第18話 団長の決断

「ボスはどっちだ。ぶっ殺してやる!」


 バレナイが銃を構えながら銃口をノツキとヤミヨに交互に向けている。

 ウヨネは暗殺者たちを見ながら言った。


「たぶん、どっちでもないと思うよ」

「違うだと」

「うん、だって、ボスは急に襲ってきたりはしないと思うし」

「そうか? わからねーぜ」

「じゃあ、彼らに聞いてみよう」


 そう言うと、ウヨネはノツキに近づいてノツキの体を揺すった。

 ノツキは目を覚ますと、ウヨネに目掛けてピアノ線で首を絞めようした。ウヨネはそれを手刀で切った。


「もう諦めなよ」


 ウヨネはそう言うと相手の持っているピアノ線を奪い取り、それを使ってノツキの両手と両足を縛った。それから、残っているピアノ線をダロウに渡して言った。


「ダロウさん、もうひとりもそれで縛ってくれる」


 ダロウは黙ったままヤミヨを縛りに行った。


「あなたに聞きたいことがある」


 ウヨネはノツキに質問をした。ノツキはウヨネをにらみながら見ていた。


「あなたたちは何者なの?」


 ノツキは何も言わない。ウヨネは質問を続ける。


「あなたがボスなの?」

「違う」

「じゃあ、向こうに倒れている人かな?」

「違う、あいつでもない」


 ウヨネは振り向いてバレナイに言った。


「違うって」


 バレナイは頷いて腕を組んだ。ノツキは苦しそうに話し出した。


「我らのお頭はコロシヤさまだ」

「知っているよ。ぼくたちを襲ってきた暗殺者に聞いたんだ。あなたはその暗殺者の名前を知ってる?」

「……」


 ノツキは黙ったまま下を向いた。


 暗殺者の名前ってつけてなかったっけ?


 【最初にウヨネたちを襲った暗殺者はシカクという名前】と書いた。


「シカクだ」

「ふーん、シカクね」


 バレナイがウヨネに聞いた。


「何で今さら奴の名前を聞いたんだ?」

「彼はぼくたちを襲った暗殺者が何でその人だってことがわかったのかな?」

「俺たちを襲う奴がそいつしかいなかったんだろ」

「集団だよね。ぼくたちが確認した人は今までで3人だけだよ。ボスを合わせても4人。少ないと思わない?」

「そういう少数の集まりなんだろ」


 ウヨネはそこで会話を切ってヤミヨのほうに行った。

 ダロウはウヨネが近づくとボソッと言った。


「まだ寝ていやがる」

「ふうん」


 ウヨネはヤミヨの体を揺すった。

 ヤミヨは目を覚ますと体をもがきながらウヨネたちをにらみつけた。


「あなたに聞きたいことがあるんだ」


 ヤミヨは目を血走らせて、咬みつかんとするように体を前のめりにさせている。


「名前は?」


 ウヨネの質問に対してヤミヨはそっぽを向いた。


「コロシヤって人がボスなんでしょ」


 その名前を聞くと、ヤミヨはウヨネをにらみつけながら言った。


「なぜコロシヤさまを知っている?」

「ほかの暗殺者に聞いたからだよ。で、そのボスはどこにいるの?」

「居場所?」

「うん」

「それは……」


「おいらを呼んだ?」と階段の上から少年の声が聞こえた。ウヨネたちは階段を見上げた。


 そこにいたのはローブを着た少年がウヨネたちを見下ろしている姿だった。

 ウヨネは階段のところまで歩いて行ってコロシヤに聞いた。


「あなたがコロシヤさん?」

「そうだよ」

「まずは謝るよ。彼らがぼくたちに攻撃を仕掛けて来たから仕方なくやったことなんだ」


 コロシヤはノツキとヤミヨを見たあとウヨネを見て言った。


「君たち、ウヨネ一行だろ」


 その言葉にバレナイが反応した。


「どうして俺たちのことを知っている?」


「君はバレナイと言ったかな。そのほかにも、ウタガ、ワナイ、ダロウ、魔女、ドラゴン、全員の名前は知っているよ。何でかはわからないけど。急に君たちの持っているライトニングストーンを奪うために、君たちを倒す目的が頭に浮かんでね」


 バレナイとダロウは顔を見合わせた。ほかの者たちは身構える。

 コロシヤは軽く笑うと続けた。


「おいらと戦うならいつでもやるけど」


 そう言うと、クナイを両手に持ち身構えた。


「待って」


 ウヨネはそれを止めてコロシヤに聞いた。


「ぼくたちは争いに来たんじゃないんだ」

「え? じゃあ何しに来たの?」

「知恵を貸してもらいに来たんだ」

「ちえ?」

「うん、そうなんだ」

「そう、わかった。それで何が聞きたいの?」

「この世界を作った者を倒せる方法」


 会話が止まり一時の静寂が訪れた。誰も何も言わない。コロシヤはその問いに考えあぐねている。ウヨネたちはコロシヤの言葉を待っていた。

 

 コロシヤはニヤリと笑うと答えた。


「何を言うかと思えば、この世界は作られているって? どうしてそう言えるの?」


 ウヨネは言った。


「コロシヤさんはどうやって暗殺者になったの? どうやってここに来たの?」

「えっ? それは……」

「わからないでしょ、ぼくたちも同じなんだ。たぶんこの世界にいる人たちはなぜか過去を思い出せない状態になっている。もしくはもともと過去なんて存在していないか」


 コロシヤはあごに手を当てて思い返している。


「確かに思い出せない、というか記憶にない。これは一体?」


 唸りながらコロシヤが言うとウヨネは答えた。


「ぼくたちは誰かに作られてこの世界にいるんだ。ぼくたちはその者を創造者と呼んでいる」

「そうぞうしゃ?」

「うん、ぼくたちが創造者を倒そうと作戦を試みたら暗殺者が現れた。つまりあなたたちがぼくたちの前に現れたんだ」


 ウヨネの言葉に何回か頷いてコロシヤは言った。


「なるほどね。それはおいらたちが君たちを仕留めてくれるように、この世界を作った創造者とやらの仕業だと言うわけだね」

「うん」


「信じがたいけど実に興味深い話だね。でもそれが本当だとしたら、おいらたちの会話はすべて聞かれていることになる。たとえそいつを倒す作戦を立てても、その作戦を対策されてしまう。気づかれずに作戦は立てられない」


「そういうこと」

「ふうん、でもわからないなぁ、そこまで力のある者が何でわざわざおいらたちを作って君たちを倒さなきゃならないんだ? この世界を作れるなら君たちを葬ることも簡単だろう」


 そこでウヨネとコロシヤは会話を止めて考えた。


「わかったのだー」


 元気な声でウタガが言った。


「創造者は宇宙の外側からやって来たのだ。宇宙の外にいた創造者は誰かにこう言われた『キャラを作って生活をさせなさい』と、つまり我々を作り見守るように言われたのだ」


 その言葉に対してコロシヤが尋ねた。


「ふーん、じゃあどうして、おいらたちを戦わせたの?」

「簡単なことなのだ。我々が何事も起こさなく普通に生活をすると、見ている本人は退屈に感じる。だから争わせたりさせたんだ」

「そうなると、おいらたちが君たちを襲うのは、暇つぶしってこと?」

「まさにそうなのだ」


 ウヨネは話し出した。


「奇妙な現象が起きたんだ」


 コロシヤは首を傾げて返した。


「奇妙な現象?」

「うん、ぼくたちはこの世界がどこまで続いているのか確かめに行ったんだ。でも、途中に塀があって通れなくなっていた。ぼくたちはそこを通ろうとしたけど通れなかった」


「ん? どこが奇妙なの?」


「そこには門番がいてぼくの質問に対して返答が1回1回止まるんだ。そのほかにも、ドラゴンが飛んで塀を越えようとしたら強い風が吹いてきたり、ケーキを食たべて味がしなかったと思ったら、急に味がついたり」


「なるほど、それで今度はおいらたちが急に現れたってわけなんだね」

「そう」


 コロシヤは腕を組んでウヨネに聞いた。


「ひとつ聞きたいとこがある」

「なに?」

「その創造者をもし倒したらどうなる?」


 ウヨネは首を横に振って答えた。


「それはわからない。倒したら、また新しい世界にぼくたちは移動させられるか、ぼくたちも一緒に消滅するか、何も起こらないか」


 うーんと唸りながらコロシヤは首を傾げた。


「何でそこまでして創造者を倒したいの?」

「真実を知りたい」


 しばらく経って、コロシヤは階段を下りて来て言った。


「わかった、君たちに協力するよ。おいらたちに何ができるかわからないけど」

「うん、ありがとう」


 ウヨネは振り返って言った。


「そう言うわけだ。だから、悪いけどその人たちの縛っているものを誰かほどいてくれないかな」


 こうして、ウヨネたちは洋館の外に出た。

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