第22話 嵐が過ぎ去り
塀や家の壁が崩れて瓦礫のようになっている。
ウヨネ、バレナイ、ウタガ、魔女、ワナイはその光景をただ眺めていた。
ドラゴン、ダロウ、ヤミヨは気を失っている。
誰も言葉を発しなかった。
嵐が過ぎ去った静けさがそこに残り、それから平常へと戻って行った。
ウヨネはドラゴンを起こしに、バレナイはダロウを起こしにいった。
「大丈夫かドラゴン」
ウヨネはドラゴンを軽く揺すって起こした。
「……う、うう」
呻きながらドラゴンは立ち上がるとウヨネに言った。
「は、はい、すみません姫をお守りすることができませんでした」
「そんなのはいい。傷を見てやろう」
ウヨネはドラゴンの背中に回り込んで背中を見てみた。
「……ひどいな」
「う、うう」
ドラゴンは痛みでその場に伏せた。
「待っていろ、ぼくが魔女さんに頼んでみる」
ウヨネは魔女のところに行った。
ダロウは壁にもたれかかるようにして倒れている。バレナイはダロウを起こした。
「おい、大丈夫か?」
ダロウは目を覚ますと痛がりながら自分の腕を押さえた。
「グッ、腕をやられた」
「そうか」
バレナイは魔女のほうを向いた。
魔女はウヨネに連れられてドラゴンのところに来ていた。
「われがこいつの傷を治すのか?」
魔女は面倒くさそうに言った。
「うん、頼むよ」
ウヨネが懇願すると魔女はため息をひとつ吐いて言った。
「ひとつ貸しだからな。もし綺麗な石を見つけたらわれによこせ。それが条件だ」
「うん、わかったよ」
魔女は本を取り出して、手のひらをドラゴンの背中に向けた。
すると、白い光がドラゴンの傷口を塞ぎもとに戻した。
本を閉じて魔女は言った。
「直してやったぞ」
ドラゴンは立ち上がると魔女に言った。
「すまない」
「礼ならお姫様に言え」
「おい!」と言いながらバレナイが魔女のところに来た。
「ダロウを助けてやってくれないか?」
魔女は手のひらを差し出して答えた。
「じゃあ、よこせ」
「あ?」
「お前らの持っているウォーターストーンをわれによこせ、そうすれば助けてやる」
「ああ、わかった。くれてやる」
「ウォーターストーンが先だ」
バレナイはダロウが持っているウォーターストーンを取りに行った。
「ウォーターストーンを寄こせだと?」
ダロウは痛みながら言うと、バレナイは魔女のほうを向きながら答えた。
「ああ」
ダロウは魔女をにらみつける。
「やろう……」
「どうする?」
バレナイが聞くと、ダロウはしぶしぶといったように懐からウォーターストーンを取り出してバレナイに渡した。
「持って行け」
「ああ」
こうしてウヨネ一行は集まって周囲を見回していた。
ダロウが疲れたように言った。
「暗殺集団の奴らはみんな死んだのか?」
ウヨネはそれに答えた。
「ぼくはヌイグルミとやらに食われてコロシヤが目の前で消えたのを見たよ。物体が消えたんだ」
「物体が消えた?」
「うん、よくわからないけど、僕たちは死ぬと消滅する仕組みになっているらしい」
「それも違和感てやつか?」
「そうだろうね。消滅するってことは、ぼくたちは明らかに作られていることになる。データとして」
そのとき、ガラッと瓦礫の山が動いた。
そこから出てきたのはヤミヨだった。ヤミヨは立ち上がると苦しそうに腹を押さえて跪いた。
ウヨネたちはヤミヨの元へ向かった。
「大丈夫か?」
ウヨネはヤミヨに聞くとヤミヨは歯を食いしばり痛そうにしている。
ウヨネは魔女に言った。
「ヤミヨさんを治してやってくれないか?」
「直してやってもいいが、条件はわかっているな。われに……」
「うん、綺麗な石を見つけたら渡す」
「それならよい」
魔女はヤミヨを治した。
ヤミヨはキョロキョロを辺りを見ながら言った。
「コロシヤさまは?」
ウヨネはそれに答えた。
「コロシヤは消えたよ」
「消えた?」
「ぼくを庇って」
「……そうですか」
ヤミヨは落ち込むように下を向いた。
「何があったの?」
ウヨネはヤミヨに聞いた。ヤミヨは虚空を見上げると話し出した。
「あんたたちと別れたあと、森を進んでいたら町があった。そのまま通り過ぎようをしたら町の人に止められて……」
ヤミヨは崩れた塀を眺めた。
「そこの門を開けてはいけないと言われた。開けたらヌイグルミが来てこの町を破壊するからと」
「破壊?」
ヤミヨは頷いて続けた。
「あたいたちはどうしても門を開けてもらえるように町の代表者の家に行ったんだ。その人と話している途中で、ヌイグルミが門を突き破って来たんだ。最初は2体で何とか戦えていたけど、途中で2体が合体して、さらに大きくなった」
「はぁ」とヤミヨは疲れたようにため息を吐いた。ウヨネはその続きを言った。
「それで手に負えなくなってぼくたちを呼んだ」
ヤミヨは力なく頷く。
「おお! これは」と誰かの驚く声が聞こえた。
ウヨネたちはそのほうへ向くと町の人々が集まって来ていた。
「静かになったので来てみたんですが、もしかしてヌイグルミを倒したんですか?」
町の代表者シキリが言った。
「はい」
ウヨネが答えると町の人々が歓声を上げた。喜びながらシキリは言った。
「そうですか。それはありがとうございます」
ふうん、最初どうなるかと思って恐怖や痛みなんかをキャラにつけなかったけど、初期の段階でそういったものがついているキャラもいるんだな。
ワナイやウタガには強制的に痛みなんかをつけたけど。
それと何人かのキャラが消滅したな。キャラがやられたらその場で動かなくなるのかと思ってたけど、ゲーム側では消滅させる設定になっているみたいだ。
たぶん僕がもう一度同じキャラを作れば復活するのだろうけど、ここは消滅させたままにしておこう。
前にも考えたことだけど、ゲームクリアの条件はウヨネたちが僕を倒すこと。でも、僕はここにいて友人から送られてきた試作品のゲームをしているわけだから、僕がそのクリア画面を見る必要がある。
感想を言うためにね。
そうなると僕を倒しに来させなくして、ゲームクリアの条件を変えなければいけない。
ウヨネたちが僕を倒したがっているのは、この世界が作られているからと思っているからだろう。だとするとそう思わせないようにさせるしかないわけだ。
……うーん、単純にウヨネたちに対抗する強敵を作ってそいつをウヨネたちが倒せばゲームクリアになるなら、もうなっているはず。
ヌイグルミをウヨネたちが倒して町を救ったから。
でも、こうして画面を見ていても、ゲームクリア的なものが画面に映らない。
ヌイグルミがラスボスと設定はしていないから何もこらないのかもしれないが。
意外に強敵だったヌイグルミもやられたしな。もしヌイグルミがウヨネたち全員を消滅させていたら、クリアになるのかそれともゲームオーバーになるのか、それすらもわからないからなぁ。
友人に聞いてみるか……いや、聞いたところで教えてはくれないだろう。
たぶんだけど、こうやって悩むようにさせるのもゲーム制作側の狙いなのかもしれない。
そもそも、クリア条件が僕を倒すことだとも思えない。ウヨネたちの世界の外にいる僕にどうやって攻撃を与えるのだろう。
もし与えられたら……ホラーだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます