第7話 奪い合う先手

 ダロウはバレナイに目で合図すると、ワナイたちに言った。


「わかった。じゃあ、そこまで行こうぜ。お前らが俺らを先導してな」

「何であたしたちが先導すんのよ」

「そんな魔女がいるんなら、俺たちはあんたらのあとを追う。その魔女にガキにされたくないんでな。魔女のところへ行きたいんだろう?」

「うん、いいわよ。その代わり、あんたたちとはここでお別れね」

「お別れだと、それはどういうことだ?」

「ハイキングに来てるって言っていたわね。バッグはどこ?」

「ああ、森の中に置いてある」

「どのあたりに置いてあるの?」

「あっちのほうだ」


 ダロウは森の奥のほうに人差し指を向けた。ワナイはそのほうを見ながら言った。


「じゃあ、取ってきてよ」

「あ? なぜだ」

「もしあの煙のところに魔女がいたら、そのバッグを魔女に渡すの。でないと、あんたたちは子どもにされるわ」

「子どもにされる? 本当にガキにされるのか?」

「ええ」

「……何でバッグなんだ?」

「ハイキングっていうことは、ちょっとは食糧か水なんかは入っているのよね。それを魔女に渡して、油断させるのよ。そうして魔女を拘束させて、この呪いを解いてもらうのよ、力ずくでね」


 そこで、ダロウは会話を止めて何かを考えていた。ワナイは目を離さずに盗賊たちを見ている。痺れを切らしてワナイは言った。


「どうなの?」

「……残念だが、食糧は全部食べてしまったんだ。水も持ってない」

「ふうん、そう。じゃあ、バッグだけでもいいわ。持って来てよ」


 バレナイがそこに割り込んでダロウの代わりに言った。


「もういいだろ。バッグを持って行かなくても、何とかなるだろう」

「わかってないわね、魔女の恐ろしさを。一瞬よ、ほんの一瞬であたしは大人にさせられたの」

「ふーんそうかい、それが本当ならな。俺たちは騙されねえ。もし魔女が本当にいるってんなら、会わせてみろよ」


 ワナイは考え込んでいる。ウタガは代わりに案を出してきた。


「なあ、どうだろう君たち。ここは公平にじゃんけんで決めるっていうのは」

「じゃんけんだと?」


 バレナイがウタガに訝しい顔を向ける。ウタガはそれを気にせずに続けた。


「そうだ、じゃんけんなら負けても文句ないだろう」


 バレナイとダロウはお互いに顔を見合わせたあとダロウは頷いた。それを見たバレナイはウタガたちに言った。


「いいだろう。じゃんけんだ」

「はははは、わかってくれてありがとうなのだ。君もいいよね」


 ウタガはワナイに聞いた。


「ええ」

「よし、じゃあ、勝ったほうがその人の言うことを聞くこと」


 少しためらったあとバレナイは言った。


「ああ」

「それじゃあ、誰がじゃんけんをするのだ?」


 ウタガはワナイと盗賊たちを交互に見ながら言った。


「あんたがやれば」


 ワナイはウタガの背中を押す。盗賊たちのほうはバレナイがやることになった。最初はお互いがあいこだった。


 そして……。


「俺たちの勝ちだな」


 バレナイはそう言って勝ち誇った顔をする。ウタガは頭の後ろを手で擦りながらワナイに謝った。


「いやー面目ない。すまんすまん」


 ワナイはそれに答えず横を向いた。


「じゃあ、約束通り俺たちを先導してもらおうか」


 バレナイはウタガたちを前に行くように促した。ワナイは盗賊たちをにらみながら忠告した。


「どうなっても知らないわよ」


 盗賊たちはその言葉にニヤリとするだけだった。

 盗賊の前をウタガたちが歩いて行く。チラリチラリとワナイは後方をうかがいながらウタガに言った。


「あんたがいけないのよ。負けたりするから」

「すまないのだー。まあ、気を取り直してがんばろう」


 そのとき、ワナイが盗賊たちから目を離した隙に盗賊たちはウタガたちに武器を向けた。


「おい」


 バレナイがウタガたちを自分たちに向かせる。ウタガたちはそれぞれ驚いた顔をした。ワナイはとっさに剣を盗賊たちに向けようと動いた。


「おっと動くな」


 バレナイが銃を突きつけてウタガたちを脅す。


「動かないほうが身のためだぞ」


 ダロウはナイフを突きつけながら言った。ウタガは驚きながらも聞いた。


「ど、どうしたのだ? いったい」


 それを聞かずにダロウは言った。


「ウォーターストーンはどこだ?」


 ウタガとワナイはお互いに顔を見合わせるとウタガが答えた。


「う、ウォーターストーン?」


 バレナイが威嚇のように返した。


「ああそうだ。お前らが盗んだんだろう、どこだ!」

「ちょ、ちょっと待ってくれー。君たちは何か誤解をしている」


 バレナイは銃をウタガの顔に近づけた。


「うるさい。どこに隠してある!」

「本当に何のことだかわからないのだ」


 ダロウはワナイに声を掛けた。


「あんたはどうなんだ? 知ってるんだろ?」


 ワナイは黙ったまま、あさってのほうを向いて答えた。


「知らないね」

「本当か?」

「あ! そういえば知ってる」

「どこにある」

「魔女のところさ」

「魔女? 本当だろうな」

「そうだよ。魔女が現れて、あたしを大人にさせたとき、ついでに奪って行ったのさ、そのウォーターストーンを」


 あれ? そんな話だったっけ。何も設定しないとキャラが勝手に物語を作っていってしまうのか。


 盗賊たちはお互いに話し合った。


「どうする?」


 バレナイがダロウにそう聞くとダロウは少し考えてから答えた。


「とりあえず、魔女のところへ行く。そいつが嘘をついているかもしれないからな、もし魔女がウォーターストーンを持ってなかったら……」


 ダロウはワナイの顔にナイフを近づけた。


「お前らを殺す」


 ダロウがそう言うと、ワナイはにらみ返して鼻では笑った。ダロウはそれに構わず先に行くように促した。


「行け」


 そうなると、魔女にウォーターストーンを持たせたほうがいいのか?


 僕はウォーターストーンを作り、魔女に持たせた。ついでに何でそれを持っているのかも書きこんだ。


 【魔女はワナイからウォーターストーンを奪った。それは水を作れる物だから】


 魔女は焚き火をしながら本を読んでいた。僕はポインターでウォーターストーンを魔女のローブのポケットに忍ばせた。


 ウタガたちは盗賊たちに武器を突きつけられながら歩いている。

 そのとき、ゴゴゴゴォーと大地が揺れた。地震でウタガたちと盗賊たちの動きが止まる。


「ど、どうしたのだー?」


 ウタガは辺りをキョロキョロと見ていた。


「何だ? 地震か?」


 バレナイは地面を見ながら言った。


「おい! アレを見ろ!」


 ダロウが空に指をさした。そこにいた者は一斉にその方向を見上げた。そこには巨大な隕石が轟音を立てながら降ってきていた。


「何だあれは?」


 バレナイが疑い深そうに言う。


 ゴゴゴゴォ……と次第に大きくなり、そして、すさまじい地響きが地面を揺らした。ウタガたちも盗賊たちも立っていられずにその場に伏せてやり過ごした。


 しばらくすると揺れは収まり元の静けさに戻った。


「いったい、何だったんだ……」


 バレナイが立ち上がりながら言うと。ワナイが素早くその後ろに回り込み剣をバレナイの首元に突きつけた。


「動かないで」


 ワナイが鋭い目つきを盗賊たちに向ける。ダロウは降参するように手を上げた。


「あんたたちが先に行きなさい」


 ワナイの勢いのある声が盗賊たちに向けられた。盗賊たちはしぶしぶといったように、ワナイたちの前を歩いていく。


 僕が見ている画面は、隕石が森に落ちて地面をエグっている状態になっていた。

 ふうん、こうやって自動的に隕石は降って来るのか。

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