第10話 ドラゴンと魔女の取り引き

「あ! いたぞ!」


 バレナイはそう言うと木に隠れるようにしてドラゴンの様子をうかがった。ダロウも別の木に隠れて様子を見ていた。


「そうだな、何をしているんだあいつは?」


 ダロウが言うとバレナイが返した。


「さあ、ドラゴンがいるって本当だったのか」

「そうみたいだな。ウタガとかいった奴が言っていたことは本当だったと言うことだ」

「どうする?」


 バレナイの問いにダロウは辺りを見回した。


「魔女の奴はまだ来ていない。だから俺たちはどこかに隠れて様子を見るんだ。うまくすれば、ドラゴンと魔女が攻撃しあって、ウォーターストーンを落とすかもしれないからな」

「ああ、なるほど。運が良ければお互いが相打ちになって、ウォーターストーンを危険なく取り返せるというわけか」

「ま、そんなところだ」


 ダロウは何かに気づいて後ろを確認した。


「奴らが来るぞ、俺たちは隠れるんだ」


 盗賊たちは森の中の茂みに身を隠した。魔女とワナイがドラゴンの元に来た。


 魔女はドラゴンを見るなり、何も気にせずドラゴンのほうにそのまま歩いて行った。ワナイも魔女のあとに続いた。


 ふたりはドラゴンの目の前まで来た。


「ふん、こいつがドラゴンか。随分ふてぶてしいな」


 魔女はドラゴンを見上げながらつぶやいた。ドラゴンは魔女たちに気づいて見下ろした。


「ん? お前たちは誰だ?」


 ドラゴンがそう言うと魔女は鼻で軽く笑い返した。


「あんたしゃべれるのかい。なら話は早いや」


 魔女はウォーターストーンを取り出してドラゴンに見せた。


「あんた、これより綺麗な石をもってるんだろ。われにくれないか」

「いし? ライトニングストーンのことか?」

「そうそう、それだよ。あるんだろ?」

「ああ、ある」

「じゃあ、それをわれにくれ」

「そうはいかない。俺さまはその石を守らなければならない」

「なぜ?」

「それは……」


 ドラゴンは考えている。


 5分経過。


 またフリーズか? はあ、ライトニングストーンをなぜドラゴンが守らなきゃならないのかっていうことを書かないといけないんだな。


 うーん……。


 【ライトニングストーンは姫の宝石で、留守のあいだ姫に誰にも渡さないように頼まれているから】

 【ドラゴンは姫の飼いドラゴン】


「それは姫の物だからだ。守れと命じられている」

「ふーん、姫ね。どこにいるのさその姫は?」

「どこに?」

「まあいいや……」


 魔女はぐるりと周りを見回した。


「このウォーターストーンと交換してくれないか」


 魔女はウォーターストーンを掲げるようにドラゴンに見せた。


 バレナイはその様子に対して慌ててダロウに聞いた。


「おい、魔女のやつウォーターストーンを交換しちまうぜ」

「まずいなぁ……バレナイ、銃を構えろ。ドラゴンとの交渉が成立したら、俺たちはあいつらのところに出て行く」

「ああ」


 ドラゴンは注意深く魔女の差し出しているウォーターストーンを見ていた。


「ダメだな。姫にライトニングストーンを守れと命じられている。どんな理由があろうと渡すわけにはいかない」


 魔女はウォーターストーンをポケットにしまうと、うなだれたように首を左右に振った。


「そうかい。残念だねぇ」

「だが、姫が戻って来て、その石とライトニングストーンを交換してもいいと言ったら、交換してやろう」

「姫が戻ってきたらだと」

「ああ」


 魔女はしばらく沈黙したあとドラゴンに聞いた。


「その姫とやらはいつ戻ってくるんだい」

「それは……」


 ドラゴンは魔女から視線をそらして考えている。


「どうしたんだい? わからないのかい?」

「……あ! わかった。あいつだ」

「あん?」

「要塞にいた。眠っていたが、あれが姫なんだ」


 そう言うとドラゴンはバサァバサァと羽を動かして宙に浮いた。


「おい、あっちのほうに要塞がある。そこに女がいた。たぶんあれが姫だ。俺さまは先にその場所へ向かうからお前らはあとからついてこい。お前らが来るまでのあいだ、そのウォーターストーンと交換できるか姫にきいておいてやる。待っているぞ」


 ドラゴンはそう言い残して飛び立って行った。

 魔女はドラゴンが飛んで行った方角を確認した。


「要塞? あの方向にあるのか」


 魔女たちは要塞へと歩き出した。

 誰もいなくなった焚き火の場所に盗賊たちが出てきた。


「要塞だってよ」


 バレナイがそう言うとダロウは頷いて答えた。


「そうだな、俺たちはとりあえず、あいつらに見つからないように隠れながら向かうとするか」


 盗賊たちは要塞へと歩き出した。


 ドラゴンはまっすぐ要塞のほうへ向かった。

 ウタガは何かが近づいている来るのを感じ取って空を見上げていた。


「あっ! ドラゴンなのだ!」


 ドラゴンを確認したウタガはまた振り返って、ドラゴンのあとを追って行った。


 ドラゴンは要塞に着くとウヨネのところに着地した。

 ウヨネはその振動に気づいて目を覚ました。


「姫」


 ドラゴンがウヨネに言った。


「ん? ぼくのことを言っているの?」

「そうです」

「ぼくって姫だったんだ。そうか……」

「姫、先ほどライトニングストーンを欲しがる人物が現れて、ウォーターストーンと交換して欲しいと言って来たのですが」

「らいと、うぉーたー? 交換?」

「はい。いかがなさいましょうか」


 ウヨネは腕組みをしながら何かを考えている。


「よくわからないけど、その人がライトなんとかっていうのと、ウォーターなんとかを交換したいって言ってきたんだね」

「はい」

「じゃあ、交換していいんじゃない」

「交換していいのですか?」

「うん」

「わかりました」


 ドラゴンはまた飛び立とうとして羽を仰ぎ始めた。


「おーい! ドラゴン!」


 ウタガが要塞の下まで来ていてドラゴンに向けて言った。

 ドラゴンは羽ばたくのを止めて見下ろした。


「何だあいつは?」

「ドラゴン! 私の恋人を返すのだ!」


 ドラゴンは要塞から地面に降りると地響きがその一帯を覆った。ウタガの目の前にドラゴンが立ちはだかる。


「お前は誰だ?」

 

 ドラゴンはウタガを見下ろして言った。ウタガはドラゴンを目の前で見てブルブルと震えている。


「わ、私はウタガなのだ。私はお前がさらった恋人を連れ戻しに来たのだ!」

「こいびと? そんな者はここにはいない」

「そんなことはないのだ! お前がさらったのだ」


 そのとき、要塞の上からウヨネが顔をのぞかせた。


「俺さまは誰もさらっていない。何か勘違いをしているんじゃないのか」

「そんなことは……あ!」


 ウタガは要塞を見上げながら驚きの声を上げた。


「いるのだ、彼女なのだ!」


 ウタガは要塞の上にいるウヨネに人差し指を向けた。

 ドラゴンはその指をさしている先を確認するとウタガに言った。


「あれは姫だ。お前の恋人じゃない」

「いいや、違わないのだ。あれは私の恋人に間違いないのだ」


 ウタガはそのままウヨネに向かって呼び掛けた。


「おーい! ウヨネ。私なのだ。助けに来たのだ!」


 ウタガの呼び掛けにウヨネは首を傾げた。そして要塞から飛び降りて地面に着地すると、ウタガのところに歩いて来た。


 ドラゴンはウヨネの目の前に手を出して歩行を止めた。


「姫、危険です。下がっていてください」


 ウタガとウヨネはお互いに見合っている。


「ウヨネ。私なのだ」

「ウヨネはぼくですが、あなたは誰なんです?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る