第25話 揺るがないキャラたち

 ……はぁ、危なかった。


 物語の主人公は誰か決めてないけど、ほかのキャラたちを引っ張っていくから、一応、物語的にはウヨネを主人公にしている。


 だから死なれては困るんだ。まさか自分を死なせようとするとは思わなかった。


 確かにバグを直すには一度消したり専門の人に見てもらうしかない。

 それでも直らない場合もある。

 

 パソコン画面は正常に映っている。マウスポインターを動かしても、どこも問題はない。


 ゲーム内のバグ。僕が意図的に作ったバグが本物のバグ? いや、あれはバグ要素を取り入れたオソロシイというキャラだ。


 だがら実際にはゲーム内でバグが生じていたとしても、それはバグではなく演出? になるはず。


 クソッ! このゲームのクリアを目指すにはどうすればいいんだ!


 僕は髪の毛を掻きむしりながら考えた。


 個人的にはゲームオーバーは避けたい。前にも考えたことだけど、ゲームをクリアするにはウヨネたちに勝利をもたらさなくてはならない。そのためにはラスボスに勝てる要素を与えてやるしかない。


 ウヨネたちは僕に対してこのゲームの世界を消すように仕向けた。


 何でそこまでするんだ?


 キャラたちが何も疑わずにゲームの世界で生活していれば、それで良かったはずなのに、何で真実を知ろうとするんだ。


 知ろうとするから、僕がそれを阻止しようとするわけで。


 ゲームを再開させたときにどうなっているかわからないけど、たぶん、ウヨネが自分の首にナイフを向けている状態で止まっていると思うから、まずそれを阻止しないと。


 かといって、オソロシイを急に消滅させたりしたら、この世界は作られているとウヨネたちに正解を与えてしまう。


 でも、ゲームオーバーになったとしても、また最初からやり直せばいいわけだし。


 とにかく、友人に感想を言うためにゲームクリアが目的だから、どうにかしてウヨネたちをオソロシイに勝たせてやらないといけない。


 僕はロードしてゲームを再開させた。


「やめろ!」


 ダロウはそう言うと、ナイフの刃を握りしめて止めていた。

 それから、ナイフをウヨネから取り上げると持ち変えて身構えた。


「なぜ止めた?」


 ウヨネは言った。ダロウはオソロシイをにらみつけながら答えた。


「そんなことしたら創造者の思うつぼだ」

「じゃあ、どうすれば……」


 魔女は魔法で一度消えて透明な箱から出た。それから地面に降りてウヨネたちにほうに来た。


「簡単だ。われがあやつを倒せばよいだけ」


 魔女は涼しい目でオソロシイを見ている。ダロウは眉間に皺を寄せて聞き返した。


「倒す? どうやって?」

「ふん、まあ見ていろ」


 そう言いながら魔女は懐からウォーターストーンとライトニングストーンを取り出した。


「これは、われの魔力を増幅させるものだ」


 魔女はそれを思いきり空に向かって投げると本を取り出して魔法を放った。


 ウォーターストーンとライトニングストーンふたつの石は光り輝き、世界が生気を取り戻したように蘇っていく。


 いびつな色はなくなり、オソロシイの姿が崩れかかっている。

 オソロシイはウヨネに襲い掛かって行った。


 ウヨネが身構えると目の前を剣が横切る。オソロシイの体に剣が貫通して剣ごと体が吹き飛んだ。


 剣が投げられたほうには、ワナイが剣を飛ばし終わった体勢で立っていた。

 オソロシイの体が剣ごと地面に突き刺さる。


 その体は霧のようになり消えた。


「やったのか?」


 ダロウは突き刺さった剣を見ながらつぶやく。


「そうかもね」


 ウヨネは青空を見上げながら答えた。

 ワナイは地面から剣を引き抜くとその剣を眩しそうに見つめる。


 ウヨネ、ダロウ、ワナイ、魔女が集まると話し合った。


「これからどうする? また違和感を探しにいくのか?」


 ダロウは誰ともなしに聞いた。ウヨネは少し考えてから答えた。


「……もう、みんなはわかっていると思うけど、この世界は作られているんだ。だから、これ以上創造者の好き勝手させないように、どうにかして倒さなくてはならない」


 ため息をひとつ吐いてダロウは言った。


「それはわかるけど。どうやって目に見えないそんな強大な奴と戦うんだ?」

「それをみんなで考えて欲しい」


 するとワナイが手のひらに何かを乗せて見せてきた。


「これをさっき、あいつがやられた場所で拾ったわ」


 そこには丸い小さなガラス玉のような物が乗っていた。ガラス玉の中で霧のようなものが次から次へと色を変えながら存在している。


「それはなんだ?」


 ダロウが聞くとワナイは答えた。


「さあ、わからないわ。剣を取りに行ったときに見つけただけだから」

「綺麗だな。われに寄こせ」


 魔女は手のひらをワナイに差し出した。


「約束だろ?」


 魔女はウヨネのほうを向いて首を傾げておどけて見せる。それに対してウヨネは黙って頷く。


 ワナイは魔女にガラス玉を渡した。魔女はそれを摘まみ空にかざして見つめている。


「それで、どうするよ」


 再びダロウはみんなに尋ねた。


「ここでひとつ整理してみよう」


 ウヨネが言うとダロウは訝しい顔をしながら聞いた。


「整理?」


「うん、ぼくたちの過去の記憶がないのは創造者によってぼくたちが作られている存在だからなんだ」


「ふーん、でもよ。そこまで作れる奴が何で俺たちの過去を作らなかったんだ?」


「創造者はこの世界を初めて作ったんだ。手探りだからつけ忘れた。それかあえてつけなかったか」


「たしか変なことがあったな。俺とバレナイが過去を思い出そうしたとき、急に頭の中に過去の出来事が蘇ってきた。それまでは頭は空だったが」


「そう、そういった違和感があったから、ぼくたちがこの世界は作られていると思うきっかけにもなったんだ。それを消そうと創造者は違和感を増やして行った。ぼくたちにはできるだけわからないように小さな変化を作って行ったんだ」


「この世界が何者かによって作られていると気づいた俺たちを倒すためか」


「うん、この場でぼくたちを消そうと思えば消せるはず。でも、それをしないのはぼくたちに作られている世界だと気づかれたくない。思い過ごしだと感じさせたかった。どうしても」


「俺たちがそれを見てしまうと作られていると確定してしまう。だからか」


「そうなんだ、創造者はぼくたちをすぐに殺せない。それはぼくたちが必要だから。なぜ必要なのか? ぼくたちが存在していないと創造者にとっては何かを得られないからか、何か不都合があるのかもしれない」


「なにかって?」


 ダロウは渋い顔をしながら聞き返した。


「ぼくには頭でしか考えられないけど、みんなには感情というものがあるよね」

「感情?」

「ぼくにはないんだ。感情が。ぼくはアンドロイドだから」

「ふうん、今更驚くことでもないが、それで感情が何なんだ?」


「ぼくたちに感情があるなら、創造者にも感情があるってこと」

「ふん、同情かなんかで俺たちを殺せないってか」

「それか、創造者を操る者がいるか」

「創造者を操る者だと?」


「そう、その者によって創造者は何かをするように命じられているんだ」

「何を命じられているってんだ?」

「わからないけど、それがぼくたちを消させない理由さ」


 そこでウヨネたちは会話を止めてそれぞれが考え始めた。


 確かにウヨネたちの言うとおりだよ。僕は友人からこのゲームの感想を求められているよ。


 ゲームプレイヤーとしてゲームをクリアして初めてそのゲームの感想が言えると思っている。だからゲームクリアの画面が出るまでゲームをするけど……もうここで終わりにして友人に感想でも言おうかな。


 ボスキャラとして設定したオソロシイをウヨネたちが倒してもスタッフロールが流れないからな。


 まさか、エンディングはまだ作ってないのか?

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