第3話 敵キャラを作る

 魔女のところへ向かうのか? じゃあ、魔女を作らないといけない。

 どうすっかなー……。


 【魔女は紫色のドレスローブを着ている。紫色の長い髪。本を片手に持ってそれを常に読んでいる。その本は、魔法でできることが書いてある。性格はずる賢い】と入力した。


 まあ、こんなもんだろう。


 僕は森の一角を切り開いて草原にし、そこに魔女の家を置いた。それから作った魔女をそこに置いた。


「何だここは? どこだ、何でここにいる?」


 魔女が疑問の言葉を発した。


 あ、そうか忘れてた。

 僕は魔女がこの森へ来た理由を付け加えた。


 【魔女が森へ来た理由。自分の家があるから。それと魔女はワナイの体を大人にさせたことを知っている】


「あ、そうか、われはどこかの子どもを大人にさせたんだった。ふふふ」


 魔女は手に持っている本を読んで、それから手のひらを地面に向けた。するとテーブルと椅子が出現した。


 え? キャラが勝手に作ってくれるんだ。わざわざ何かを書き込んでやらなくても。


 魔女はそこに座り、魔法でティーセットを用意して何かを飲み始めた。


 僕はマウスでその飲んでいる物をクリックしてみた。すると画面には紅茶と表示された。クリックしながら魔女の持っているティーカップを横にずらしてみた。


「ん? なんだ、ティーカップが浮いている」


 魔女は辺りを警戒しながら見回した。僕はテーブルにティーカップを置いた。

 魔女は警戒しながらティーカップにそーっと手を伸ばした。それから紅茶を啜った。


 なるほど、僕が魔女の持っているティーカップを取り上げると、それに気がついて警戒をするのか。


 僕はウタガとワナイのほうを見てみた。


 ウタガとワナイは森の奥へと入って行った。ワナイはウタガを引き連れるようにして歩いている。


「しかしこうして、森の中を歩くと気持ちのいいもんだねー」


 ウタガの言葉に答えず、ワナイは森の奥へまっすぐ足を進ませていく。ウタガはさらに続けた。


「私たちは、なぜここに来たのかわかっているけど、それ以外はどこで何をしていたのかわからないから、かえって頭がスッキリして……」

「ちょっと静かにして、この辺りに魔女のいる気配がするから」


 ワナイはウタガの言葉を切って辺りを警戒した。


「す、すみません」


 ウタガは頭の後ろを擦りながら謝った。


 位置的には確かに近い距離にいる。僕はすこし冒険感を出すためにそこに崖を作った。落ちれば命の保証はないほどの高さのあるものを。


 彼らは森を抜けて崖の前に来た。


「崖だわ」

「あーあ、これじゃ渡れないね」


 一応ここを越えれば魔女のいる場所へ着けるようにしてある。


「仕方ないわね、回り道をしましょ。面倒だけど」

「うん、そうしよう」


 ワナイとウタガはほかの道を探し始めた。彼らはそこから左に曲がり崖沿いを歩き出した。


 じゃあ、そっちのほうに吊り橋でもかけてやるかな。そこには何か敵キャラが欲しいな。うーん、盗賊をふたりほど置いてみるか。


 【盗賊男1。緑の迷彩服を着ている。銃を所持している。怒るとすぐ人につかみかかる性格】

 【盗賊男2。青の迷彩服を着ている。ナイフを所持している。とても冷静沈着な性格】


 僕は盗賊たちを橋の向こう側の崖の近くに置いた。


「何だここは? お前は誰だ」

「お前こそ誰だ?」


 ああ、そうか。ふたりはお互いを知らないんだ。


 僕は【盗賊ふたりが知り合い同士で、一緒に盗賊として働いている】と入力した。


「あ、おまえ、たしか一緒の盗賊団で働いている……」


 盗賊男1が言葉に詰まった。


「ああ、働いているが、おまえは……」


 あ! 名前か、お互いの名前を付けないといけないんだ。

 えっと【盗賊男1はバレナイ。盗賊男2はダロウ】にしてと。


「思い出した。お前はダロウだな」

「ああ、そうだが。そういうお前はたしか、バレナイか」

「そうだ」


 盗賊ふたりは辺りを見回している。


「しかし、ここはどこだ?」


 バレナイがダロウに聞いた。


「さあな、見たところどこかの森にいるらしい。それに、さっきから過去のことを思い出そうとしているが、何も思い出せない」

「思い出せない?」

「ああ、試してみたらどうだ」


 ダロウに言われて、バレナイは過去を思い出しているようだ。


「……クソッ! 何が起こっている。頭の中が空だ。どこで生まれたのかも思い出せない」

「そうだろう。俺たちは知らないあいだにここに連れてこられた。そして俺たちの過去の記憶を消して寝かされていたというわけだ。何者かによってな」

「そいつは一体誰なんだ?」

「さあ、わからない」


 へぇー、この盗賊たちは少し頭が切れる奴らだな。こうしてキャラを作ってみると、けっこうキャラ自体が自由に発想してくれるもんなんだな。


 でも、この程度で商品化はできないだろうな。もっと面白くしないと。これはいちゲームプレイヤーとしての意見だ。


「過去を消すか……」


 ダロウは腕を組んで何かを考えているようだ。


「どうした?」


 バレナイは辺りを警戒しつつダロウに聞いた。ダロウは考えたことを話し始めた。


「俺たちがどこだかわからないところにいるのはわかる。過去の記憶を消していることもな」

「ああ」

「じゃあ、何で俺たちが盗賊だってことは記憶から消えてないんだ? お互いの名前も知っているようだし」

「そう言えばそうだな」

「もしかしたら、何か重要なことは消されずに、この頭の中に眠っているのかもしれない、今は」

「なるほど。だとすると俺たちは、何かの任務のためにこの森に来ているというわけか」

「かもな」


 ふたりは辺りを警戒し始めた。


 任務って出て来たな。任務かぁ……何か任務めいたことをやらせてやるか。盗賊団って言っていたから。


 【バレナイとダロウは、盗賊団にあるウォーターストーンを誰かに盗まれて、それを取り戻しにこの森に来た。盗んだ犯人の手掛かりは男と女のふたり組ということ】


「そうだ、思い出したぞ」


 ダロウはそのまま思い出したことを誰にでもなく言った。


「俺たちはあることを盗賊団から任されていた。それは盗賊団の本部に保管してあったウォーターストーンを取り返しに行くことだ」


 バレナイはそれに続いて言った。


「ああ、そうだ。たしか、それを盗んだ犯人がわかったから俺たちはそいつらを追って、この森に来たんだ。犯人は……男と女のふたり組だと聞いている」


 ダロウは頷いて答えた。


「そいうことだ。じゃあ、そいつらを探しに行くぞ」

「ああ」


 盗賊ふたりは崖沿いを歩き出した。


 これで盗賊たちはウタガとワナイに出くわすわけだが。うーん、何も思いつかないしこのまま様子を見てみるか。

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