第7話 国王の依頼

 翌朝起こされて目を覚ました。


 起こしに来たのは元の世界で言うメイド風な姿の女の人だった。俺も彩芽も久しぶりな快適な環境にぐっすりと眠ってしまったようだ。


「部屋の外でお待ちしていますので準備ができたら来てください」


「何が始まるんですか」


「国王からお話があります」


 そういえばそんなことを昨日言われたが、まさかこんなに早く実現すると思っていなかった。


 俺も彩芽もたいして準備するものがない。せめて王様に寝ぼけ眼を見せないように顔を洗う程度だ。それだけ終わらせて俺たちは部屋を出た。


「ついてきてください」


 女の人は口調も態度も事務的だ。


 俺たちは昨日は入ることができなかった通路を通り大きな部屋へと案内された。


「ここでお待ち下さい」


 女の人はそれだけいうと来た通路を戻っていった。


 ずいぶん広い部屋だ。200人ぐらい入っても窮屈には感じないだろう。しかし俺は部屋よりも先客の方に目を奪われた。様々な鎧に身を包んだ人が多かったが軽装の人も一部いた。鎧を着ていても兵士とも雰囲気が違う。そんな人が50人ぐらいいるようだ。


「彩芽、ステータス」


「うん」


 彩芽も気づいていたようだ。ここにいる人達は明らかにステータスが高い。今まで見た兵士よりも全然高い。というか桁が違う。しかし俺はここでステータスを見れる便利さと欠点にも気づいた。ステータスは数値で強さを比べることはできるが、実戦でどの程度の差が現れるのか実際に見てみないとわからない。兵士と戦った場合軽くあしらえるぐらいなのか、そこそこ打ち合える程度の差なのか。以前兵士が魔物を蹴散らしていたときのことを考えると兵士なんて相手にならないぐらいの差があるのかもしれない。


 さらにステータスのスキル欄や装備欄がすごいにぎやかなことになっている。それにしても火炎鎧とかはまだなんとなくわかるが、


(水のカーテンって何だよ)


 装備欄にそう表示されている人は女の人だったが当然カーテンを着ているわけではない。この世界のカーテンは俺の知っているカーテンとは違うのか?


 スキル欄も「力」とか「敏捷」とか表示されているけれどステータス欄にも同じ項目があるので紛らわしい。まあステータスの力は素の「力」でスキルの「力」によって増幅しているといったところか。軽装備の人は魔術師のようでスキル欄には「氷」とか「大地」とか表示されている。ずいぶん漠然としていてどんな攻撃かもよくわからない。これがゲームなら「アイスランス」だの「ブリザード」だので何となく分かるんだけどなあ。


(相変わらず女性のステータス欄の3サイズは空欄だな。何のためにあるんだか)


 あと気づいたのはスキルにはスキルレベルがあることだ。俺のステータスのスキル欄にある「祝福」はスキルレベルが表示されていないので今までそういうものだと思っていた。ん? そういえば一部のスキル持ちの兵士にスキルレベルが表示されていたような?



 しかしステータスを覗き見して興奮していたが、冷静になってくると自分たちが場違いなところにいることに気づく。何でこんなステータスオールスターが揃っているところに俺がいるんだ? などと考えていると俺たちが入ってきたところとは別の扉から誰かが入ってきた。


 それなりに騒がしかった部屋が静まり返った。


 部屋に入ってきたのは立派な鎧に身を包んだごっついおっさん。なんとなくだがこいつが国王だなと思わせる雰囲気を持っている。続いて5人入ってきたがその中の一人が国王らしき人物に負けないようなご立派な鎧だった。しかも赤い鎧だ。


(もしかして炎進騎士団の人?)


 まだ若そうな人だが堂々としている。


 しかしステータスを覗いてぶったまげた。なぜならまだ一部しか見ていないがここにいる者たちは別格なステータスを持っている。だが国王らしき人物と炎進騎士団の人らしき人物はさらにステータスが高いのだ。


 ステータスを覗いたおかげであっさり正体もわかった。国王らしき人物のスキル欄には「国王」と表示されていたし、炎進騎士団と思われる人物には「隊長」と表記されている。「村長」「国王」「隊長」は俺の「祝福」同様スキルレベルがないんだな。



「待たせたな。知っているものもいると思うが私がメディリン国の国王、バルドスだ。中には遠方から来たものもいると思うがご苦労だった」


 国王が挨拶をする。


「なお、残念ながら今日ここに来れなかったものも多数いるが、その者たちには後日諸君らに話すことと同じ内容のことを話しておく」


 今いるだけでも50人ぐらいいるが、まだ結構来る予定だったのか。すぐに分かるんだろうけど何の目的で集められたのか気になる。しかも遠方って言ってるぐらいだから幅広く声をかけたのだろう。



「諸君らは最近魔物が活発化していると感じてはいないだろうか?」


 国王は言葉を切って反応を伺うように見渡す。



「魔物の活発化は不吉の前兆と私は考えている。かつての大厄災のときもそうだった」


 大厄災ってどこかで聞いたな。



「そこで諸君らに各遺跡の調査をして欲しい。そのために様々な強さのものを集めたつもりだ」


 まだ一部の人のステータスしか見れていなかったが全員が強かったわけじゃないのね。俺たちは最底辺ってことで呼ばれたのか。



「調査と言っても特別なことをする必要はない。いつも皆がしているように遺跡攻略をすればいいが異常が起きていないか、そういった目線で遺跡攻略を頼みたい」


 しかしこの流れだと俺は冒険者になる流れだな。まあゲームの王道、というか異世界転生の王道か?



「今日のところは私からの話はこれだけだ。それと先程も言ったがいろんな強さのものを集めたのでここにはまだ駆け出しの冒険者もいる。該当者には私から冒険に役立つものを提供するつもりだから受け取ってくれ」



 俺たちは駆け出しどころか未経験者だがな。まあやってやろうじゃないか。こちとらゲームのプレイ経験なら豊富なんだよ。


「お兄ちゃん、声、声に出てるよ。周りが変な目で見てる」


「あ、ああ、すまない」


 またやってしまった。



「あと料理を提供するので皆ゆっくりと楽しんでいってくれ」


 言い終わるとメイドらしき人が扉から出てきて料理を運んできた。20人ぐらいで作業をするので早い、早い。それにしても綺麗所を揃えているなあ。


 ふと彩芽が冷たい目線でこちらを見ているのに気づいた。


「もしかしてまた声に出てた?」


「ううん。別に声に出ていないよ」


 よかった。


「顔に出ていた」


 全然よくない。

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