第16話 暗殺者の襲撃
ふうん、風が吹いてなくて鳥もいなかったのか。
森と書けばそれらは勝手についてくるものと思っていたからな。
どうする? 今から森に風が吹くようにさせるか。それとも鳥を作り森に置くか。
……いや、今それらを森に置いたら、ウヨネの言葉に反応してぼくが作ったものだと思われてしまう。
うーん、どうする?
「うわっ!」
一番後ろを歩いていたバレナイが声を上げた。
「どうした?」
ダロウはバレナイに近寄った。
「ぐっ、何かに腕を刺された」
バレナイの腕から血が出ていた。
その場にいた全員が警戒しながら辺りを見ている。
「あ! あそこに誰かいるのだ!」
ウタガは近くの木々に指をさした。その方向に全員が向く、だが、そこには誰もいない。
暗殺者はワナイに飛び掛かった。ワナイはとっさに剣で対抗した。
カキンッ! とアイスピックと剣がぶつかる。
そのとき、ウヨネは消えるような速さで暗殺者のみぞおちに拳をくらわした。暗殺者はその場に倒れた。
「な、何者だ!」
バレナイは腕を押さえたまま暗殺者に近寄った。
「さあ」
ウヨネはそう言って辺りを注意して見ている。
「あたしを殺そうとしてきたわ」
ワナイは暗殺者に剣を向けて言い放つ。
「わかったのだ!」
ウタガは手のひらを握りこぶしで叩いて言った。
「宇宙からやってきた、宇宙人なのだ」
その場の全員が沈黙すると、ダロウが気を取り直して言った。
「それより、こいつをどこかに縛っておこうぜ」
ダロウはツル植物を取ってきて暗殺者を木に縛りつけた。
「ぐっ……」
バレナイは苦しそうに腕を押さえている。それを見たダロウが言葉を掛けた。
「大丈夫か?」
「ああ」
その傷を見てみると血がどくどくと流れ出ていた。
「やばいな……誰か、傷薬をもっている奴はいないのか?」
ダロウの問いかけに首を縦に振る者はいなかった。
「われに任せろ」
と言いながら、魔女が出て来てバレナイの腕に手をかざした。
「われが治してやる」
「すまない」
バレナイがそう言うと魔女はぼそりと返答した。
「これは貸だ、あとで返してもらうぞ」
魔女の手から光が出て、瞬く間にバレナイの腕の傷が治った。
「忘れるな、貸しだからな」
念を押すような魔女の言葉にバレナイは頷いて答える。
「ああ」
しばらく経つと暗殺者は目をあけた。それを見たダロウは言った。
「おい、目を覚ましたぞ」
暗殺者は痛そうに顔を歪ませながら言った。
「ここは?」
「気がついたか」
ダロウが尋問するように暗殺者に近づいた。
「お前は誰だ?」
ダロウの言葉に暗殺者は返答した。
「私は暗殺者だ。ウヨネ一行を暗殺するように命じられている」
「なに?」
ダロウは一度みんなを見回してから続けた。
「それで、誰に命令されたんだ」
「それは……」
「言えないのか」
まだ、それは設定されてないんだよな。仕方ない。
僕は適当に暗殺者を命令している者を作った。
【暗殺者を命令しているのは暗殺集団の団長】と書いた。
「だ、団長だ」
「団長?」
「そうだ」
「その団長さんはなぜ俺たちを襲うんだ」
「それは……わか……」
あ! ちょっと待て。僕は慌てて設定を考えた。
【暗殺集団がウヨネ一行を襲うのは、ライトニングストーンを所持しているから】と書いた。
「わか?」
「……ライトニングストーンをお前らが持っているからだ」
ダロウは魔女のほうをチラリとみてから聞いた。
「なぜライトニングストーンを欲しがる?」
「さあ、団長が考えたことだ」
ダロウはそこで会話を止めてウヨネに聞いた。
「どうする? このままにして先に進むか?」
ウヨネは暗殺者に近づいて質問をした。
「団長さんの名前は?」
「名前?」
えっと……。
【暗殺集団の団長の名前はコロシヤ】と書いた。
「そう、ぼくたちに教えてくれないかな」
「名前はコロシヤ団長だ」
「ふーん」
「団員は何人いるの?」
「団員?」
質問攻めだな。何人がいいかなぁ……。
「そう、何人いるの?」
「さあ、私たちは把握してない。何人いるのかも」
あ! 考えていたら、勝手に話が進んでしまった。フリーズすると思ったんだけど。まあいいや。
「そうなんだ。じゃあ、そのあなたを縛っている物をほどくから、そこにぼくたちを案内してよ」
「おい」
ダロウはウヨネの言葉を止めた。
「こいつは俺たちを殺そうとした奴だ。ここで息の根を止めたほうがいいんじゃないのか」
「もし、この暗殺者が作られたものだとしたら、集団なんかいないのかもしれないよ」
「いないだと?」
「うん、さっきぼくが暗殺者と会話したことだけど、彼の返答には若干の間があったよね」
「ああ、確かにな」
「そうなるのは、彼を送った者がとっさに設定を考えているからなんだ」
ダロウはため息を吐くと聞いた。
「じゃあこいつは、その創造者によってしゃべらされているってことか? 俺たちも、今俺がこう言っていることも」
ウヨネは首を横に振って答えた。
「さあね。でもぼくたちがその者によって言わされているんだとしたら、この世界は作られているってぼくにしゃべらせるかな? それを作っている創造者がいるってことも」
ダロウは少し考えてから言った。
「あえて、そう言わせているのかもな」
「あえて?」
「そいつが今まですべてのことを作っているのだとしたら、あえてそれを言わせて、あたかも俺たちがそいつを疑うように仕向ける。そうすることで、俺たちが自ら考えて話しているように錯覚させているのかもしれない」
「なるほど。それでも、ぼくは自分の意志で自由にしゃべっていることは間違いないと思うよ」
「どうしてだ?」
「間たよ」
「ま?」
「そう、ぼくたちが会話するとき変な間がない。だけど暗殺者に質問したとき間があった」
ダロウは暗殺者を見てみた。暗殺者は下を向いている。それからダロウはウヨネに聞いた。
「前にも言ったが、考えていたんじゃないのか? 言うか言わないか」
「それでも、おかしな言動があったよね。『わか』って」
「わか? そういえば、そんなことをボソッと言ったな」
「ぼくの考えだと、わからないと言いそうになったんじゃないかな」
「わからない?」
「ダロウさんが『なぜ俺たちを襲うんだ』って、彼に聞いたとき、わからないって言おうとしたのかもしれない。暗殺者の頭の中にはその記憶がないから、わからないと答えそうになった。だから、直ぐに情報を送ったんだよ彼にこう言えって」
それを聞いたダロウは深いため息を吐いてから言った。
「まあ、いいさどっちでも。それよりどうするんだ。こいつ」
ウヨネは暗殺者を見て答えた。
「この人に案内してもらうんだよ暗殺集団のアジトまで」
「ふうん、そうか」
ダロウは後ろに下がってその様子を見守った。ウヨネは暗殺者を縛っている紐をほどこうと屈んだ。それを見たドラゴンがウヨネに近寄った。
「姫、ここは俺さまがやります」
そう言って、暗殺者の紐を切った。暗殺者はドラゴンに腕をつかまれて引き起こされる。
「歩け」
ドラゴンに促されて暗殺者は歩き出した。
暗殺者を先頭にしてウヨネ一行は暗殺者のアジトへ向かった。
ウヨネ一行はなかなか強いな。
暗殺者があっさりとやられてしまった。
様子みもかねて作った暗殺者だから、ウヨネ一行を全員倒せるとは思っていない。
物語的にウヨネ一行はメインキャラになる。
キャラたちをここまで見た段階で、能力的にウヨネが主人公と何となく決めている。
直接このキャラが主人公と設定はしていないが、僕がわかっていればそれでいいだろう。
主人公は死んでも死なないという決まりがある。中には死んでしまう設定にしているのもあるけど……。
大体の物語の主人公は死なない。
もしかしたらキャラに主人公とつけ足せば、そのキャラは死ななくなるのかもしれない。
でも、僕は誰が主人公とかはつけないつもりだ。
みんなが主人公と言えば聞こえはいいが、ほかにも理由がある。
それは、主人公とつけ足してそのキャラが絶対に死なない設定になってしまうのを避けるためだ。
このキャラは死なないとわかってしまうとどんなに凄いことが起こったとしても、どうせ死なないから大丈夫だって思ってしまう。
緊張感が出ずにスリルも感じないのは、僕にとって辛い。
アクションゲームは主人公が死んでもリトライできるから死ぬ意味がある。中にはそうじゃないのもあるかもしれないけど。
このゲームでキャラがいつ死ぬかわからなければ、僕は画面から目が離せなくなるだろう。
キャラが死なないように、僕がキャラをどうにかして助けようとするから。
でもそれもこの先わからない。
それは主人公たちが僕を倒したがっているからだ。
キャラたちが僕に牙をむけば、僕は抵抗しなければならない。
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