第11話 ウヨネの提案

「え? 私なのだ。ウタガなのだ」

「ウタガさん? さあ、人違いじゃないですか」

「そんな……あ! わかったのだ。ドラゴンに記憶を奪われているのだ。今ドラゴンをやっつけて記憶を取り戻してやるのだ!」


 ウタガは拳を構えて戦闘態勢に入った。


「おいおい、お前、俺さまはそんなことはしてない。それに、ここにいるのは俺さまの姫だ、姫が知らないと言ったら知らないんじゃないのか」


 ドラゴンの言葉にウタガは構えを解いた。


「そうか、じゃあ、私はどのドラゴンを探しているのだ? すまないが君たちみたいな同じ名前のドラゴンやウヨネをほかに知らないか?」


 ドラゴンとウヨネはお互いの顔を見合わせてからウヨネは首を振った。


「姫は知らないと言っている。俺さまももちろん知らない」


 ウヨネがウタガに話しかけた。


「ねえ、ウタガさん。もしよかったら、ぼくの力になってくれないかな。ぼくここがどこだかわからないんだ。何が起きてるかわからないから、一緒にこの世界を探索しない?」


「たんさく? うん、いいのだ。一緒に探索するのだ」


 ウヨネとウタガは握手をした。


 何かに気づいてドラゴンはその方向に顔を向ける。そこには魔女がワナイを引き連れて要塞のところに来ていた。


「ここか、要塞と言うのは」


 魔女は要塞を見上げながら言った。そのまま歩いてドラゴンたちの目の前まで来た。


「来たか」


 ドラゴンが言うと魔女は疲れたように聞いた。


「ああ、それで、交換する気になったのか?」

「姫は交換しても構わないと言っている、だから……」


 ドラゴンは地面に落ちているライトニングストーンを拾い上げて魔女に見せた。

 魔女はその石を見ると笑みをこぼした。


「それがライトニングストーンか」

「そうだ」


 魔女はポケットからウォーターストーンを取り出すと、ドラゴンの手のひらに乗せて代わりにライトニングストーンを受け取った。


「うーん、綺麗だな」

「おい!」


 そのとき、盗賊たちが武器を構えて魔女たちの後ろに立ち並ぶ。

 魔女とワナイは振り返りそのほうを確認した。


「お前らか。どうした?」


 魔女がそう言うとバレナイが答えた。


「ウォーターストーンとライトニングストーンをこっちに渡してもらおうか」

「ああ、そう言えば、ライトニングストーンの代わりにウォーターストーンを寄こせと言っていたな。一足遅かったな。もう、ここにいるドラゴンと交換したあとだ」


 盗賊たちは魔女たちに少し近づくとダロウは言った。


「寄こさないなら、怪我をすることになるぞ」

「ああ、そうかい。じゃあ……」


 魔女はワナイのほうを向いた。


「あんたの出番だ。あいつらをやっつけてきな」


 ワナイは魔女ににらみ返すと盗賊たちのほうを向いて剣を構えた。


「まあ、みんな待つのだ」


 ウタガがワナイと盗賊たちに言った。


「私がここにいる姫とやらにウォーターストーンを渡してもらうよう頼んでみるのだ。だから少し待ってくれなのだ」


 ウタガはウヨネに聞いた。


「姫、ウォーターストーンを彼らに渡してやろうじゃないか」

「ぼくは構わないよ。その石が欲しいならやっても」


 ウタガは盗賊たちに向き直り言った。


「ほーら、言ってみるものなのだ」


 盗賊たちは驚きながらお互いに顔を見合わせている。


「よ、よろしいのですか、姫」


 ドラゴンは渋い顔でウヨネに聞いた。


「うん、ぼくはいらないよ。ただし」


 ウヨネは盗賊たちに向かって話した。


「ねえ、あなたたち。ぼくとこの世界を探索してみない。ウォーターストーンはあなたたちにくれるから、どうかな?」


 ウヨネの問いにダロウが答えた。


「ウォーターストーンはもらう。だが、探索は一緒にしない。どうしてもと言うならそのわけを聞かせてもらおうか」

「わけね。ほかのみんなも聞いて欲しいんだけど、何か変に感じない? この世界」


 その場の全員が沈黙した。それからダロウがウヨネに聞いた。


「どういうことだ? この世界が変て」

「周りをよく見てみてよ。森しかない」


 ダロウは周りを見回した。


「そうだが、それがどうした?」

「気づかない? ここが作られた世界だってことが」


 え? こいつ何言ってんだ? 確かに作ったのは僕だけど……。


 ああ、これもゲームの一環でこういうイベントみたいなことを入れてあるんだな。ある程度、物語が進むとこういうワードがキャラから出るようになっているんだ。きっと。


「ははは、作られただと?」


 ダロウは笑いながらウヨネに聞いた。


「どうしてそう言えるんだ?」

「ぼくは過去の記憶が思い出せないんだ、あなたたちはどう?」


 ウヨネは誰彼構わずに聞いた。

 皆それぞれが考えている。誰も何も答えなかった。


 しばらくして、ダロウはウヨネの問いに答えた。


「……まあ確かにな。前にも一度そんなことを考えたことがある。俺は過去を思い出そうとしたが何も思い出せなかった。消えている感じがするぜ、消えたっていうか、元からなかったようにも思うがな」


「うん、ほかはどうかな?」


 ウタガが虚空を見ながら答えた。


「うーん、私も思い出せないのだ。恋人がドラゴンにさらわれたっていうことだけは思い出せるのだが」


 魔女がそのあとに続いた。


「われも少し思い返してみた。記憶がないな。どこで生まれたのかもだ」


 ドラゴンはウヨネに言った。


「俺さまも思い出せません」


 ウヨネは頷くと、バレナイとワナイにも話しかけた。


「あなたたちはどう? 何か思い出したりする?」


 バレナイは首を横に振りワナイは首を傾げた。

 それらを見たダロウはウヨネに聞いた。


「ここの奴らが全員、過去の記憶がないってどういうことなんだ?」


 ダロウの言葉にウヨネは少し間を置いた。そらから話し出した。


「ぼくの考えだと、ぼくたちは何者かによって操作されている」

「操作だと?」

「うん、その者はぼくたちの記憶を奪ってこの世界にぼくたちを置いた。なぜかはわからないけど」

「いったい誰がそんなことをするんだ」


 ダロウの質問に対してウヨネは空を向いて答えた。


「この世界を作った者に違いないよ」


 その場の全員が空を見上げた。


 ……こいつら、僕のほうを見ているな。確かにウヨネの言ったことは本当だ。僕が森の大地を作って、そこに川とか家を置いたのは事実だ。


 だからって、ゲームのキャラに何ができる。

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