第四章
それから一週間後、二週間後…待てど暮らせど、
トーフ・ドラッグからの連絡が来ない。
要するに
落ちたのだ。
え。嘘。
信じられない。あんなにスムーズにいってたのに。
両親は落ち込む私を見て
「たかがバイトだしね。また大学生になったらやればいいよ。」
と慰めた。
それが嫌なのだ。
「たかが」バイトだから嫌なのだ。
私には「たかが」トーフ・ドラッグに拒絶されたという事実が重くのしかかった。
小さな頃からなにをやっても人並み以上のことはできたし、もちろん試験に落ちたり、挫折をした経験は全くない。
まあ小中高とエスカレーター式で上がってきたからと言うのもある。
しかし、私が周囲より頭の切れる優れた人間であることは、成績や周りの大人からの評価が示している。
他者から自分を肯定されてきたし、自分でも自分を誇りに思っていた。
そんな自分を全否定されている気がする。
「お前はまだ社会に出るべき人間ではない」
と言われている気がする。学校の教師に言われるより、より現実的でこんな屈辱初めてだ。
いや、あの店がおかしいだけだ。
そもそも大通りに面するお店ならたくさんある。高校生が働けるバイトなんて山ほどあるだろう。
そう思ったが、両親は繁盛する見込みのないあの店だから働くのを承諾してくれたのだ。
両親に内緒で働くという手はないに等しい。
母は専業主婦だし、父はオフィスを持たない自営業で、だいたい家にいる。
取り繕って隠し通せるほど、私は演技がそんなに上手い方ってわけでもない。
とりあえず、親に黙ってバイトするというのは無理そうだ。
まさに八方塞がりの状態で虚無感に襲われ、部屋のベッドに寝っ転がりながら、エアコンの真っ黒い横長の穴を見つめる。吸い込まれそう。
はぁ。私の履歴書はもうシュレッダーにかけられてしまったのか。小さい字で結構頑張って描いたのにな。
両親に納得してもらえるようなバイト先をまた一から探し出すしかない。
私のどこらへんがダメだったのか。今すぐ店に殴り込んで店長に聞きたい。
いやいや、ちょっと待てよ、高校生はすぐやめてしまうだろうから、という理由の可能性もある。
テストの期間は休ませてくれとか部活動のある土曜日は要相談だとか言ったから、あちら側もめんどくさくなったのではないか。ああそうか。きっとそうに違いない。いや、絶対そういうことだ。
窓のカーテンを開けると、そこには忌まわしいトーフ・ドラッグが誰にも気づかれずにぽつんと存在している。
開店を間近に控え、商品を乗せたトラックが隣に止まっていた。
ふと、数週間前のなんの生気も感じさせない薄暗い店内が蘇る。
当たり前だけど、私が落ちたってことは、代わりに誰かが受かったってことだ。どんな奴らなんだろう。
社会人ならまだしも、
私と同じ高校生だったら——?
いや、ないない。私が高校生という立場を理由に落とされたんだとしか考えられないんだから、他の高校生なんているはずがない。
この目で確かめて、証明してやる。
私が否定されたわけではないということを。
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