第28話 少女の正体

 こんなキャラ作ってないぞ。これもイベントの一環か?

 もしかしたらゲームを進めると、こうなるように制作されているのかもしれない。


 プレイヤーがある程度キャラや物語を作って進めた段階で、ゲーム側が用意しているものを登場させる。


 イベントとして。


 キャラの成長によるものなのか時間に関係するものなのかはわからないけど、ある条件を満たしたから、この現象やこのキャラが出てきたんだ、たぶん。


 適当にキャラを作って放置しても、キャラは勝手な行動を取るから適当な物語ができるわけで、どのみちこのイベントはどういうルートをたどっても出現するようになっているのかもしれない。


 ウヨネたちの攻防は続く。


 少女はそのままゆっくりと歩き出した。歩く度に周りの木や草が複雑な模様に浸食されていく。


 僕の見ている画面を引いてみると地図が歪んでいるように見える。

 再び地図に近寄って、ウヨネたちの行動を見てみることにした。


「おい! こいつら何なんだ?」


 ダロウがナイフでオリガミを切り刻みながら言う。ウヨネはオリガミたちを回し蹴りなどで片づけながら答えた。


「わからない。だがぼくたちを倒したがっているのは確かだ」

「こんなに湧いて出てくるんじゃ、キリがないぜ」


 魔女が空中に浮かび本を取り出して読み始めた。それから手のひらをオリガミに向けた。


「面倒だ」


 魔女の手のひらから真空波のようなものが波紋のように巻き起こり、オリガミを切り刻んでいった。

 

 その一帯のオリガミたちは切り刻まれて姿を消す。消えたのを見届けると魔女は地面に降りた。


 真空波はウヨネたちの周りを広く囲むように吹き荒れている。オリガミたちはそれに当たり消えていく。


「この変な奴らも、あんたがいったようなバグか?」


 ダロウは消えていくオリガミをみながらウヨネに聞いた。ウヨネは少し考えて答えた。


「……さあ。でもこれがバグの一種ならさっき倒したみたいに本体がどこかにいるはず」

「本体か」


 ウヨネたちは周りを見回した。


「変わった奴が来ておるぞ」


 魔女がそう言って、その方向に目をやると少女が歩いてきていた。オリガミが真空波によって切り刻まれているのを気にせずにまっすぐ歩いて来る。


「あれが本体か?」


 ダロウは疑いながら誰ともなしに聞いた。


「かもしれないね」


 ウヨネはそう答えると注意深く少女を見つめる。

 少女は真空波に体を入れると姿をブレさせて中に入って来た。


「やろう、入ってきやがった」


 ダロウは身構える。そのほかの者も身構えた。


「われが片づけてやろう」


 魔女は手のひらから氷の矢を放とうと少女に狙いを定める。


「待って」


 ウヨネは魔女を止めた。それから少女に向かって話しかけた。


「あなたは誰です?」


 少女は不気味な笑みを浮かべながら答えた。


「私はエラア。この世界を破壊しに来た」

「はかい? なぜ破壊を?」

「すでに破壊されているからだ」

「……すでに破壊って、何が破壊されてるんです?」


 エラアは空を指さした。


「上だ」


 ウヨネは上を見たあとエラアに聞いた。


「上? どういうこと」

「そこに、お前らを操作している者がいる」

「そうさ?」

「お前らはある条件のもとで生み出された存在だ。お前らだけじゃないこの世界もだ」


 ダロウは我慢できずにウヨネに聞いた。


「おい、奴は一体何を言っているんだ? 敵なのか? 声が二重に聞こえて来るが」

「さあ、エラアが何者なのかはわからないけど、彼女が言うにはぼくたちは何者かによって生み出されたらしい」


 ウヨネは再びエラアに質問をした。


「あなたはどうして、ぼくたちがその者によって操作されているとか生み出されたってわかるの?」

「それは私がそいつを知っているからだ」

「一体それは誰です?」

「創造者だ。私はそいつらを破壊するために生まれた」

「創造者……」


 エラアは空を見上げながら言った。


「今もこうして私たちの会話を聞いている。私たちがどんな行動を取っているのかも」


 ウヨネたちも空を見回した。


「この空の上にその創造者とやらがいるの?」

「ええ。でも、それは大き過ぎて見ることができない。そこにいたとしても目に見えないくらいの小さな粒がとてつもない間隔をあけて広がっているから」


 ウヨネは疑わしそうにエラアを見ながら言った。


「いるけど捉えるができないってこと? エラアはこの世界を破壊しに来たって言ってたよね。ぼくたちのことも破壊するの?」


 エラアはゆっくりとウヨネのほうを向くと答えた。


「ええ」

「ぼくには理由がいまいちわからないけど、エラアは創造者によって嫌なことでもされたの?」


 エラアは少し黙ったまま立っていた。何かを読み込んでいるみたいにしばらく時間が掛かっている。


「いいえ。私はもともとこういう存在。この世界を破壊するために生まれた。理由をつけるなら私だけが残る記憶の抹消」


 ウヨネは何かを考えている。何かを思い返そうとしている。

 ダロウはエラアに話しかけた。


「なあ、あんた。そんな力があるなら、その創造者って奴を倒そうとは思わないのか?」


 エラアはダロウをにらみつける。ダロウは構わずに続けた。


「だいたいさっきから聞いていれば矛盾だらけだ。この世界を生み出した創造者は破壊されているからあんたがこの世界を破壊しに来た。でもその創造者は俺たちの会話は聞いている。聞こえているのに何もしてこない。それでこのままこの俺たちのいる世界が壊れていく様をただ見ているだけなのか。そいつが生み出した世界なのに」


 エラアは抑揚のない声で答えた。


「何か勘違いをしているようだ。私は誰の命令も受けない。創造者が壊れているわけではない、その手前にある空間が壊れている。私はそこを破壊しに来た。そこを破壊すると自動的にこの世界も破壊される。破壊すれば新たな世界が生まれる。それはもっとより良い場所に」


「……思い出した」


 ウヨネは言った。


「ぼくたちが何でこの世界にいるのかを考えてみたら思い出した。ぼくたちは過去の記憶がないことに気づいた。この世界は作られているんじゃないかと思って、この世界の違和感を探し始めたんだ。それで、探し始めたらさまざまな違和感に出くわしていった……」


 そのとき、ゴゴゴゴゴォーと地面が揺れ始めた。


「隕石だ!」


 ダロウは空を見ながら言った。それに釣られてほかの者も空を見上げる。


 巨大な隕石はすさまじい轟音を立てながら降ってきていた。それはウヨネたちのいる場所に向かっている。


「おい! こっちに落ちて来るぜ!」


 音の振動で周りのオリガミは弾き飛んで行く。


「われに任せろ」


 魔女は本を取り出して手のひらを隕石のほうに向けた。爆弾が破裂するように隕石が爆発していった。それで隕石の勢いは弱まり次第に遅くなっていく。が、何事もなかったように再び隕石は落下し始めた。


「われの魔法が効かぬ」


 魔女は隕石をにらみながら歯を噛みしめた。


 隕石はウヨネたちの目の前まで来た。風が激しく吹き荒れながら木や岩などを持ち上げて吹き飛ばしていった。真空波に囲まれたウヨネたちはその影響を受けないでいる。


 エラアは隕石に向かって、ふぅっと息を吹きかけた。すると隕石はビリビリと歪んで消えた。


 そこには風だけが吹き荒れていてやがてそれも消える。


 ウヨネは静かになったところでエラアに言った。


「エラア、ぼくたちは創造者を倒すためにここまで来たんだ。だから、ぼくたちにチカラを貸してくれないか? あなたも創造者をどのみち倒すのでしょ?」


「いいえ、私は誰かを倒したりはしない、この世界の機能を破壊することそれは私だけが残る記憶。それ以外はすべて消えること」


 ウヨネたちはお互いの顔を見合わせながら首を傾げた。


「ぼくたちの世界を救うことはできないのか?」


 そこでエラアは目を閉じて黙った。


 嵐のように吹きすさぶ真空波だけが音を立てて動いている。隕石によって消えていったオリガミたちが再びウヨネたちのほうへ集まって来ていた。それでも真空波の中には入って来れずに砕け散っていく。

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