第26話 ゲームをクリアする方法

 僕は一度セーブをしてゲームを終了させた。それからスマホに手を伸ばして友人に電話を掛けた。


 呼び出し音が鳴っているあいだ、僕は少し休憩をするため椅子から立ち窓の外を眺めた。


 町はいつも通り賑やかに人が生活をしている。空を見ると日が傾き始める頃だった。


「あ、もしもし僕だけど。あのさ、お前が送ってきたゲーム、エンディングって作ってあるの? スタッフロールは流れるようにしてある? ……うん、うん。わかった。あと、それからさ……」


 そのあと、しばらく友人と会話をした。


「……そう、わかった」


 僕は電話を切った。


 友人が言うには、簡易だけどスタッフロールは作ってあるようだ。制作側はネタバレしないように心がけているのだろう、それ以上のことは何を聞いても答えてはくれなかった。


 僕はパソコン画面に向かい考えてみた。


 また何かラスボス的なものを作ってウヨネたちに戦わせるか。


 それとも、これ以上何もせずに放置すればいいのか。放置すればウヨネたちはこの世界が作られている証拠となるモノを探しにいくだろう。


 そうはさせたくないけど、それをウヨネたちが知ったところでどうなる事でもないと思う。


 やはりこの世界は作られているとウヨネたちが確信したとしても、僕にどんな影響があるというのだろうか。


 ……まさか、僕を本当に倒そうとしているのか? ゲームキャラがゲームプレイヤーを。


 そんなことはあり得ない。ゲームキャラはゲームの中で生きている。僕はその外側にいる。だから何か攻撃みたいなことをしてきても、僕にはそれが当たらない。


 僕は何をバカなことを考えているんだ。たかがゲームじゃないか。


 とにかく、どうすればエンディングなるかを考えるんだ。


 もしかしてキャラたちを全滅させる? ……いや、それでもしエンディングを迎えたとしても、何か違う気がする。まあ試作品だから、わざとそういう設定にしてあるのかもしれないけど。


 僕はそんなことは望んでないし、する気もない。

 普通のRPGならラスボスを倒してエンディングを迎えるという決まりみたいなものがある。


 中にはそうじゃないのもあるけど。


 うーん、もう一度ラスボスを作ってみてウヨネたちと戦わせてみるか。

 とりあえず、ゲームを再開させるか。


 僕はゲームをロードした。


「あなたたちはどう考える?」


 ウヨネは魔女とワナイに聞いた。ワナイは地面に剣を突き立てて言った。


「わからないわ。でも、創造者がいてこの世界を作っているなら、あたしたちが何もしなければ向こうも何もしてこないんじゃないかしら。あたしたちが真相を知ろうとするから、創造者はさっきみたいな者を作ってあたしたちを襲わせるわけだし」


 それからワナイは嫌な物でも見るように空を見上げる。


「つまり、ぼくたちが何もしなければ襲って来ないと」

「ええ、違うかしら」

「そうかもしれないね。あなたはどう?」


 ウヨネは魔女に聞いた。魔女はガラス玉を眺めながら答えた。


「われか? われは、そうだなぁ……この世界は作られているだろうな。どうやってわれが生まれて来たのかという記憶がないからな。お前たちもそうなのだろう?」


 その言葉にほかの者たちが頷く。それを確認して魔女は続ける。


「真実に近づけばわれらを攻撃してくる者たち。攻撃された者が消されたこと……」


 魔女は言葉を止めて辺りを見回した。


「今こうしていても何も起こらないこと。創造者はわれらを生かしておく必要性があるのだろう。この中の誰かひとりでも生きていないといけない。創造者からしてみれば消さないようにさせている。じゃあなぜわれらを消さないのか?」


 魔女以外の者はお互いに顔を見合わせている。


「そうれはこういうことだ。われらは真実を知らないで何事も起こさないように生きていかないといけない。何も疑わず。何も気づかずに。それを創造者は終わりまで見届ける」


 魔女はガラス玉を懐にしまうと腕組みをして続けた。


「しかし、そうもいかない。創造者はこの世界に何か事件が起きなと飽きてしまう、だから、何かを作ってこの世界にそれを放り込んで楽しんでいるのだ。たしかウタガといった男がそんなことを言っていただろう。退屈になるからと」


「創造者の目的は、俺たちを飼いならして、俺たちを使って遊んでいるということか?」


 ダロウは怒りの表情を作ると空を見上げた。


「ああ、まあ、そんなところだろう」


 全員が空を見上げている。僕の見ている画面に向かって闘争心や憎しみといったものを放っている様だった。


 このままだと作られた世界だということが本当にバレてしまう。もしそれがバレたら、キャラたちはその世界に存在するすべての物が僕によって作られた物だと疑いなく思うだろう。


 それで操られているとわかったキャラたちは僕を倒す術を探す。


 僕がまたボスキャラを作り、ウヨネたちと戦わせて彼女たちに勝たせたとしても、今のように何も起こらない。


 つまりエンディングにならない。


 本当にキャラたちが僕を倒さないといけないのか?

 ゲームキャラにやられて僕が死なないといけないのか?


 そういうゲームなのか?


 ……バカバカしい。そんなことあるわけがない。

 このゲームをクリアする方法はほかにあるはずだ。


 もうキャラたちは核心をついている。


 どうにかしないと……。


 ウヨネたちと反対の意見を言える人物を作り、そいつを使ってウヨネたちにその考えは間違えだと伝えるようにさせてみるか。


 でも、この世界はもとからあって作られてなどいないとそのキャラに言わせても説得力に欠ける。


 確実な証拠となるものをウヨネたちは見つけていないから、今はまだ半信半疑でいるのだろう。もう9割くらいは作られていると思っているようだが。


 どうする? もう一度ボスキャラを作り、そいつがすべての元凶にさせるか。


 すでにウヨネたちは世界の外を見ているわけだから、そのようなボスキャラを作ったとしても、創造者によって作られている者だと思うだろう。


 うーん、一度キャラたちの記憶を消すか。


 できるかわからないけど、キャラたちの記憶の一部だけを消す。この世界は何者かによって作られているという部分だけを。


 ……やってみるか。ダメだったらまたニューゲームをすればいいだけだし。


 【ウヨネ、ダロウ、ワナイ、魔女のこの世界は創造者によって作られているという記憶を消す】


 これで消えたかな?


「奴は何だったんだ?」


 ダロウはバグが消えた場所を見ながら話し出した。


「さあ、わからない」


 ウヨネが答えると、ワナイはキョロキョロとウヨネたちを見ながら言った。


「何であたしたちここにいるの?」


 その言葉に一同は沈黙した。最初に口を出したのはダロウだった。


「それは、さっきの奴を倒すためだろ」

「さっき? じゃあどうやってここに来たの?」

「暗殺集団の奴らに呼ばれたんだろ。助けてくれって」

「それじゃあ、その呼ばれる前ってあたしたちはどこに行こうとしてたの?」

「どこにって……?」


 ダロウはその質問に対して考え込むように下を向いた。


「たしか何か目的があったような……」

 

 考えたあげくダロウはそう言うと、ウヨネが答えた。


「ぼくたちは何かを探していたんだ。そのとき暗殺集団のヤミヨから連絡があった。巨大なヌイグルミに襲われているから助けてくれみたいなことで。それで、ぼくたちはそこに向かった。ここまではわかるんだ。でも、ぼくたちがそれ以前にどこに向かっていたのかも、何が目的だったのかも思い出せない」


 ダロウがため息をひとつ吐いて聞いた。


「そもそも、何でヌイグルミやさっきの奴は現れたんだ?」


 ウヨネは考え込むように腕組みをして言った。


「……うーん、何か答えみたいなものがあったような気がする」

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