35. まずはお手並み拝見
ガルロ君に対抗して四人のダンスを披露するという建前で始まったダンスダンスバトラー。だが、せっかく対戦モードがあるのに一人ずつやるのはつまらない。というわけで、トーナメント方式で四人の中の頂点を争う。
対戦順は簡単にクジで決める。その結果、初戦は俺とリーラさんの対戦となった。
「ふふ、真打ちの出番は後ほど、ということでしょうか。まずはお二人の手並みを拝見しましょう」
対戦前にシャオさんの煽りが入る。いや、本人としては煽っているつもりはないのかもしれないが。
普段ならロールプレイは最初の口上くらいで、あとはぐだぐだなコラボになるのだが……ここでそうしてしまうとシャオさんだけ浮いてしまう。俺とリーラさんは一瞬のアイコンタクトで、ここは乗っておくことにした。
「言っているがいい。だが、俺の舞を見た後でも同じ事が言えるかな?」
「笑止なことだ。魔法少女に不可能はない! 私のダンスで大きなお兄ちゃんたちを魅了してくれよう!」
咄嗟のことに、リーラさんの演技の方向が若干迷子だが……まあそれはいいか。
ロールプレイをするとキャラ設定上、どうしても大口を叩くことになってしまう。これで無様な結果を出すと恥ずかしいな。自分で自分を追い込むことになるとは。中二病の思わぬ影響だな。
それはともかく、ゲームが始まる。画面のお手本通りに動作を真似ればいいのだが、なかなか難しい。動きについていくことはできているが、咄嗟の判断がうまくできない。指示とは左右逆の動きをしてしまったりする。おかげで動作の切り替わりタイミングでスコアが伸び悩んでしまう。
横目で見る限り、リーラさんは俺とは逆のタイプらしい。動きを理解するのは早いが、反復動作が続くと筋力的に厳しいのか、動きの精度が悪くなっていく。体力も使うゲームなので、中盤にもなると息が上がって苦しそうにしている。これならば勝てると思ったのだが――……
「ぐぅ……! こうなったらやむを得ん!」
突然、リーラさんの身体が光って、そこから明らかに動きが良くなった。
「今、何かしましたよね!?」
「ふふふ、身体強化魔法だ。まさか、卑怯とは言わないだろうな? 私は魔法少女! 魔法も実力のうちだ!」
何やってるんだ、この人!? 配信中に魔法を使うなんて! しかも思いっきり身体強化魔法って言っちゃってるし!
いや、まあ視聴者も本当に魔法を使っているとは思わないだろうから、平気かもしれないが。だからといって、ゲームの勝敗のために魔法を使うか?
「ルリカさんの使用した魔法は、本人のおっしゃったとおり身体強化魔法。対象の身体能力を一時的に高める魔法ですね。こちらの世界ではマナは希薄なはず。それにも関わらずこれほどまでに動きがよくなるとは。相当、マナの運用効率が高いのでしょう。なるほど、たしかに私が相手をするのにふさわしい実力を兼ね備えているようですね。もっとも、それでも勝つのは私ですが」
「まあ、たしかになかなかのものだよな。でも、シャオ。何を勝った気でいるんだ? その前にアタシと戦うのは分かってるんだろうな?」
「勝った気も何も……私の勝利は約束されているようなものですから」
「へぇ? 面白いこというようになったなぁ?」
こちらの対戦そっちのけで、ミュゼさんとシャオさんが火花を散らしている。まあ、すでに俺の負けは濃厚なんだが。そもそもお手本を理解して再現する力はリーラさんの方が優れているのだ。その上、身体能力まで補強されてしまえば勝ち目などない。中盤までに築いたわずかなリードはあっという間に覆されて、すでに結構なスコア差をつけられている。最後までその状況は変わらず、この対戦はリーラさんの勝利となった。
続いてミュゼさんとシャオさんの対戦だ。
「私はダンスの知識にも精通していますよ。あなたに勝機はありません」
勝ちを確信したようなシャオさんの発言。
たしかに、書物から知識を引き出せる彼女は、この場にいる誰よりもダンスに関する知識はあるだろう。
だが、その言葉にミュゼさんは首を傾げた。
「んん? 知識だけで実際にやったことはないんだろう? 関係あるのか?」
「そ、それは! そうですけど……」
ど直球の疑問にシャオさんが怯んだ。
まあ、ミュゼさんの言うとおりだとは思う。クイズなんかならともかく、体を動かす分野において知識があるだけではどうにもならない。ある程度の訓練期間があるのなら、知識を元に効率的に上達をすることは可能かも知れないが……今回は別に事前練習したりもしていないからな。
そもそも、ダンスダンスバトラーはダンスバトルといってもあくまでゲームだ。基本的にお手本通りの動きをタイミングよく再現すればいいだけなので、動作の美しさなんかは考慮外。おそらく、知識だけじゃ特に有利になる要素もないはず。
対戦の前口上はミュゼさんの勝ちってところだな。
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