第4話 異世界の村

 村の中を2人でぶらついたが見たことがない野菜や果物を作っているとか、見慣れない家畜がいるとかそういう点以外は特に特筆するものがない。食事もどうすればいいのかわからないが最悪今日は我慢して明日の迎えに来るものに話せばどうにかしてくれるかもしれない。


 村を歩いていると2人に声をかけてくるものもいた。元のハガトやメイカはこの村で普通に生活していたのだろうか? それにしてもあの家には生活感というか生活臭がなかったが。


「今何時だろうな」


「うーん、分からない。そもそも1日が24時間とは限らないし」


 ここへ着た時にすべての持ち物なくなっていた。スマホなどこちらの世界では充電もできなければネットもできないので、俺達にとってはガラクタになるがこの世界では違う。電池が切れる前なら珍しさから高く買い取ってくれる可能性もある。お金も持っていないし、あっても日本円など使えないだろうから貴重な収入になっただろう。唯一持ち込めたのは祝福の指輪だけ。


 あてもなく歩いて疲れてきたのでどこかで休もうとしていたら、前方から見知った顔の人がやってきた。村長だ。


「お主ら腹が減ってないか? ここ一番でご飯の準備がもう出来てるぞ」


 まさかのあのカレー屋がここに進出しているのかと思ったら、”ここ一番”という名の、村で数少ない飯屋の名前だった。


「いや、お金がないんで」


「今更何を言ってる。今までも村のお金で飲み食いしておったろうが」


 いい身分の生活していたんだな、ハガトよ。とここで俺はふと思った。


「なあ彩芽」


 思いついたことを彩芽に話してみることにした。


「何?」


「この世界ってゲームっぽいよな」


「うん、ステータスが見れるしね」


「それで思ったんだが、俺たちキャラ名があるのにそのキャラの記憶がない。まさにゲームのスタートだと思ったんだよ。ゲームのスタートって形だけストーリーが語られていきなり放り出されたりするだろう?」


「うーん、そう言われてみるとそうなのかも」


「俺たちが何もわからないまま放り出されたのはまさにゲームの始まりの第一歩だったわけさ」


「ああ、あのウンコ踏んだ──」


「あれは旅立ちの第一歩! っていうか俺、あのとき声に出してた?」


「うん、出してたよ。かっこいいこと言ってたのに、言う事とやることが違っていた」


「その言葉をそんな使われ方するなんて……というより思ってる事を口に出す癖なんとかしなきゃな」


「面白いからそのままでいいよ」


「他に面白いことを見つけてくれ、頼むから」



 村長の案内で”ここ一番”に到着した。場所を知らない俺たちを不審に思うことなく案内してくれた。


 せっかくなんで食事を一緒にしながら色々聞いてみることにした。


「オルトガってどんなところですか?」


「オルトガか、そうじゃのう……」


 村長は遠い目をした。うっ、これすごく長くなるパターンか?


「このメディリン国の王都だけあって非常に大きな都じゃ。市場にはこの村では見かけないような作物で溢れかえっておる。種族もいろんな種族が集まってきているので文化や習慣が混ざり合っているのじゃ。あ、そうそう。オルトガには魔力網が張り巡らされているので生活するのも便利なところじゃ。わしもオルトガに住みたいと思ったよ」


「魔力網?」


「ここのような辺境の村にはないので知らないかもしれないが、そこそこの街ぐらいになると魔力網は珍しいものではない」


「魔力網ってなんです?」


 説明を聞いているとどうやら俺達の世界で言う電力網のようなもののようだ。まあ俺達の世界ほど幅広い用途で使うことはできないようだが。


「しかしオルトガの話で欠かせないのは精鋭騎士団である炎進騎士団じゃろう。かつて大厄災のときにも数多くの魔物の群れを撃退したという伝説の騎士団。真っ赤な鎧で馬に乗って駆け抜ける姿は一見の価値ありじゃ。この騎士団のお陰で我が国は三大国の一つと言われているといって過言ではないだろう。お前たちもオルトガへ行ったら見てみると良い」


「オルトガのどこで見れるんですか?」


「よく知らんな。王がいる宮殿に行けばいるんじゃないか?」


「一般人でも見れるんですか?」


「それも知らんな。どこかで外で訓練してれば見れるんじゃないか?」


 なんか急にいい加減な回答になってきたな。


「村長はどこで見たんですか?」


「わしは見たことはないぞ。そもそもオルトガにも行ったことがないんでな」


『はっ?』


 俺と彩芽がハモった。


「今話してくれたオルトガの話は?」


「あれはわしが聞いた話をしただけじゃ。わしが理解できた部分しか話してないからな、間違いはないはずじゃ」


 なんか見てきたように聞こえたのは気のせいか。だがこの村長、話好きなのか知っていることなら何でも話してくれる。おかげでこの世界で生活する上で必要最低限の知識を仕入れることができた。


 村長は話すだけ話すと立ち去っていった。俺たちも唯一使うことができるステータスの確認を村人相手にやってみたが、特に面白いことが見つかることもなかったので家に戻って明日を待つことにした。


 ”メディリン国””大厄災””炎進騎士団””三大国”といった気になる言葉も出てきていたがとりあえずは記憶に残しておく程度でいいだろう。



 そしてついに翌日、オルトガへ旅立つときがやってきた。

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