第13話 不自然な会話
ウヨネたち一行は森を抜けて草原に来ていた。
「ん? あれは何なのだ?」
ウタガは遠くに見える塀を眺めながら言った。ウヨネはそれに答えた。
「何か塀みたいだね。行ってみよう」
ウヨネたちは塀にある門へと近づいていく。
「門があるな」
ダロウは誰にともなく言った。
そうして、ウヨネたちは門の目の前で立ち止まった。
門番たちはウヨネ一行を怪しむように見ている。ウヨネは少し前に出ると門番たちに言った。
「すまないが、ここを通してもらいたいんだけど」
門番は微動だにせず返した。
「ダメだ。この先には絶対に通してはならないという命令が出ている」
「どうして?」
「危険だからだ」
「何が危険なの?」
門番たちはお互いの顔を見合わせたあと、ひとりの門番が言った。
「それはだ……」
ああ、そうか、理由をつけてなかった。危険な理由を。
僕は手早く【危険な理由は凶悪な魔物がいるから】と書いた。
「凶悪な魔物がいるからだ」
「凶悪な、まもの?」
「そうだ」
ウヨネは下を向いて何かを考えている。
「おい、ほかの道を行こうぜ」
バレナイがウヨネを促した。ウヨネは顔を上げて再び門番に尋ねる。
「ねえ、その魔物ってどんな名前なの?」
「それは……」
今度は名前か。
【魔物の名前はオソロシイ】
「オソロシイという名前だ」
「どんな姿なの?」
すがた? どんな姿かって言われてもな……。
【門番たちはオソロシイの姿を見ていない】
「我々はオソロシイの姿は見ていない」
「見ていない?」
ウヨネは塀の上のほうを見ている。痺れを切らしてダロウがウヨネに聞いた。
「なあ、あんた。さっきから質問ばっかだな。そんなことを聞いている暇があったら、ほかの道を行ったほうが早いんじゃないのか」
ウヨネは振り返ってみんなに言った。
「さっき、ぼくが門番に質問したとき、おかしく思わなかった?」
皆それぞれがお互いの顔を見合わせたり首を傾げたりしている。ダロウはウヨネに聞き返した。
「別に俺はおかしく思わなかったが」
「そうだろうね、ぼくと門番のごく普通の会話だった。でも、相手の返答が遅く感じなかったかな」
「おそく?」
「うん、だってぼくが最初に質問した『何が危険なの?』って聞いたとき、少し間があって答えたよね。そのあとの『どんな名前なの?』って聞いたときも、少し間があって返って来た」
ウヨネの言ったことに反応して、皆それぞれがウヨネと門番のやり取りを思い返している。ダロウは再びウヨネに聞いた。
「それが何だってんだ。たまたま返答に困っただけだろう。門番が」
「返答に困った。確かにそう考えられなくないね。ぼくがおかしいと思ったのは、門番はその凶悪な魔物を知っているにも関わらず、直ぐに返答してこなかったことなんだ」
ダロウはウヨネを疑わしく見ながら言った。
「だから何かあって言いずらかったんだろう。何がそんなに変なんだ?」
「ぼくたちは誰かに作られたとしたら、門番も作られているはず。物体を作ることができるなら、言葉も作られるってことさ」
ウヨネの意見に対してダロウは鼻で笑って答えた。
「じゃあ何か、俺たちがこうやって会話しているのも、作られているっていうのか? こういうセリフを俺たちに言わせているってのか?」
ダロウの言ったことにウヨネは頷いた。
「たぶんね……」
ウヨネはドラゴンのほうを向いて話しかけた。
「ねえドラゴン」
「はい、姫」
「ここから空に飛んで、塀の向こう側に行ってみてくれないかな」
「塀の向こう側にですか?」
「うん」
「はい、わかりました」
ドラゴンは羽を動かして空に向かって舞い上がった。それから塀に近寄っていく。
「お、おい! コラッ!」
それを見た門番のひとりが槍を構えて声を放った。門番の言うことを聞かずにドラゴンは塀を通り過ぎて行った。
うーん、このままだとドラゴンに透明な壁があることがわかってしまうな。
僕はドラゴンを戻すために【塀の向こう側から強風が吹いてドラゴンを押し返す】と書いた。
すると、ドラゴンが向かっているほうから強風が吹いた。
「ん? ググッ」
ドラゴンは進もうと思いきり羽を動かしているけど、風によって徐々に後退させられている。
塀の外に追いやられたドラゴンはウヨネに言った。
「姫。ダメです。強風で向こう側に行けません」
「強風? うん、わかった。降りてきていいよドラゴン」
ドラゴンは地面に降りて一息ついた。ウヨネは再び門番に聞いた。
「ねえ、誰の命令なの? ここを通しちゃいけないって」
門番たちはお互いに顔を見合わせていた。それから門番のひとりが言った。
「さあ、わから……」
あ、ちょっと待て。
僕は慌てて適当なキャラを考えて書いた。
【門番たちを命令できるとても偉いやつ。それはオオサマ】
「……オオサマさまだ」
「オオサマ、さま?」
「そうだ」
あれ? 偉いと書くと、その人を勝手に様呼ばわりするのか。
言い換えると、書いたとおりにその名前をキャラたちが言うわけだ。
うーん。それはスムーズでいいことだけど。それを行うとき最初だけは注意書きみたいなのが画面に出て欲しいかな。それと、偉くても様呼ばわりをしないように設定できるようにするとか。
最近は説明書なくても、ゲームをやりながら説明をしてくれるのが主流になっているからな。
まあ、個人的には手とり足取り過保護みたいにすべて説明を入れるのはいかがなものかと思うが。
「ふーん、オオサマね」
ウヨネは門番に聞いた。
「さっき、わからないって言おうとしなかった?」
「……いや」
「そう」
ウヨネは振り返ってみんなに言った。
「ねえ、みんな。大体わかって来たから、ほかのところに行こう」
バレナイがウヨネに聞き返した。
「ほかって?」
「そうだなぁ。ウタガさんが最初にいた場所に行ってみようか」
ウタガはウヨネの意見に答えた。
「私が?」
「うん、来た道を覚えてない?」
「いやー、大丈夫なのだ。私が覚えていなくても彼女が知っているのだ」
ウタガはワナイを指さした。ワナイはそっぽを向いて反応した。
「そうなんだ。ウタガさんと彼女は一緒に行動してたのか」
「そうなのだ」
ウヨネはワナイのほうを向いて言った。
「ねえ、君。案内してくれないかな?」
ワナイはチラリとウヨネのほうを向いた。それから黙って歩き出した。
「ありがと」
ウヨネはそう言うと、ワナイのあとについて行った。ほかのみんなもそのあとについて行く。
ダロウがウヨネに聞いてきた。
「今度は何を調べるんだ?」
ウヨネは振り向いて言った。
「ぼくたちが何者かによって作られたのはわかったから。今度はなぜぼくたちを作ったのかを知るために、ぼくたちが最初にいた場所を訪れて調べるのさ」
「なぜ、そこを調べるんだ?」
「僕たちをただ作るだけなら、もう作業は終わっているはず、でもさっきの門のところでいろいろと不思議な現象が起きたから、まだ、ぼくたちを作った者は何か作業をしているわけだ」
「それで?」
「ぼくが最初に気づいたのは要塞が目の前にあった場所でなんだ。だから、ほかのみんなも何か建物が近くに建ってあるんじゃないかと思って」
「ふーん、その建物を調べるってことか」
「そういうこと」
ウヨネたちは崖沿いを歩いていた。
ドラゴンがウヨネに聞いた。
「姫、ひとつお聞きしたいことがあるのですが」
「なに?」
「透明な壁と言うのは本当に存在するのでしょうか?」
「うん、ぼくはあると思う」
「では、上はどうなんですか?」
「うえ?」
ドラゴンは空を見上げながら言った。
「空を飛んで上に向かって行ったら、透明な壁に当たるのでしょうか」
ウヨネも空を見上げた。
「やってみないとわからないけど……たぶんぶつかると思う」
「じゃあ、俺さまが確かめてきます」
ドラゴンはそう言って羽を動かして真上に飛んで行った。
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