第44話 病識

入院して1ヵ月が過ぎたある日、彼は主治医にを話した。



彼は「私は正常である」

「異常な行動は好きな女性の気を引くための芝居であった」

「今はやり過ぎたと思っている、反省している」

「だから退院して元の生活に戻りたい」

と語った。



彼の話を最後まで聞いた主治医は、静かに諭すようにこう言った。

は病気である」

「普通の人はその様な考えが浮かんでも、そこまでの行動は起こさない」

「ゆっくり療養をして、先生と一緒に病気を治そう」



主治医の言葉で初めて彼は自分が「の病気」であると認識した。

病気を認めた事で、彼は何処かの重荷が軽くなった感じがした。


「病気を治して、早く家に帰ろう」

彼は素直にそう思っていた・・・



その日から彼は、医師や看護師の言うことを素直に聞いて療養に励む様になった。

しかし、薬の作用で彼の気力は半分位しか出なかった。

彼はただ毎日ベッドの上で無為な時間を過ごすだけであった。



入院中、彼は「あの人」や「彼女」のことを考えた事は一度も無かった。

それは薬の作用なのか病気が良くなった所為なのかは彼には解らなかった・・・・

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