第20話 門の向こうに潜む魔物
コロシヤたちはお互いの顔を見合わせた。それからコロシヤは聞いた。
「もんすたー? どんな姿のモンスターなの?」
女性はその質問に固まってしまった。
【モンスターの姿は巨大なヌイグルミ】
「大きなヌイグルミたちだよ」
「ヌイグルミ? 何でヌイグルミが襲って来るの?」
「それは……」
【捨てられたヌイグルミの怨念】
「捨てられたヌイグルミの怨念だよ」
「ふうん」
コロシヤたちはその場で話し合った。
「どうなさいますか?」
ヤミヨはコロシヤに尋ねた。コロシヤは少し考えてから答えた。
「そうだねぇ。これも違和感のひとつかもしれないな。でも、おいらたちがその門を開けて先に行ったらヌイグルミがこの町を破壊しに来ないとも言い切れない」
「そうですね」
「もう少し、ヌイグルミのことをほかの人にも聞いてみようか」
「はっ」
コロシヤたちは宿屋に入って話しを聞くことにした。
店の中は全面が木でできている。カウンターが置かれていて、その奥に店主が座って新聞を読んでいる。
店主はコロシヤたちを確認すると新聞を折りたたんで立ち上がった。
コロシヤたちは店主に近寄った。
「いらっしゃい」
店主が声を掛けるとコロシヤは店主に聞いた。
「ちょっと聞きたいことがあるんだ」
「はい」
「この町の門を開けるとヌイグルミが襲って来ると町の人に聞いたんだ。本当か?」
「ええ、そうです。大きなヌイグルミが町を破壊しに来ます」
「そのヌイグルミを見たことはあるの?」
「ええ、それは恐ろしい姿でした」
「どんな姿だったの? ヌイグルミって」
店主は少し考えるとため息を吐いて返した。
「……さあ、わかりません」
「見てないの?」
「いや見ているが色々いますから」
「どれでもいいよ。何か特徴的なものが聞きたいんだ」
どんな姿って聞かれてもなぁ。僕は一般的なぬいぐるみの画像を検索した。様々な動物のぬいぐるみが映し出される。僕はそこから強そうなものを適当に選んで書いた。
【ヌイグルミはオオカミやトラの姿をしている。家くらいの大きさ。人々によって捨てられた恨みがある】
【オオカミは全身の色が赤黒。トラは全身の色が青黒】
僕はそのヌイグルミたちを門の向こう側に置いた。
【コロシヤ一行が門に近づくとヌイグルミたちは門を破壊しに来る】
それから門を作りヌイグルミたちが来るほうに置いた。門の大きさはヌイグルミたちの4倍。
コロシヤたちには、なるべく自然に事が起きていると思わせなければならない。
「特徴ですか……そいつはオオカミやトラの姿をしていました」
「オオカミやトラ。ふうん、それで門の先には行ってはいけないって聞いてたど、そのヌイグルミたちがこの町を破壊しに来るから」
「ええ、絶対この町の先には行ってはいけません」
「おいらたちがそいつらをやっつけるとしたら、通してくれる?」
「あなたたちがどういった方なのか知りませんが、それでもダメです。行ってはいけません」
「おいらたちはそのヌイグルミを退治しているものだよ。この町がヌイグルミに襲われているっていう報告があったから、それでここに来たんだ」
店主は疑うようにコロシヤたちを見ている。
「……そうですか。ですが、私では決めることができませんので、この町を取り締まっている……」
店主はそこで言葉を止めて固まっていた。
コロシヤたちは店主が何か言うのを待っている。
店主がフリーズしたのか? じゃあこの町を取り締まっているやつを作らないといけないか。
【マダナイの町を取り締まる男、名前はシキリ。大きな家に住んでいる】
「どうしたの?」
コロシヤは店主に向かって話しかけた。
「あ、ああ、シキリさんに聞いてください」
「シキリ?」
「はい、男性の方でこの町の代表者です。ここから出で右に行くとひときわ大きな家はあります。そこがシキリさんの家です」
「ふうん、わかった」
コロシヤたちは店を出てシキリの家に向かった。
シキリの家にコロシヤたちが着くと、その玄関からシキリが出てきた。赤い布の服を着ている。
コロシヤはシキリを呼び止めた。
「ちょっとすみません」
シキリはコロシヤたちに顔を向けた。
「はい」
「あなたがシキリさん?」
「はい、そうですが」
「町の人たちに聞いたんですけど、ヌイグルミがこの町を破壊するから門を開けられないと」
「そうです。門は開けてはいけない決まりなのです」
「おいらたちどうしてもその門の先に行きたいんだ、だから通してくれないかな」
「あなた方がどういった方なのかわかりませんが、門を開けたらヌイグルミたちによってこの町は破壊されてしまいます」
シキリは辛そうな顔をコロシヤに見せる。
「申し遅れてすみません。おいらたちはそのヌイグルミを退治しに来た者なんだ」
「ヌイグルミを退治しに?」
「そう。だから、その門を開けてくれないかな」
シキリは斜め下を向いて何かを考えている。それからコロシヤたちに向き直り言った。
「できればそうしたのですが、あなた方が本当にヌイグルミを倒せるほど強いお方たちなのかが疑問です。よかったら、その実力とやらをみせてもらいたいのですが」
コロシヤたちはお互いに顔を見合わせた。
「門を開けて、あなた方がヌイグルミによってやられてしまったら……私や町の皆さんが悲しい思いをしますので」
そのとき、ドーンと音が鳴った。
音と共に町全体が揺れている。ドーンと再びなる。
「ま、まさか」
シキリが慌てながら言った。
「何が起こったんですか?」
コロシヤが聞くと。遠くのほうから声が聞こえてきた。それは悲鳴を上げて逃げて来る人々。
何かから逃げて来る人々のひとりをシキリは捕まえて聞いた。
「いったい何があったんだ?」
「い、急いで逃げてください!」
「どうして?」
「ぬ、ヌイグルミが門を破って来ているんです!」
「そんな……」
ドーンと音がするたびに地面が大地震のように揺れ動く。
シキリはすがるようにコロシヤたちに言った。
「す、すまないが、あなたたちを信じて奴らを止めて来てはくれないか。都合のいいことを言っているのはわかっている。だが、町を破壊されては元も子もない。お願いだ、我々を助けてくれ」
コロシヤたちはお互いに頷いて、人々が逃げて来る方向へ消えるような素早い動きで向かった。
門は家の4倍以上の高さをしている。石造りの門はヒビが入り、今にも崩れそうになっていた。
「ん? あれが門か」
遠くに目を向けながらコロシヤは言った。
ドーンと門が押されるたびにヒビがひどくなっていく。
ヌイグルミは門を飛び越えて町の中に来ようとしているが、塀の高さによって来ることができない。
そのときに門の上のほうからチラリとのぞかせるヌイグルミの耳や尻尾がその巨大さを物語っている。
コロシヤたちは門の手前まで行き身構えた。
逃げ惑う人々はもうそこにはいなく、コロシヤたちだけが残った。
コロシヤ、ヤミヨ、ノツキ、シカクはその門を突き破って出で来るモンスターを冷静に見つめていた。
ドカッドカッ! とヌイグルミたちが門に何度か体当たりするとヒビが入り崩れ落ちて来る。そのヒビ割れた隙間からのぞく赤い目がコロシヤたちを捕らえた。
すると、ヌイグルミたちは諦めたのか振り返り引き返して行った。
しーんと辺りが静かになった。コロシヤたちは身構えを解かずにその門の先にいる者をにらみつけている。
しばらくすると静寂の中から門に向かってヌイグルミたちが迫って来た。それは地面を駆けるたびに地響きがだんだん大きくなってくる。
そして、その門はヌイグルミたちによって突き破られた。
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