第11話 暗躍する者達
貴誠達がこの異世界に来て、最初に見つけた人工物。その木造建築から数キロ離れた山間にある小さなくぼ地での出来事だった。
急に——
周囲に轟音が響き渡る。その直後、そこにあった巨木が大きく揺れ、次の瞬間にはゆっくりと倒れ始めていた。
続いて、大量の砂塵が周囲に舞う。そこにいた者達はいい迷惑だと思いながらも、あまり大げさに顔を背けたりはしていなかった。
その理由は明白だ。この一団の頭領——バンマーがおっかないからだ。
「——あんの……アホどもが……ッ!」
なおも憤慨しながら、持っている巨大な槌を何度も倒木に打ち付けている。完全に八つ当たりに過ぎなかったが、誰もそれを止めようとはしなかった。
「奴ら……偵察だけにしろと言っておいたのに、俺達がいない間に誘拐騒ぎを起こしていただと⁉ それだけならまだしも、フィルターズに利用されて、アジトの一つまで嗅ぎつけられるとは……ッ!」
身長が二メートル近い大男。筋骨隆々とした偉丈夫で、軽々と得物を振り回していた。両目の間隔が妙に広いが、それはおそらく首筋に見えるシュモクザメの水紋が影響しているのだろう。それも相まって、鬼気迫る迫力だった。
「クズ共が……ッ! これからの大仕事も台無しにするつもりかッ!」
その一撃で、倒木が完全に真っ二つになる。周囲の仲間達が肝を冷やす中、ここでようやく諫める声があった。
「——そんなにカリカリしなさんな。部下達が怯えている」
二十代前半ぐらいの女性で、切れ長の目が印象深い。他に同性もいない中、堂々と口を出していた。
周囲の者達が動揺する中、バンマーはそちらに注目。
「何をそんなに落ち着いている、レモラ!」
まだ憤慨していたが、一方の彼女は冷静に状況を分析していた。
「奴らに計画のことは伝えてなかったんだろ? だったら、問題はない。奴らのことは、見捨てるだけだ」
それは確かに確定事項だが、全く問題がない訳ではない。
「だが、警戒はされる! しばらくアクリール方面を手薄にしていたのは、準備と油断を誘うためだったんだろう!」
この追及に、レモラは大仰に両手を上げていた。
「その通りだ。古参の連中のせいで、台無しになった」
『!』
他の仲間達が一斉に鋭い視線を向けている。それを見て、彼女は急にしおらしくなっていた。
「おおっと……新参者の口が過ぎたようだね。謝罪するよ。許しておくれ」
その裏腹な態度に、険悪な雰囲気は直らない。ただ、ここでバンマーがようやく少し落ち着きを取り戻していた。
「……そんなことはどうでもいい!」
そう言いながら、それまで持っていた巨大な槌を無造作に放り投げる。次いで、レモラに向かって声を張り上げていた。
「とにかく、依頼主からの期限もある! これ以上の猶予はないぞ!」
この切羽詰まった様子に、一方の彼女はそれでも余裕を崩さない。
「……分かってるよ。私に考えがある」
『!』
他の全員の視線を受ける中、レモラはその口の端を異様に吊り上げていた。
「アクリールには、私の息が掛かった間者を以前から忍ばせてある。そいつを使って、躍らせてやるさ」
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