第6話 宮殿

 目の前に今までと違う景色が広がっていた。


「オルトガへ来たのか?」


 キョロキョロと周りを見回していると、兵士らしき人が近づいてきて、


「ハガトとメイカか?」


と、聞いてきた。その名前にもここ数日ですっかり馴染んだ。


「そうです」


「宮殿まで案内するから馬車に乗ってくれ」


 いきなり宮殿か。


 オルトガでは馬に乗った3人の兵士と馬車での移動だ。街の兵士は鎧など身につけていなかったが、オルトガの兵士は軽装備ではあるものの鎧をまとっていた。


 都会というのはどこもそうなのか建物の高さが明らかにコベルコよりも高い。転送装置の位置からご立派な建物が見えていたのでそれが宮殿ではないかと思っていたが、案の定その建物の入口と思われる門の前で立ち止まった。


 兵士が門番らしきものとやり取りをしているとご立派な扉が、ガガーと音を立てて開いた。



 俺は中を見てまず思ったのはとにかく広い。中小の建物がいくつもあるが目を引くのは遠くにあるでかそうな建物。高さは3階ぐらいだろうか。それほど高いわけではない。でも面積はかなりあるんじゃないだろうか? どうしてそう思うかというと横幅が広いのはひと目で分かる。となると奥行きかなりあるんだろう。


 俺たちはその大きい宮殿らしき建物の前まで連れて行かれると、今度は身なりがいい中年のおっさんが出迎えてくれた。だいぶん腹が出ているおっさんで貫禄は中々ある。俺達の前まで来ると、


「長旅ご苦労だったな、今日は宮殿の客室で休むといい。明日には王から詳しい話が聞けるだろう」


 なんてこった。俺たちのようなどこの誰かもわからぬものを宮殿で泊まりで迎え入れ、しかも明日には王様に謁見できるだと。なんて──


「なんてVIP待遇かしら」


 彩芽に先を越されたが同感だ。俺は異世界に来て普通の一般人として一生を終えるつもりはなかったが、いかにもゲームの世界って感じで都合よく話が進みすぎている。ひょっとして今はまだゲームのプロローグでまだ始まってもいなかったのか? 彩芽に意見を聞いてみると「えー、じゃあまたアレ踏むところからやり直すの?」と言われた。聞いた俺が馬鹿だったよ。


 例によってやることがないので寝る前に宮殿内を見て回りたかったのだが、さすがに見て回れるところは制限された。


 仕方がないので現状唯一の時間つぶしのステータス覗きで目についた兵士のステータスを片っ端から覗いてみた。結果としては宮殿にいる兵士はコベルコまで送ってくれた兵士とそれほど変わらず、宮殿まで送ってくれた兵士のほうが少しステータスは高いぐらいだった。


「なんか拍子抜けだよな」


「うん、でも炎進騎士団の人らしき姿も見かけなかったし、ほとんど制限があって行けないところばかりだし」


「まあ宮殿内にいるとも限らないしな」


 実際広い宮殿ではあるが、大量に兵士を常駐してるわけではあるまい。


 俺も彩芽もやることがなくなったので部屋で待機することにした。それにしても2人分のベッドがあったが、1つのベッドで十分2人寝れる広さがあった。


 それだけではなく部屋にはシャワーがあった。もちろん日本にあるように便利なものではなく固定シャワーとなっていた。ただ扉がなく奥まったところにあるとはいえ、覗き込むことも可能なのはどうかと思った。さすがに俺と彩芽はそんなことはしないしお互いその辺は信頼しあっているので大丈夫だが、顔見知り程度の仲だった場合はかなり気まずい思いをするだろう。


「久しぶりに一緒に寝ようか」


 彩芽が提案してくる。これだけ大きなベッドなら一緒に寝ても狭いということはないだろう。



 俺たちはこの世界に来てから一番快適な夜を過ごすことができた。

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