第23話 ラスボスを作る
こちら側に影響のない安全なところでプレイするからゲームなわけで。
こうして画面を見ながらプレイしているのに、崩された塀の破片がこちらに飛んできて、プレイしている本人にそれが当たって実際に痛みをともなったら、あるいは傷を負ったところから血が出たりしたら、誰もやりたがらない。
そんなゲームがあったとしても発売はできないだろう。
破片が当たらないからプレイできるものであって、実際にそれが当たるのは僕は求めてない。
たとえば画面の向こう側にいる相手と握手できるようになったとしても。僕はそんなゲームを望まない。
望んでなくても、時代が進めばそういったことも当たり前のようになるかもしれない。
物語の途中でキャラに感情移入して同じ気持ちになることもある。それはそれでいい。
ただ物理的に直接プレイヤーにダメージが当たるのがダメなわけで。
実際にゲームの中に入って物理的な痛みを体験できるようになるのは、臨場感があるとはいえ、プレイヤーにとって危険なものになってしまう。
安全が保障されなければならない。
こういった視覚と聴覚以外の感覚を体験できるゲームが開発されて万が一販売されたときには、説明書には実際に体に痛みをともなうこともあると書く必要があるだろう。
それでも無理な話だと思う。それは破片によって打ちどころが悪かったりしてプレイヤーが死ぬかもしれないから。
だから説明書には、ゲームをしている最中にプレイしている本人が死ぬかもしれないと書かなければいけない。
もっと言うと、それを広告で流さなければいけない。
でも、そんなことは絶対に起きないだろうし、起きるはずがない。それは死というものがついているから。
それが発売されたとして、興味本位で購入した人がそのゲームによって死んだ場合。遺族によって制作側は訴えられるかもしれない、説明書とかに危険だと表示していたとしても。
僕は安全なところからこのゲームをプレイしている。だから死なないはずだ。
試作品だからそんな危険が起こるようにしている? ……まさかな。
とにかくこのゲームのクリア条件を考えないと。まず、ウヨネたちにこの世界は作られていると思わせないようにさせるしかない。
この世界を支配している大魔王みたいなものがいて、そいつを倒せば世界は平和になる。
とりあえずそういったところから攻めていくか。
僕を倒しに来る前に、ゲームのラスボスを設定してウヨネたちにぶつけてみるか。
そのラスボスがどんなに強くても、ウヨネたちの勝利で終わる予定にしないといけない。
それに、ウヨネたちがこのゲームをプレイしている僕を倒してゲームクリアになるとも思えないし。
僕はラスボスの設定を考えてみた。
そういえば以前ウヨネたちが透明な壁に当たるまで進もうとしたとき、塀のところで凶悪な魔物がいるから通せないと門番たちに言わせたんだっけ。
じゃあそいつをラスボスにしてみるか。たしかオソロシイという名前だったな。
【この世界を支配しようとしている大魔王オソロシイ。オソロシイは世界を作り変えるため活動する。オソロシイがその辺の物に手で触れれば凶悪な魔物に変わる】
【オソロシイの姿はバクキャラ。ゲームバグによって生まれたキャラで、見る者によっては人や動物、あるいは何かの物質に見える】
【オソロシイはバグを使ってこの世界を支配していく魔物】
曖昧だが、まあこんなもんでいいだろう。
バグキャラと書くと、いびつな色をした人型のようなキャラが画面に出てきた。
僕はオソロシイを森の奥に置いた。
一応ウヨネたちが画面の端にある透明な壁に行かないように、オソロシイにはそれを防ぐように設定しておこう。
適当な設定を書いておけばあとは勝手にゲーム側で調整してくれる。
黒く塗りつぶしたような目を開き、眠りから覚めたオソロシイは周囲を見回している。それから消えた。
シキリたちはヌイグルミを倒したお礼をしようと、ウヨネ一行にごちそうを振る舞おうとしていた。
「では皆さんお疲れでしょう。ヌイグルミを倒してくれましたので、お礼にごちそうをご用意いたしますので、召し上がっていってください」
シキリがそう言うとウヨネはそれに首を振って答えた。
「いえ、ぼくたちはあの門の先へ行きたいので、通ってもいいですよね?」
「え、ええ。もちろんですとも。もうヌイグルミに怯える必要はないので、どうぞご自由にお通り...+*L&。。」
シキリは会話の途中で止まっている。ウヨネはシキリに話しかけた。
「どうしました?」
シキリの体の色がいびつになっていく。色が崩れている様な姿になっていった。
「おい! 周りを見てみろ」
ダロウが言うとほかの者は辺りを見回した。町の人々や町全体がシキリと同様に姿を変えていった。
「どうなっている?」
バレナイが言うとウタガが答えた。
「わかったのだー。これは本当の姿を映し出している現象なのだ。我々は偽の情報を植えつけられていた、だから、先ほどのヌイグルミを倒して真実が明らかになってきているのだ」
バレナイはウタガを疑いながら見た。
「真実?」
「そうなのだ」
シキリは動き出して何かを言った。その眼は正気を失っているように一点を見ている。
「あああああっ...きdが+?v*&#」
ウヨネは振り返って言った。
「みんな、門の向こうへ行ってみよう」
ウヨネたちは門の崩れたところを通って門の先へ向かった。
門の先は草原がただ広がっている。ウヨネたちはそのまま真っ直ぐに走って行った。
地面はところどころ正方形に色が変わっている。空も正方形にところどころで色が変わっていく。
ウヨネたちの目の前に突風が吹いて、その足を止めた。
「風が」
そう言いながら、ウヨネは足を進ませようとしているけど風によって後ろへと引きずられていく。それ以外の者も後退させられていく。
「ん? あいつは誰だ!?」
バレナイの言葉に皆がそれに気づく。いびつな色をしているその者はただその場に立っていた。
「人なの?」
ワナイが言った。続けてウタガが言う。
「ひと? 違う違う。よく見てみたまえ、あれは犬なのだ」
「われには……大きなダイヤモンドに見える」
と魔女が答えた。ドラゴンは驚きながら言った。
「俺さまには巨大なドラゴンがそこにいるように見えるが?」
ダロウはウヨネに聞いた。
「これは一体どういうことだ?」
ウヨネはダロウの問いに答えた。
「ぼくたちには、あれがそれぞれ違う形に見えているんだ。人やほかの動物、あるいは物質に。ぼくには青い球体に見えるよ」
「なんでそんなことが」
「ぼくたちがこの世界は作られていると思った瞬間から、創造者はぼくたちを真実に近づけない様にしていた。でも、色々と手を尽くしたけど、結局その考えからぼくたちを遠ざけることができなかったんだ。むしろ余計にその考えを強く植えつける結果になってしまった。だから、あれを作ったんだ」
「あれは何なんだ?」
「あれは、ぼくたちの意識をなくして、作り変えるために作られた者。さっき町の人々が急におかしくなったのは、ぼくたちが真実に近づき過ぎたために起きた現象。何だかわからないものや事を起こすことで、ぼくたちに恐怖を与えるようにしている。真実を知ろうとしているぼくたちに」
「恐怖?」
「恐怖心は真実を遠ざける。怖いことをできるだけ遠ざけようとする場合、今の現実を信じて恐怖を忘れようとするんだ」
「ああ、なるほど。本当の真実を求めていくと避けられない恐怖に襲われる。だから、それから目を背けて心地よい場所に留まるようにする。俺たちが真実から目を背けるために起こした現象。そういうことか?」
「まあ、そんなところだね」
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