第24話 ラスボスの脅威

 オソロシイはウヨネたちに1歩近づいた。ダロウは焦りながらウヨネに聞いた。

 

「なあ、あいつは俺たちを殺すのか?」

「さあね。ヌイグルミにやられたコロシヤさんたちみたいに消滅するかもね。でも、そうはならないかも」

「何でだ?」


「ぼくたちを消滅させたかったら、もうとっくになっている。でもそれをしないのは、あくまでも何かが起こってからでないといけない。突然にぼくたちを消滅させたら、創造者にとっては意味のないものになってしまうのかもしれない」


「意味のない?」

「うん、ぼくたちを消滅させない何か理由があるんだ」

「そんなこと言っても、あいつの仲間はやられたぜ」


 ダロウはヤミヨに顔を向けながら言った。


「たぶんだけど、ヌイグルミによってぼくたち全員を消滅させようとした。でも、ぼくたちが勝ってしまったから今度はあれを作ったんだ。どんなことをするのかわからないけど、辺りの様子をうかがうと、おそらくこの世界の崩壊」


「ふん、世界を壊すか。証拠を俺たちに知られる前に俺たちごと消滅させるっていう寸法か」


「そうかもしれないけど、創造者はぼくたちを生かしておく理由があるんだ。それが何かはわからないけど、その創造者がそうしなければいけない状況にいる」


「ふうん、その状況を利用すれば奴や創造者を倒すことも可能ってことか」

「うん」


 オソロシイはウヨネたちに近づく、1歩1歩近づくたびにその周りが色を変えていく。


「で、どうする。戦うのか?」

「そうだね。ぼくたちでぼくたちを守るしかない」


 ウヨネは身構えた。ダロウもそれに続いて身構えた。

 ほかの者も身構えている。その中でひとりだけ身構えずにいる者がいた。


 ウタガがウヨネたちの前に来て言った。


「待ちたまえ君たち。どんな理由か知らんが動物を虐待してはいけない。あそこにいる犬はきっと怖がっているのだ。だから私に任せなさい」


 そう言ってウタガはオソロシイに近づいた。


「さあ、もう怖がらなくていいよ。私たちは君を襲ったりしない。お腹が空いているなら、私が食べ物を持ってきてあげよう」


 オソロシイはにらみつけたままウタガを見ている。ダロウがウタガに叫んだ。


「おいっ! そいつから離れろ!」

「ははは、大丈夫大丈夫、ほら、こうやって頭をなでてやれば……」


 ウタガはオソロシイの頭をなでようと手を近づけた。すると次の瞬間ウタガは消えた。


 一瞬の静寂が走るとダロウは驚きながら言った。


「あ? あいつがいなくなった」


 ウヨネはオソロシイをにらみつけながら答えた。


「いや、違う。消されたんだ。創造者にとってぼくたちはただのデータに過ぎない。今起きた現象と町で起きた現象。そしてこの世界がところどころいびつな色に染まっている現象をまとめると。あるひとつの事実に行きつく」

「事実?」


「うん、それは……この世界の記憶の破壊。つまりバグだ」


「バグ?」

「ぼくたちがデータの一部なら、あいつはぼくたちを消したり、おかしくさせたり、姿を変えさせたりすることができる」


「よくわからないが、そのバグとやらは俺たちを俺たちじゃなくさせるってことか?」

「そう、でも本来はそう簡単にこんなことは起きないはずなんだ」

「起きない?」


「うん、こんな風にぼくたちに見せることはないし。見せたとしても、ぼくたちの記憶から消すようにしてある。それも、この現象が起きたりしたらすぐに修正されるはず、何事も起きてなかったように」


「じゃあ、何で俺たちはその現象を今見ているんだ?」


「簡単な話さ。これは創造者がわざと起こして放置しているんだ。ぼくたちを停止させるためにあるいは消滅させるために」


 オソロシイは手のひらをウヨネたちに向けて何かを放った。放出された何かをウヨネたちは捉えられない。


「姫!」


 ドラゴンがウヨネとオソロシイのあいだに立った。目に見えない何かを浴びたドラゴンは積み木が崩れるように姿を消した。


 「ドラゴン!」と、ウヨネは叫ぶ。


 ウヨネは驚きはするが感情を出さない。ふつふつと湧き上がるものがあるのにそれが何かを理解していないから、感情を出せないでいるみたいだ。


 ヤミヨが刀を抜いてオソロシイに向かって行った。オソロシイはヤミヨを気にせずにただ前を見ている。


「仲間のかたき!」


 刀を振り下ろしてオソロシイを切った。が、刀はオソロシイの体をすり抜ける。そのままヤミヨの体はオソロシイの体に吸い込まれて消えていった。


「おい! みんなやられちまうぜ」


 ダロウはウヨネに言った。


 ウヨネは飛び出してオソロシイに飛び蹴りをくらわす。オソロシイはなんの反応も見せずにたたずんでいる。ウヨネは再び向かって行こうとしたが動けなかった。


 行動を止めている自分の足を見ると、足がいびつな色になっていて地面にくっついていた。そこから徐々に色が体を浸食し始めた。


 ウヨネとダロウたちはオソロシイを挟んだ位置にいる。

 オソロシイは地面にある草に手を触れた。

 その草は色を変えて蛇のようになり、ダロウたちに襲い掛かって行った。


 ダロウはナイフで切り裂き、バレナイは銃を撃ち、ワナイは剣で突き刺していった。


 破壊したそれぞれの蛇の破片がダロウたちに当たって、ダロウたちを動けなくした。


 魔女は空中に浮きながら、飛び掛かってくる蛇を炎で燃やしていった。

 一通り片づけ終えると魔女は地面に降りた。


「やれやれ。何でわれがこんなことに巻き込まれなければならないんだ」


 魔女以外の者たちは蛇の破片が当たったところから、色が徐々に体を浸食していっている。


 魔女は本を読みながら手をオソロシイに向ける。


 そして手のひらから雷が放たれた。空間を切り裂くような凄まじい音をあげながら、オソロシイを目掛けて飛でいく。直撃するとオソロシイの体は稲妻のように黄色い光がまとわりついた。


 処理落ちが発生してキャラや風景の動作が重くなる。

 

 それから、辺りの動きがときどきカクカクしたり遅くなったり速くなったりした。読み込めないデータを無理やり読み込むよなそんな重みを表しているみたいに。


 稲妻によりオソロシイの体が崩れかかる。それと同調するように空が黒くなっていった。地面は太陽で照らされているように明るい。


 オソロシイの周囲の空間から切り抜いた正方形が空間に落ちて消えていく。その奥にあるのはただの暗闇だった。


 魔女は魔法で水を放った。バチバチと稲妻をまとうオソロシイに直撃するとその場がさらに重くなり途切れ途切れにウヨネたちが消えたり出たりしている。


 ウヨネたちを浸食する色が消えて動けるようになった。ウヨネはダロウたちの元に戻る。


 オソロシイは動けないまま体から何かを放った。


 放ったものは魔女を透明な長方形の箱に封じ込めた。魔女はそこから出ようと色々な魔法を唱えているけど出られない。


「やろう、ぶっ殺してやる!」


 バレナイが銃をオソロシイに向けて撃った。オソロシイはそれを巨大な玉にしてバレナイに跳ね返す。バレナイは吹き飛び消えた。


「バレナイ!」


 ダロウはバレナイのほうを向いた。それからオソロシイに向き直りにらみつける。


 オソロシイの体から稲妻や水が消えていく。

 目を覚ましたようにオソロシイは1歩1歩とウヨネたちに近づいて行く。


 ダロウはウヨネに聞いた。


「なあ、あいつを倒す術はないのか?」

「……ないこともない」

「あるのか?」

「うん、あの者がバグだとしたら、この世界を作っている創造者がこの世界を消せばあの者は消えるかもしれない」

「……それじゃあ」

「そう、ぼくたちも消える」


 ダロウはオソロシイをにらみつけながら言った。


「相打ちか、面白れぇ……それで、どうやって創造者にこの世界を消させるんだ」

「こうするのさ」


 ウヨネはダロウのナイフを奪い自分の首にナイフを突き刺そうとした。


「ちょっと待て!」


 僕は慌ててセーブをしてゲームを終了させた。

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