第8話 魔女との攻防

 ワナイに剣を突きつけられながら一同は魔女のところまで来た。


 魔女はウタガたちの足音に気づくと、手から炎の玉を作り出してその方向に放った。間一髪そこにいた全員は避けた。


 魔女は再び炎を作り片手でつかみながら、ウタガたちや盗賊たちを交互に見ている。


「おい! 待ってくれ!」


 ダロウが両手を上げながら魔女に言った。


「俺たちは争いに来たんじゃない。話し合いに来たんだ!」

「そ、そうなのだー!」


 ウタガはダロウに続いて言う。


「私たちは何もしないのだ。丸腰なのだー!」


 魔女は鋭い視線をワナイのほうへ向ける。ワナイは剣を魔女に向けたままの体勢で隙を見せないでいる。


 それを見ていたバレナイが魔女に言った。


「そういや、そこの女があんたに用があると言ってたぜ。ガキだった体を大人にさせられた恨みだとよ」


 魔女はワナイを注意深く見ている。ワナイも視線をそらさずに魔女をにらんでいた。


「ああ、わかった。あのときのお前か」


 魔女は手に持っている炎を握りつぶして消すと、椅子に座りリンゴを頬張る。


「われにその体を戻すように言いに来たのか?」


 魔女の問いにワナイは一括した。


「うるさいっ! お前を倒して、この体を元に戻させる!」

「あ、そう。で、ほかの者は何しに来た?」


 ウタガは真っ先にそれに答えた。


「いやー私たちは、君がウォーターストーンを持っていると、そこにいるバレナイとダロウに聞いて、ここまで来たんだ。そうだろう」


 ウタガは盗賊たちに話を振った。


「ああ、そうだ」


 ダロウが答えると魔女に向かって話した。


「俺たちはウォーターストーンを探している。そこの剣を持った女から、あんたがその石を持っていると聞いたんでな」


 魔女は注意深くそこにいる者を見回したあと、ローブのポケットを探りウォーターストーンを取り出した。


「これのことか?」


 ダロウはその石を見ると少し魔女に近づいた。


「ああ、それだ。そいつを探していた」


 魔女はウォーターストーンをポケットに入れた。それから再び手のひらに炎の玉を作り出した。


「お前らにこれをやるつもりはない。欲しかったら力ずくで取りに来い」


 魔女以外の4人は皆それぞれ身構えている。

 ウタガは構えを崩して魔女に聞いた。


「なあ、私はドラゴンを探しているのだが、見なかったか?」

「ドラゴン? 知らないねぇ」

「そうか、私はそいつを探しているからここは退却するのだ。いいだろう魔女さん」

「ああ別に構わない。逃げたかったらな」

「とういうわけなのだ。じゃあ、君たちもがんばってくれなのだ」


 ウタガはそう言って。振り返りそこから去って行った。


「さあ、どうする? ひとり逃げたが、お前らも逃げるか?」


 バレナイとダロウはお互いに目で合図をしている。ワナイは剣を構えながら動こうとはしなかった。


「まあ、われはお前らが向かって来ようが来まいが、返り討ちにするだけだ」

「うるさいっ! 魔女をやるのはあたしだ!」


 ワナイが剣を振り上げながら魔女に向かって行った。魔女は座ったままただ見ているだけだった。


 ワナイは魔女の目の前まで来ると剣を思いきり振り下ろした。


「なに?」


 ワナイの剣は椅子を真っ二つにしているだけだった。

 魔女の姿がない。キョロキョロとワナイは辺りを確認した。


「どこにいる?」


 ふふふ、と魔女の笑い声がその森にこだましていた。


「ここだ」


 魔女はワナイの後ろに立って、その首元に先の尖ったつららのような物を持ち突きつけていた。


 ワナイはそれを振り向きざまに剣を後ろへと薙ぎ払った。


「おっと」


 剣は空を切り魔女は消えた。


 バレナイは持っている銃を魔女に向けていた。狙いを定めながら隙をうかがっている。ダロウはナイフを持ちながら魔女を仕留める方法が何かないか考えてるようだ。

 

 ふふふ、とまた森の中を魔女の笑い声がこだました。


「おい!」


 ダロウがその声に質問をした。


「何でウォーターストーンを盗んだんだ?」

「何でだと……」


 姿を見せない魔女の言葉だけが森に響いた。それからしばらく魔女は何も言わなかった。ダロウの質問に対して考えているのだろう。


 ……あれ? 壊れたかな? 画面が全然動かない。マウスを何回かクリックしても何の反応も見せない。


 僕はルーターやモデムなどが作動しているか確認した。光は点灯していて、ちゃんと作動している。


 ディスクを入れてゲームをやっているだけだからネットは多分関係ないだろうけど、一応見てみた。


 それから、僕はキャラを動かすために適当な文字を打ってみた。


 【キャラは動いて物語を進める】


 ……反応がない。完全なフリーズ? セーブしてないよ。まいったな。


 僕は仕方なくゲームソフトを送って来た友人に電話を掛けた。


「あ、もしもし。あのさ、お前が送って来たゲームだけど、プレイしている途中でフリーズしちゃってさ。試作品だからかもしんないけど……。うん、うん。わかった」


 僕は電話を切った。


 友人が言うには、それもゲームの一環だという。どうやれば動くのかを試してみてと言っていた。


 何かを書いていけば動くようになるらしい。

 何を書けばいいんだ? キャラが動かない。何で動かなくなったんだろう。


 今まで勝手にキャラが動いてしゃべっていたからなー。うーん、もしかしたら理由かなぁ。なぜということが抜けているのかもしれない。


 理由なしにキャラは行動しないのかもしれない。


 僕はフリーズする前のキャラの会話を確認した。

 メニュー欄にある『キャラたちの会話』の項目でそれが見れる。


「何でウォーターストーンを盗んだんだ?」

「何でだと……」


 と、言っている。ここで止まっているんだ。


 魔女が何か言おうとしたけど言えなかった。それは理由なのかもしれない。ウォーターストーンを盗んだ理由がないとそのキャラは行動してくれないのかな?


 おかしいな。魔女がなぜ盗んだのかは『水を作れる物だから』と書いたはずだけど。


 僕は仕方なくもう一度言葉を変えて、魔女がなぜウォーターストーンを盗んだのかを書いた。


 【魔女はウォーターストーンがとても綺麗だったので盗んだ】


「それは、この石が綺麗だからさ」


 あっ! 動きだした。ふーん、理由づけね。でも何で今まで勝手に動いていたんだ? まあ、キャラに理由づけは多少はしていたけど、動かなくなることはなかったからな。


 フリーズもゲームの一環ねぇ。こんなのを商品化したら苦情殺到だろうな。これを作ったゲーム制作会社のサイトなどに、そういったことを書いてある説明書でも載せておけば問題ないかもしれないけど。


 説明書を読まずにゲームをやる場合があるから、ここは改善したほうがいいかもな。


 魔女は姿を見せると、ポケットの中にあるウォーターストーンを取り出して眺めた。


「綺麗だろう」


 パンッ! とバレナイが魔女に向けて銃を撃った。魔女は姿を消した。


「クソッ外したか! どこにいやがる」


 バレナイが辺りをうかがいながら見ていると、ダロウがバレナイに話しかけた。


「おい、俺が奴の気をそらす、その隙ができたらそいつで撃ってくれ」

「ああ、わかった」


 ダロウは前に出て行って魔女に話しかけた。


「なあ、あんた! ウォーターストーンはくれてやる。だから出て来て少し話し合わないか。もっといい情報を持っているんだ。ウォーターストーンなんかよりも、もっと綺麗な石を知っている」


 ダロウがそう言うと魔女はフッと姿を見せた。


「この石より綺麗だと?」

「ああそうだ」

「よかろう、言ってみろ」

「それはなぁ……」


 パンッ! と再びバレナイが銃を魔女に向けて撃った。魔女は手を出してその玉を指で摘まんだ。


「それで、なんだ?」


 魔女は何事もなかったかのようにダロウの話の先を促した。

 パンッパンッと撃つが、玉を摘まんでは地面に落とし摘まんでは地面に落とした。


「化け物か?」


 バレナイは銃を構えたまま動かなかった。


「あ、ああ……」


 ダロウは考えながら辺りを見回していた。その隙に乗じてワナイが魔女にゆっくりと近寄っていた。

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