第15話 キャラたちの挑発
ゲームのキャラが僕に返事を求めてきた。
返事をするってどうやって?
この液晶画面に向かって返事をするのか? だとしたら、僕がつぶやいているとき僕の声がウタガたちのところに届いているだろう。
僕は画面越しに何か言ってみた。
「僕はゲームプレイヤーだ」
ウタガたちは辺りをうかがいながら様子を見ている。
「おい、何も起こらないぞ」
バレナイが天井を見ながら怪しんだ。
「ふん、この世界を作っている奴なんか本当はいないんじゃないのか」
ダロウは鼻で笑い呆れたように言う。
「待って」
ウヨネは何かに気づいてみんなを黙らせた。
「ぼくにいい考えがあるんだ」
「いい考えって?」
ダロウはウヨネに聞き返した。ウヨネは少し微笑むと答えた。
「この世界を作っている者、つまり創造者に対して悪口を言うんだ」
「悪口だと?」
ダロウは訝しい顔をしながら聞いた。
「そう、そうすれば相手は何かしらの行動を起こしてくるでしょ」
ウヨネはみんなの顔を見回した。ダロウはニヤリとするとウヨネに言った。
「なるほど、そうなれば、この世界を作ったとされる奴がいるってことが証明されるわけだ」
「そういうこと」
ダロウは天井を見上げながら僕に向けて言ってきた。
「おい、創造者! そこにいるのはわかっている。聞いてるんだろうこの声を。俺たちが今からお前を倒しに行くからそこで大人しくして待ってろ。どうせお前は何も出来ないんだろ? 悔しかったら何かしてみろ!」
ダロウの喧嘩を売るような口調が僕の目に映った。
こいつら、僕をバカにしているのか。いいさ、わかったよ。僕が作った世界だ。
僕はキーボードを叩いた。
【家は竜巻によって壊さ】……ちょっと待てよ。もし僕がここでこの家を破壊したら、キャラたちにこの世界は作りものだと思われてしまう。
もうすでに薄々感づいているキャラもいるが。
このゲームのゲームクリアがどうすればなるのか未だにわからない。
普通のRPGならラスボスを倒せばエンディングを迎えてゲームクリアになるが。このゲームはそういう風にわかりきったモノにはなっていないかもしれない。
この文字の入力次第でいくらでも変わる。
何も焦る必要はないんだ。
友人にこのゲームの感想を言うためには、少なくともゲームを最後までやり抜くことが必要になる。それは最低限の礼儀だと思うわけで。
ゲームをクリアして初めて正しい感想が伝えられるわけで。
僕を倒すか。やれるものならやってみろ。
キャラたちが僕を倒しに来るなら、何か違和感なくキャラを葬れる方法を模索してみるか。
うーん、とりあえず敵キャラを作ってみるか。キャラたちを脅かすような。
僕は敵キャラを作り始めた。
【暗殺者の男は黒のローブを着てフードで顔を隠している。素早く動ける。足音を立てない。アイスピックを武器にしている。ウヨネ一行を攻撃する】
こいつを森の奥に置いて、これで様子を見てみるか。
それとついでに、この家の住人も作っておこう。
【家の住人は男。薪を取りに行っていた。薪の束を紐で縛り肩にかけている。斧を所持している。男は家に帰る途中】
男の容姿はメニュー欄の中から適当な男性キャラを選び森の奥に置いた。
「何も反応がないな」
ダロウはバカバカしいというように鼻で笑った。
「そうだね。たぶんぼくたちが悪口を言った瞬間に何か行動を起こしていたら、間違いなく創造者がいることになってしまう。だから何もしなかったんだ」
「ふん、警戒されているってことか」
「さあね。用心深い性格をしているのかも。さてと」
ウヨネは玄関に向かいドアを開けようとした。
「おい、どこに行くんだ?」
ダロウはウヨネに聞いた。
「また探索するのさ」
「たんさく?」
「うん、この世界を探索していれば、何かわかるかもしれないからね」
「探索したところで、その証拠的な物があったとしても、創造者によって消されてしまうんじゃないのか。それか、もうすでに消されているか」
「かもしれないね。でも、そうするなら、何でぼくたちを今も生かしているの?」
「……さあ」
「そういうこと、向こうが何もしてこないなら、こっちで行動を起こせばいい」
そのとき、ドンドンとドアを叩く音がした。
「姫。誰か来ましたが」
ドラゴンはドア越しからウヨネに呼び掛けた。
ウヨネたちはお互いの顔を見合わせている。
ウヨネはドラゴンに向かって聞いた。
「誰が来てるの?」
「男です。この家の住人だと名乗っています」
ウヨネはドアを開けて外に出た。そのあとに続いてほかの者も外に出た。
「お前ら、俺の家でいったい何やってんだ?」
男は怪しそうにウヨネたちを見ながら言った。ウヨネは答えた。
「すまない勝手に入って。人が住んでいるとは思わなかったんだ。ぼくたちはこの家が空き家だと思っから、秘密基地にしようと思って調べていたんだ」
「じゃあ、もう帰ってくれ、早く」
「うん、わかったよ。でもいくつかあなたに聞きたいことがあるんだ」
「なんだ」
「冷蔵庫に何が入っているの?」
「え? 冷蔵庫……」
【男は冷蔵庫にケーキ、オレンジジュース、ミルクがあることを知っている】
「うん」
「ケーキにオレンジジュースにミルクだが」
「ふーん、じゃあ、冷蔵庫にケーキ何個入っているの?」
「え?」
僕はすぐさま冷蔵庫にケーキが何個あるか数えた。ケーキの数はウヨネたちが食べる前の数でないといけない。
【冷蔵庫にケーキが入っている数は……】
「どうしたの?」
「いや……わからない」
僕が数えているとキャラが勝手に話を進めてしまった。
「ふうん、そうなんだ。じゃあ、みんな行こう」
ウヨネの合図でみんながここから立ち去ろうとした。
「さてはお前ら、ケーキを食ったな」
男はそう言うと、とつぜん斧を振り上げながらウヨネたちを襲ってきた。とっさにウヨネたちは身構える。
斧がウヨネを目掛けて振り下ろされた。すると、男はドラゴンの尻尾に弾き飛ばされて家の壁にぶつかり動かなくなった。
「姫に近寄るな」
ドラゴンの凄みのある威圧が男に向けられる。
そうして、ウヨネたちは家を後にして森に入って行った。
やはり一般のキャラだとウヨネ一行を倒すことはできないな。もっと強いキャラを作らないと。
「姫、どこに向かうのですか?」
ドラゴンが護衛のようにウヨネに近づいて聞いた。
「創造者が残し忘れている証拠を見つけに行くんだよ」
「はあ、それは一体どういった物ですか」
「そうだなぁ、違和感のある物かな」
「違和感ですか」
ドラゴンは周りを見回した。
ウヨネはドラゴンに対してわかりやすいように説明した。
「違和感。つまり不自然な現象だったり物事が起こるのが唐突だったり」
「はあ」
「例えば、そこに何もないのに、いきなり岩が現れたらおかしいと思うでしょ」
「はい」
「そう、そう言ったことが起きれば、創造者がいて故意にその現象を起こしていることになる。少なくとも証拠の断片になるわけなんだ」
「なるほど、そうですか」
しばらく歩いて行くと、ウヨネがドラゴンに言った。
「さっきから森の中を歩いているけど、何かおかしいと思わない」
ドラゴンは辺りを見ながら言った。
「おかしなところですか……さあ、わかりません」
「ぼくたちは森の中を歩いている。でも、何の音も聞こえてこない」
ドラゴンは耳を澄ませて周囲の音を聞いた。
「確かに物音ひとつしませんね」
「そうでしょ。普通なら、風が吹いたり鳥のさえずりなんかが聞こえてきたりするはずだよね。でも何の音もしないんだ」
「じゃあこれは」
「そう、これも証拠の断片さ」
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