第9話 キャラに理由をつける

「そいつは、たしか……何て言ったか。とても綺麗な物だった」


 そのとき、ワナイが魔女の背中に剣を突き刺した。ように見えたが魔女は消えた。


「あ! あそこだ!」


 バレナイは木の上のほうへ人差し指を向けた。

 魔女は木の枝のところに立っていて見下ろしている。


「そんなにこのウォーターストーンが欲しいのか? くれてやってもいい。ただし、これよりも綺麗な石の在りかを教えてくれたな」


 ダロウはバレナイのほうを一度向いてから答えた。


「ああ、わかった。教えるからその石をくれないか?」


 魔女はそこから消えて、スッとダロウの前に現れた。


「ダメだ。その石の在りかにわれを案内して、そこに石があったらくれてやってもいい」


 ダロウはため息をひとつ吐いて言った。


「ちょっと、あいつと話をするから待ってくれないか」

「よかろう」


 ダロウはバレナイのほうへ歩き出す。


「魔女ッ!」


 ワナイが剣を魔女に突きつけたまま立っていた。


「何だ?」

「あたしの体を元に戻せ!」

「よく考えてみるんだな。われがお前の体を元に戻したら、お前は不便になるぞ」

「はあ? どういうこなの?」

「そんなに子どもに戻りたいのか? 今のお前の能力が落ちるってことさ」

「それでもいい、戻せ!」


 はぁ、と魔女はため息を吐くと指を鳴らした。すると、ワナイの体は子どもに戻っていった。

 ワナイは剣を落とすと自分の両手や体を見回した。


「どうだ、満足か?」

「ええ、満足したわ」


 ワナイはそう言うとどこかへ歩き出した。


「どこに行く?」


 魔女はワナイを呼び止めると彼女は振り向いて答えた。


「帰るわ」

「どこに?」


 ……ワナイは何も答えなかった。しばらく黙ったままその場に立っていた。


 あっ! またフリーズか。

 ワナイがどこに帰るか場所を設定しないといけないのか?


 ワナイの住んでいる町とかその家がどこにあるのかをちゃんと書かないといけないのかな?


 そうだなぁ……。


「おいっ! さっき話し合ったんだが。たしか……」


 ダロウが魔女に何かを言おうとして止まってしまった。


 あ、ダロウまでもフリーズしてきた。何でこうなるんだ?


 こういったこともゲーム性のうちといえばそうなのかもしれないけど、ゲームの演出じゃなく本当に止まったら何を書き込んでも動かないんじゃないのか。


 そうなると、プレイヤーは本物のフリーズとは知らずに文字を打っていくことになる。


 だからゲームでやっていることなのか、本当に止まっていることなのかを区別する何かが欲しいな。


 僕はワナイとダロウのそれぞれの理由を考えて書き出した。

 

 【ワナイは自分の家に帰る。それはシタシンダという町にある】

 【ダロウはライトニングストーンがドラゴンのいるところに隠されていることを知っている】


「あたしの家によ。シタシンダって町に帰るのよ」


 ワナイは魔女に言うと再び歩き出した。


「ライトニングストーンていう石がドラゴンのところにあると聞いたことがある。俺たちはそれをあんたにやろうと思うんだが、どうだ?」


 魔女はダロウの言ったことを聞き入れるとワナイを呼び止めた。


「おい、そこの女。止まれ」


 魔女は手をワナイのほうに向けると、ワナイの目の前につららが何本も降ってきて地面に突き刺さった。


 ワナイは振り向いて魔女に言った。


「なにするの!?」

「お前も一緒に来るんだ。子どもに戻してやったんだから、われの護衛になれ」

「な!? 何でよ?」

「でないと、また大人にさせるぞ」


 ワナイは魔女をにらんだ。


「安心しろ。いっときだけだ。われがライトニングストーンを手に入れるまでだ」


 魔女がそう言うとワナイは盗賊たちをチラリと見た。


「彼らがいるじゃない」

「そいつらは道案内役だ」

「よくわからないわ。あんたは強いんだろ」

「ああ、強いと自負している。だが、それとこれとは別だ。買い物をしたら払ってもらおうか」

「あんたが勝手にやったことじゃない。あたしの体を大人に。それであたしを元に戻した。だからもう払った、違う?」

「ふうん、わかった」


 魔女は手のひらをワナイに向けて何かを放った。すると、見る見るうちにワナイは大人になってしまった。


「か、体が、また大人にしたな! あたしを」

「お前がわれの言うことを聞かないからだ」


 ワナイは剣を拾い上げて魔女に突き立てた。


「あたしを戻せ!」

「戻させたかったら、われの護衛になることだ」


 ワナイは剣を下ろしてうなだれながら言った。


「わかった」

「わかればよい。それじゃあ、ライトニングストーンのところまで案内してもらおうか」


 そうして盗賊たちとワナイと魔女はドラゴンのところへと歩き出した。



 そのころ、ウタガは崖沿いを歩いていた。


「うーん。向こうに渡れる橋がないのだー」


 僕はウタガが通る先に橋を掛けた。木の橋で丈夫な物を作って置いた。


「おっ! あれは橋なのだー」


 ウタガは橋を見るなり走り出した。近寄っていき、それから物珍しそうに橋を見ている。


「うん、これなら向こう側へ渡れるのだ」


 ウタガの目指している先を確認すると、ちょうどドラゴンのところに続いていた。


 そうなると、ライトニングストーンをドラゴンのところに置いておかなきゃならないかな? まあ、一応作って適当な場所に置いておくか。


 【ライトニングストーンは黄色い石で投げるとそこに稲妻が走る】


 僕はそれをドラゴンの足元に置いた。


 しかし、よく見るとドラゴンはずっと前を向いたままピクリとも動かない。キャラを作成すれば勝手に動いてくれるのに、ドラゴンは動かないんだよな。


 うーん、また何か書き込まないと動いてくれないのかな?


 僕は適当にドラゴンの性格などを書いてみた。


 【ドラゴンは冷静で知的。人の言葉を話せる。ライトニングストーンを守っている】


 守る理由は……まあいいや。とりあえずこのまま進めてみるか。


「ん、ここはどこだ?」


 あ、ドラゴンが動き出したな。やっぱり何か理由的なものを書かなければならないのか。


 ドラゴンは少し歩き辺りを見ている。


「俺さまはどこから来たんだ? ん?」


 ドラゴンは要塞を眺めた。


「何だこの要塞は?」


 バサァバサァと羽を動かして飛び、その要塞を見回している。


「ん? 誰か寝ているな」


 ドラゴンはウヨネの隣に着地した。


「こいつは誰だ? しかし……」


 ドラゴンは要塞の上から森の風景を眺めた。


「森だけだな。ん? あそこに煙が上がっているな」


 ドラゴンはそこへ飛び立って行った。


 あっ! ライトニングストーンを置いたままドラゴンが行ってしまった。

 ドラゴンはライトニングストーンを守っているんじゃなかったのか?


 ちゃんと書いたのにな、守っているって。


「な、何なのだ? 何かが飛んでいる音がするのだ」


 ウタガは空を見上げた。そこにはドラゴンが空を飛行していた。


「あっ! ドラゴンなのだー」


 ウタガはドラゴンを追って行った。


 

「おい! 何か近づいてきてるぞ!」


 バレナイは辺りを見回した。バサァバサァとドラゴンは魔女たち一向に近づいていた。


「あ、あれだ!」


 ダロウは空を指さした。


「ドラゴンだ! おい、追うぞ!」


 盗賊たちは走り出した。魔女とワナイもそのあとを歩きながら追った。

 ドラゴンはそのまま通り過ぎて、魔女たちがいた焚き火のところで着地した。


「焚き火か? 何でこんなところに焚き火が……」


 ドラゴンは辺りの様子を見ている。


「しかし、何か変だな? 俺さまの過去の記憶が思い出せない。どうしてここにいて、どこで生まれたのかもだ」


 うーんと唸りながらドラゴンは考えていた。


「たしかライトニングストーンを守っているということは何となく記憶にある。が、なぜそれを守らなければならないのかが記憶にない」


 盗賊たちはドラゴンに近寄っていた。そして、バレナイとダロウがその場所に着いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る