第2話 異世界へ
そして夜。
「彩芽、何で俺の部屋で寝る」
俺と彩芽は別々の部屋が与えられているので一緒に寝ていたのも小学生の頃までだ。
「だってお兄ちゃんが異世界に行くかもしれないんでしょ? 一人で行かせたんじゃまともに生活できるのか心配じゃない」
「一緒に来るつもりか? だが同じ部屋で寝る理由にはなってないぞ」
「指輪の効果に範囲があったらどうするのよ」
「だからといってトイレや風呂はどうするんだよ。学校だって違うだろうが」
「一緒にいくわけないでしょ!」
きっぱりと否定した。風呂は一緒でもいいじゃん、残念。って俺は何を期待してるんだ。
「まあベッドのほうがよかったら変わってやってもいいぞ」
「大丈夫だから……おやすみ」
「ああ……おやすみ」
だが彩芽はすぐには寝なかった。そして誰にも聞こえない小さな声でつぶやいた。
「もし必要なら、トイレにだってお風呂にだって地獄にだって一緒にいくわ……」
──夜が明け、目を覚ました。
どこかの世界のどこかの家のどこかの部屋で──。
「お兄ちゃん!」
「落ち着け!」
「お兄ちゃんは何でそんなに落ち着いてられるのよ」
「俺は異世界に行く予定で異世界に来たんだから焦る必要ないからな」
「それでも朝起きたら異世界だったってなったら普通は驚くわよ」
「もう異世界に来ちゃったんだからお前も覚悟しろよな」
「はぁっ」
彩芽が大きくため息をつく。そのおかげか静かになった。
「まずは現状の確認だな」
「家の中にいるのはわかるわ」
彩芽の言う通り、家なのは間違いない。ほとんどが木でできており質素な家だ。パッと見た感じのイメージでは必要最小限のものしか置いてなさそうな感じだ。ゲームで言えば村で貧しい生活を送ってそうな人が住んでいるようなイメージだろう。
飾り気のない家の中を探ってみようとしたところでドアを叩く音がした。彩芽に「俺が出る」と言ったが、彩芽もついてきた。
ドアを開けると見知らぬ60歳ぐらいと思われる爺さんが3人立っていた。
「ど……」
どちら様でしょうか、と言おうとして思いとどまる。
「何か御用でしょうか?」
「ハガトに話があってな」
危ない、もう少しで「ハガトって誰?」と言ってしまうところだった。口を開くと墓穴を掘りそうなのでなるべく相手に一方的に話させたほうがよさそうだ。彩芽は何を考えているのかわからないがずっと口を開かない。
「オルトガに行くことになった。そちらのメイカも一緒にだ」
それだけを言うとこちらの反応を待つかのように口を閉ざした。
(これだけの情報ではちとわからないな)
ハガトは俺のことでメイカが彩芽のことをさしているというのはわかるが、オルトガとやらに行くのはこのじいさんたちと彩芽なのか俺と彩芽なのかどっちとも取れる。
「オルトガへ行って何をするんだ?」
言葉を選んで聞いてみた。
「わしらにもわからん。ただ迎えがこちらに向かってきていて明日にも到着するということじゃ。二人とも準備をしておくように」
(オルトガとやらに行くのは俺と彩芽のようだな)
俺は爺さんたちと話しつつ様子を探っていた。俺がここで目覚めて疑っていたのはこの異世界はゲームの世界ではないかということだ。祝福の指輪の効果と思われるものでここへ来たからだ。しかしゲームにオルトガなんて場所あったかな?
俺が次に探ったのはステータスだ。異世界転生ものではお約束のステータスを見ることができないのか?
(! 見えた!)
どうやら相手を見てステータスを見たいと思うだけで見えるようだ。目の前の爺さんのステータスが表示されている。力だの魔力だの1桁の数字が並んでいる。見たところただの爺さんたちのようなのでこれは低い数値なのだろう。目の前の爺さんのスキル欄には「村長」と表示されていた。村長ってスキルなのか? まあ村長権限で色々できるだろうからスキル扱いなのかも。
訪問者は言いたいことを伝えると去っていった。
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