第58話 新しい父

 当時のわたくしはDVや夜逃げなどで心が荒んでいた。母から再婚の相談を受けた時も、

「お酒を飲まなくて、暴力を振るわないのならイイんじゃないの」

と、適当に答えていた。


 やがて、と対面した。は優しく、お酒を一滴も飲まない人であった。は自分自身の事情や感情を、あまり表に出さない人だった。

 は常に左腕にリストバンドをしていた。わたくしがその事を尋ねると、

「汗を拭くときにハンカチを出すのがメンドクサイから…」

と、いつも答えていた。


 臨終後にリストバンドを外すと、そこには自傷の痕があった…


 はわたくしを1人前の人間として認め、扱ってくれた。荒んで間違った道に進もうとしたわたくしを、は親身で真剣に善導してくれた。おかげで、わたくしは大学を出て就職・結婚までする事が出来た。


がわたくしのだったら良かったのに…」

とまで考える様になった。



 わたくしが高校生の時に、母に子供を作る事を勧めた。母は

は愛し合ってはくれるが、子供を作るのは拒否をしている」

と答えてくれた。


「生まれた子供が成人式の時には、私は白髪のお爺ちゃんになってるから…」

と寂しく笑っていたそうだ。


 わたくしはから愛情らしきものを感じてはいたが、何処かで一線を引いている感じもしていた。マンガやドラマに出てくる「家族愛」とは違うを感じていた。


 はわたくし達母娘の名前を「さん」付けでしか呼ばなかった。が母の名前を呼び捨てにしたのは、母の臨終の時に母の手を握って呼び掛けていた時だけであった。


 わたくしはがわたくし達母娘にココまで誠実に尽くしてくれたのは、母の境遇に物凄く同情してくれたからと思っていた。



 あの「ノート」を見るまでは…





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