第6話 制約や制限をつける
こんなんでいいなら、ゲームじゃないよね。だって見てるだけじゃあ、ちょっとな。
少しはこちら側が操作したいってのもあるし。自由に書ける分、制約や制限がないから面白味がなくなるっていう感じかな。
何か制約みたいなものでもつけてみるか。
そうだなぁ……制約ねぇ。
【この森では時々、巨大な隕石が降ってきて地面を揺らす】
「とりあえず、これでいってみるか」
僕はあまり真剣に考えずに制約をつけた。
ウタガたちと盗賊たちは橋から降りて出口を探しに行った。
先に口を開いたのはウタガだった。
「私はウタガっていうものだ、よろしくなのだ」
「俺はバレナイ」
「ダロウだ」
ワナイは何も言わないかった。
「おい、お前の名前は?」
バレナイがワナイに聞いた。ワナイは疑わしそうに盗賊たちの方を向くと、持っている剣を振り下ろした。
「あんたたち。本当のことを言いなさい!」
すごい剣幕でワナイは盗賊たちを罵った。バレナイは手のひらを上に向けて無謀に見せた。
「お、おい。俺たちは何も……なあ」
バレナイは焦りながらダロウに話を振った。
「そうだ、俺たちは何でもないただのハイキングを楽しんでいる者だ。本当のことってなんだ? そんなこと言うんだったら、あんたたちは何者なんだ? 見たところハイキングをしているようにも見えないが」
ウタガがそれに答えた。
「私はドラゴンに恋人を連れ去られたから、ドラゴンを追ってここまで来たのだ」
「さっきも言っていたな。ドラゴンだと? そんなものが本当にいるのか?」
ウタガはそこで言葉に詰まった。
あれ? ああ、そうかウタガはドラゴンという言葉は知っているけど、ドラゴンの姿とかは知らないんだ。
【ドラゴンは緑の鱗を体にまとって、大きな羽。鋭くとがった爪や牙を生やしている】
一応ドラゴンの姿みたいなものを書いたけど、ダロウはドラゴンの姿を知っているのかな?
未だにこのゲームがよくわからない。キャラの中でどの程度、物事を理解しているのかが。
もしかしたら、僕の思考レベルに合わせて、ゲームの中で勝手に調整しているのかもしれない。
「どうした? 何も言えないのか」
ダロウは尋問のようにウタガを問い詰める。
「ああ、そうだった。ドラゴンは緑の鱗みたいなものを体にしていて、爪や牙が生えている生き物だ」
「ふんっ、俺たちがそんなものを信じると思うか? この世界にドラゴンなんているわけないだろう」
再びワナイは剣をウタガとダロウのあいだに振り下ろした。
「そこまでよ、あんたたちを信用した訳じゃないってことを伝えておくわ」
ワナイがそう脅すとダロウはそれを返した。
「こっちもだ、あんたらが何者かわからんが気をつけろ。俺たちに今度舐めた真似をしたらケガをする」
ワナイはふくれっ面をしながら剣を戻した。
「まあまあ、お互い仲良くやろうじゃないかーはははは」
ウタガは両手を出して落ち着かせるように言った。
盗賊たちはドラゴンを信じないか、でも、ドラゴンという生き物自体はわかっているみたいだな。
「一応ドラゴンを作っといてやるか」
僕は漫画などを参考によくあるドラゴンの見た目などを書いて、画面にドラゴンを表示させた。
【ドラゴンは緑の鱗をまとっている。背中には大きな羽があり鋭い爪や牙を生やしている。大きさは家より少し小さい。口から火をはく。水に弱い。歩くときは二足歩行】
よし、こいつを森の奥のほうへ置くか。
そう言えば、ウタガの恋人がドラゴンに連れ去られたんだっけ。それもついでに作っておくか。
【ウタガの恋人は女性アンドロイドで、見た目は人間。髪は水色のポニーテール。体は水色のトラックスーツを着ている。性格は支離滅裂】
僕はウタガの恋人をドラゴンの近くに置いた。
それから、ドラゴンがいる森を草原に変えて、そこに要塞を建てた。
要塞の前にドラゴンとウタガの恋人を置いた。
とりあえず、これで進めてみよう。
「え? ここは、ぼくの家?」
ウタガの恋人は驚きながら言った。
ん? ぼく? 一応女性に設定したんだけど、まあ、アンドロイドだから性別がないのかな。
このゲームをやって気づいたのは、事細かに設定しないと勝手にキャラのほうで自分を作ってしまうということ。
あと、建物を作るとき、家と書くとそのまま画面上に洋式の家が表示される。その家を大きくしたかったら。ポインターで家の角を引っ張ればいいようにできていること。
そういったことは、すでにゲーム内に設定してあるみたいだ。
例えばキャラをひとり作って、そのまま放置しておけば勝手にゲームをクリアしてくれるようになっているみたいな。
「ん? 何の生き物だ?」
ウタガの恋人はドラゴンのほうを向きながら言った。
名前をつけてやるか。いつまでも、ウタガの恋人って表示されるのもなんだし。
僕はウタガの恋人をウヨネに変えた。
ドラゴンはまっすぐどこかを見たまま、まったく動かなかった。
ウヨネはドラゴンの周りをグルグルと回ってその巨体を確認している。
「何か、劇にでも使うのか? それにしてもここはどこだ?」
ウヨネは要塞のてっぺんに飛び乗って辺りを見回した。
ああ、そうか! キャラに制限をつけないと超人になってしまうんだ。
ウヨネの制限はどうしよう。うーん、まあいいか。このままで。
ちょっと待って。アンドロイドという設定が必然的にそうさせているのか?
普通の人間だったら……いや、たしかワナイがオオカミに腕を咬まれたけど、痛みを感じなかったみたいだし、そのあとワナイとウタガには痛みを感じる設定をしたんだっけ。
じゃあ盗賊団も痛みを感じる設定にしないといけないのか?
はぁ、ちょっと面倒だな。仕方ない、一応痛みの設定をしておくか。
【バレナイは多少の痛みに耐えられる。殴られるくらいなら平気。血が出たら痛がる】
【ダロウは結構な痛みに耐えられる。刃物が突き刺さると痛がる】
これでいいかな。あとは様子を見てからにしよう。
「ふぁ~、ぼくは寝るよ」
ウヨネは要塞のてっぺんで寝てしまった。
ま、とりあえずここはこれでいいか。僕はほかのキャラたちを見ることにした。
「あっ! おいっ! あんなところに煙が立っている」
バレナイがほかの者に言った。
「ああ、そうみたいだな」
ダロウはそれに答えた。
煙? あ! 魔女のいるほうだ。魔女は焚き火をしている。
「行ってみるか?」
バレナイはダロウに聞いた。ダロウはそれに首を振りウタガたちのほうへ目をやった。バレナイは何かを思い出したように頷いた。
「あーホントだー! 煙なのだー! さっそく行ってみるのだー」
ウタガは走り出そうとした。それをバレナイが止める。
「おい待て! 俺たちは行かない、出口を探すんだ」
「でもーまた森で迷っていて、困っている人かもしれなのだ」
「いいから、さっさと出口を探すぞ」
(ヒュッ)っと、ワナイがウタガとバレナイのあいだに剣を振り下ろす。
「あ、あぶねえ。なにすんだ!」
バレナイはワナイにつかみかかるような勢いで言い放った。
「煙のところへ行くわよ」
ワナイがそう言うと、バレナイとダロウはお互いに顔を見合わせた。それからダロウは言った。
「なぜだ?」
「あたしもこの森ですることがあってね」
「ふん、あの煙のところに何があるっていうんだ?」
「魔女がいるかもしれないわ」
「……魔女?」
「あたしはこの体を魔女に変えられたの。子どもだったのよ、あたしは、でもその魔女によって大人に変えられた。だから」
それを聞いたダロウとバレナイは笑い出した。
「何がおかしいの?」
ワナイは訝しい顔を向けるとダロウは呆れたように言った。
「あまりにもバカバカしすぎて、それで、魔女に会ってその体を子どものころに戻してもらうってことか、俺たちは大人だから子どもにさせられるってのか?」
「そうよ」
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