか。創造者の破壊だろ。そうすれば俺たちはこの世界を作り直すことができるみたいだしな」


 ワナイは剣を地面に突き刺して答えた。


「あたしはこんな世界じゃ納得できないわ。今度はあたしたちが創造者を操作する番よ」


 魔女は腕組みをしながら言った。


「われがそいつによって生み出されて、そいつの思うように動かさせられているとしたら、われはそいつを葬ってやる」


 ウヨネはみんなの意見を聞き入れて言った。


「わかった。やろう。創造者を倒そう」


 ウヨネたちは空を見上げた。

 それぞれの顔が僕のほうを向いている。にらみつけるような、意を決したような顔で。


 それからエラアのほうを向いてウヨネは言った。


「ぼくたちがそのコアとやらを破壊してくるよ」

「わかった、じゃあ私の近くに寄れ」


 エラアに言われてウヨネたちは近くに寄って行った。

 エラアはみんなが集まったのを確認すると説明をしてきた。


「今から一時的に私がこの一帯の浸食を止める。それから上にある扉を私が開ける。お前たちはその中にあるコアを何をしてもいいから壊してくるのだ」


「コアってどんなやつだ?」


 ダロウが質問をした。


「わからない。モノによって違うものだ。だが、その空間にはそれしかないからわかるだろう」

「どうやってそこまで行くのよ」


 ワナイが疑うように質問をした。


「私が扉を開けると自動的に地面は上に向かって崩れていく、お前たちは浮くようになるからそこまで行けるだろう」

「ふうん、そうなの」

「ほかに何かあるか?」


 ウヨネたちはそれ以上の質問はしなかった。皆それぞれが首を振ったりして答える。エラアはそれを見てから言った。


「じゃあ、始めるぞ」

 

 ウヨネたちは空を見上げて身構えた。


 エラアは空に向かって両手を伸ばして何かを解き放った。エラアの体から空気圧のようなものが広がっていく。


 その圧力によって、真空波は消えてオリガミの動きが止まった。

 紫色の空が切り開かれてその中は黒い光が射している。風がそこに吸い込まれていく。


 ウヨネたちのいる大地が崩れて浮かび始めた。


 オリガミはその影響は受けずにそこで止まったままになっている。

 エラアとオリガミをのぞいてほかの者や大地は上に吸い込まれていく。


 ウヨネたちは空にある扉の中に入りコアを探した。


「あれじゃないのか?」


 ダロウはその方向に指を向けた。そこには黒い空間に浮かぶ虹色の球体があった。


「行ってみよう」


 ウヨネはそう言って泳ぐように進んだ。ほかの者も後に続く。

 虹色の球体まで近づくと、それはとてつもない大きさの物体だった。


「こいつを壊せばいいんだな」


 ダロウはナイフを取り出して言った。ウヨネはそれに答えた。


「そうだね。見たところ怪しいのはこれしかない」


 ウヨネたちはそれぞれ攻撃を始めた。


 ウヨネは拳や蹴りといった攻撃。ダロウはナイフを突き刺し、ワナイは剣で切っている。魔女は炎や氷の矢などで球体にダメージを与えていた。


 ビビッビビッと僕の見ている画面がバグるように、ウヨネたちが攻撃するたびにその画面が乱れていく。


 ……画面が乱れているけど、これも演出だよね。

 僕はそう思ってしばらく放っておいた。


 ウヨネたちが攻撃を繰り返すたびに激しい処理落ちが起きる。僕はマウスでウヨネたちを球体から離れさせてみた。


「な、なんだ。球体から何か放たれて俺たちが離されるぞ」


 ダロウは不思議そうに言うとウヨネは冷静に答えた。


「気にするな、創造者の仕業だろう」


 ウヨネたちは再び近づいて球体に攻撃を仕掛けていく。


 そのたびにパソコンが壊れるんじゃないのかっていうほどの、物凄いノイズがスピーカーから聞こえて来る。


 それはパソコンが痛みで叫んでいる様なそんな感じにも聞こえた。

 僕はマウスで球体を動かしてみることにした。


「ん? コアが離れていくわ」


 ワナイがそう言うと魔女が球体に手のひらを向けた。


「逃すか」


 魔女の手から鎖のような物が出て球体に巻きついた。

 僕はマウスで球体をズラしているけど動かない。僕は巨大なハサミを作って鎖を切ろうとした。


「させるか!」


 そう言いながら、ウヨネはそのハサミに向かって飛び蹴りをくらわせに行く。ハサミは粉々に砕け散った。


 そのあいだもウヨネたちの攻撃が繰り返されていく。


 ……僕はウヨネたちを倒さなきゃならないのか? ゲームをクリアするためにウヨネたちを生かしておいたけど……。


 それともコアが破壊されたらクリアになるのかな?

 うーん、エラアが現れてからおかしなことになったからエラアを消すか。


 どれが正解なんだ?


 何となくだけどウヨネたちがエラアを倒してゲームクリアになるんじゃいかと思っていた。


 製作側が作ったラスボスがエラアだった場合そうなると思うけど。


 もしそうだった場合、僕が手を下してはいけない。ラスボスを倒すのは僕ではなくウヨネたちだ。操作しているのは僕かもしれないけど。


 ほぼほぼ自由にキャラたちが動いてくれるから僕は見守っている立場なわけで。

 ウヨネたちとエラアが手を組むとは思ってもみなかった。


 ラスボスとしてエラアが現れたなら、僕はウヨネたちを誘導してエラアを倒してもらうようにするしかない。


 エラアの強さがどのくらいかわからないが、ウヨネたちがそれに匹敵するくらいのレベルになった。だからイベントとして最後にエラアというキャラを登場させた。


 制作側が意図的にそうなるように作っているなら、僕を倒そうとしているウヨネたちをどうにか説得してエラアを倒すように導かなければならない。


 ウヨネたちは僕を敵だと思っている。

 本当はそう思わせないように物語を作らないといけなかったんだ。


 この世界を破壊しようとするエラアを疑いなく倒すように。

 そのようにしていかないと、このラスボス戦でこういった結果になってしまう。


 主人公たちがラスボスと手を組み、プレイヤーの僕を倒そうとするように。

 

 ウヨネたちの攻撃は続く。


 僕は何も出来ずにこのまま見ているしかないのか。この先の結果がどうなるかわからないが、それがゲームクリアであれゲームオーバーであれ、それを受け入れるしかないのだろうか。


 コアが破壊されてゲームクリアなら、何の物語だったのか疑問が残る。


 ゲームオーバーなもう一度ニューゲームで再開させる。ロードという手もあるが僕の作ったキャラたちが僕を疑っているから作り直すしかない。


 新しいキャラを作って。


 ……だけどせっかくここまで作ったんだ。僕はゲームをクリアするために最後まで手を尽くすしかない。


 いちゲームプレイヤーとして。

 

 ウヨネたちの攻撃をエラアに向けさせるにはどうすればいいだ?


 僕は頭を両手で抱えて考えた。


 はあ……どうしよう……。


 はっ! そうだ。僕が直接ウヨネたちに言えばいいだ。何かを使って。


 例えばそう、手紙みたいにそこに文字を書いて……それで、エラアを倒してくれるように言えば。


 やってくれるかもしれない。ただし、僕がその世界を作ったことがバレるだろうけど。


 ゲームクリアのためだ。

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