第30話 創造者の願い
僕は大きな石板を作ってそこに文字を記した。
――私は君たちの追っている創造者だ。君たちに頼みがある。私を攻撃する前にエラアを倒してほしい。もちろん、これ以上君たちに危害を加えるつもりはない。本当だ。信じてくれ。エラアを倒したら君たちは自由だ――。
これを、ウヨネたちの目の前に置いて……。
ウヨネたちは球体への攻撃を止めて急に現れた石板を見に行った。
どうやら石板の文字を読んでいるみたいだ。
「なんだ? これは」
ダロウが疑わしそうに言うとウヨネは答えた。
「石板のようだが、何か書いてある……創造者?」
ウヨネはその文字を注意深く読んだ。
「創造者からのメッセージか、まさか俺たちに命乞いでもするじゃないだろうな?」
ダロウは吐き捨てるように言った。
「やはり存在したんだ。創造者は」
ウヨネは石板を眺めながら続けた。
「ぼくたちにエラアを倒してほしいと書いてある。そうすればぼくたちに危害を加えたりしないと」
「ふん、信じられるか、そんなもん」
ダロウは再び球体を壊しに行こうとしたが、それをウヨネは止めた。
「待って。創造者に聞いてみよう」
ダロウは立ち止まり勝手にしろというような顔をウヨネに見せる。
ウヨネは石板に向かって話しかけた。
「どうして、ぼくたちがエラアを倒すの?」
ウヨネは僕に対して言ってくる。僕は石板に文字をつけ足していった。
――エラアはその世界での悪の元凶なのだ。そいつを倒さない限り平和は来ない――。
「でもコアを破壊すれば、あなたはいなくなりぼくたちの新しい世界が作れるとエラアは言っていたよ」
――よく考えてみるんだ。私は世界を作れる。君たちが世界を一から作ることも可能だ。何ならどんな要求も答えられる。それにはまず、エラアを倒すことが条件になるが――。
「エラアはあなたが作ったのでは?」
――私は作っていない。勝手に現れたのだ。それで勝手にその世界を破壊し始めたのだ――。
「作っていない? でも、エラアを消すくらいあなたならどうってことないでしょ」
――私が自らエラアを消すことはできない――。
「なぜです?」
――君たちじゃなきゃ倒せないからだ。だから頼む、お願いだ――。
ダロウが話に割り込んできた。
「どうせそうやって俺たちを騙す気だろう。俺は騙されねぇ」
そう言い残してダロウはコアを破壊しに行った。
ワナイがそれに続いて言ってくる。
「あんたの言いたいことはわかったわ。でももう遅いわ。あたしたちを作った時点でね。じゃあね」
ワナイはコアを破壊しに行った。魔女は呆れたように石板に向かって言った。
「まったく下らぬことを。われをもてあそびおって。その代償を痛みで払ってもらおうか」
魔女はコアに手のひらを向けて巨大なつららを放った。そのつららがコアに突き刺さると、閃光が走った。僕は眩しくて目をつぶり画面から顔を背ける。
地響きのような音が聞こえて来た。
再び目を開けると画面の映像が乱れて物凄いノイズがスピーカーから聞こえて来る。
ウヨネは冷徹のこもった声で僕に言ってきた。
「ということだ。ぼくたちはあなたの道具じゃない。ぼくたちはぼくたちで勝手にやらせてもらう。あなたを倒すために」
ウヨネは石板をにらみつけている。それから拳に力を込めて正拳突きを放った。石板が破壊され粉々に砕け散っていく。
それからウヨネはその場から離れて、消えるよな速さでコアに蹴りをくらわした。コアが砕かれ、その破片が上に崩れていく。
ビビビッという音と共に稲妻が走るような映像の乱れが起こる。
『警告、セキュリティが破損しています』という文字が画面中央に出てきた。
え? けいこく? 冗談だよね。ゲームの演出でしょ?
僕は不意にマウスを動かそうとしたがポインターが動かない。
しばらくすると警告の文字は消えて画面の乱れは少し収まっていた。
キーボードのボタンを押してみた。壊れたように反応がないと思ったが、数秒遅れで文字が打たれていく。僕はその適当に打たれた文字を消した。消すときも反応が鈍く数秒遅れている。
何とか文字は打てるみたいだ。
直接エラアを僕が消滅、あるいはウヨネたちを消滅させる。
……そんなことができるのかな?
僕はまずエラアを消滅させるために【エラアを削除する】と入力した。
『エラアを削除することはできません』と画面中央に文字が表れた。
できない? じゃあ、ウヨネたちを削除するか。
【ウヨネ、ダロウ、ワナイ、魔女を削除する】と入力した。
『キャラクターを強制的に削除することはできません』と言葉を変えてまた同じように表示される。
キャラを削除できない。
じゃあ……【ゲームの最初の頃に戻る】と入力した。
『ゲームの最初の頃に戻るは適用されません』と返って来た。
仕方ない一度ロードし直すか。
僕はマウスを動かした。何とか動かせるがポインターの動作が遅い。それでメニュー画面を開いてロードにポインターを持っていき、ロードをクリックした。
すると『セーブデータがありません』と表示された。
え? セーブしたはずだけど……。
壊れた? ゲームが? ……なんで?
画面はコアが半分ほど崩れている。ウヨネたちがコアを破壊するたびに、パソコンが壊れたように正常な画面を失っていく。
まさか本当にセキュリティーが破損しているのか?
もしかしてキャラたちはPCウィルスなのか? ……と、とにかく僕がコアを守らないと。
僕はコアの周りに壁を作った。壁と言っても、絶対にどんなモノも入って来れないという文字をつけ加えての壁。その壁は透明でコアの周りを覆った。
「ん? 攻撃が当たらなくなった」
ウヨネは攻撃を止めてその手前の空間に手を触れて言った。
「壁がある」
ダロウたちもそれに気づいて攻撃を止めた。
「何で急に壁が?」
ダロウは拳をその壁に叩きつけて言った。ウヨネはそれに答えた。
「創造者が守っているのだろう」
「ふん、そうかい」
ダロウは思いきりナイフを壁に向かって突き刺した。が、ダロウはその勢いのまま壁に跳ね返された。
「壁に傷すらつかねえな。まるで分厚い鉛でも刺しているみたいだ」
ワナイも剣を振り上げて思い切り振り下ろした。壁に剣が当たると火花が走り剣を弾いた。それによってワナイもろとも吹き飛ばされる。
「われに任せろ……」
魔女は本を取り出して何かを読み始めた。そのまま手のひらをコアに向けながら言った。
「かなり激しい魔法だ。お前ら少し離れていろ」
僕はとっさに【魔女の本を燃やす】と入力した。文字の一文字が入力されるたびに数秒掛かる。
魔女に言われてウヨネたちはその場を離れた。
魔女の手のひらから光が放たれた。そのあと物凄い爆発がコア全体を覆った。激しい稲妻や突風が吹き荒れる。それと同時に処理落ちがひどくなり映像が重くなる。
稲妻や突風の轟音と共に激しいノイズがスピーカーから聞こえて来る。
「む?」
魔女は本が燃えているの見るとそれを手放した。
「本を燃やしたか」
魔女は恨めしそうに爆破されているコアを見つめた。
僕は剣を作りキャラを攻撃させるように入力したが『プレイヤーはキャラクターに攻撃をすることはできません』と返って来た。
剣は画面内に作られているがその剣はその空間に留まってる。
やっぱりね。僕は直接キャラに攻撃はできない。
隕石を作ってキャラたちに当たりそうになったのは、隕石は自然に流れているから直接じゃない。だからキャラを攻撃できるんだ。
もう一度隕石を作って攻撃を仕掛けるか。
いや、キャラに当たるか当たらないかわからな物を作っても、どのみち、当たるには時間が掛かるだろう。キャラが避けてしまえばなおさら。
ほかに攻撃させる方法は、何か別にキャラなどを作って代わりにやってもらうようにするしかない。
勇者を作ってそいつにウヨネたちをやっつけるように仕向けてみるか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます