34. 記念配信のはじまり

 結局、シャオさんのテンションは戻らないまま、三日が経過した。本日は登録者10万人記念のコラボ配信である。


 コラボ配信は前回と同じく、インベーダーズ技術班の居室。今日の配信内容を考えるともう少し広い部屋の方がよかったのだが、うちの事務所に自由に使える広い部屋というのは存在しない。かといって、外部のスタジオを借りるのはタレントの事情を考えると厳しい。先々のことを考えると、もっと広い事務所を確保した方がいいだろうが……その辺りは社長たちも考えているだろう。


 さて、本番前には簡単な打ち合わせがある。シャオさんと直に会うのは久しぶりとなるが、外見に関しては以前とほとんど変わりがない。人間でいうと中学生くらいの見た目だ。小悪魔から悪魔に進化したらしいが、事前に聞かされていなかったら絶対にわからなかっただろう。


 少し違うところがあるとすれば彼女の表情や仕草だ。以前のシャオさんは俯きがちで困ったような表情を浮かべることが多かった。しかし、今日の彼女は堂々と顔をあげ、不敵な笑みを浮かべている。それだけ見ると悪い変化ではなさそうなんだが。


「ああ、司令。先日はとんだ醜態を晒してしまいましたね。どうかご容赦を。ですが、私はこの通り、いつもの調子を取り戻しておりますので何の心配もいりませんよ。いえ、違いますね。無知蒙昧だったかつての私はもういません。数多あまたの知識に触れ、また一歩叡智に近づいた私の真価をお見せできると思います」


 一番最初の挨拶がこれだ。邪眼だとか魔を封じた左腕だとかのコテコテの中二病とは違うが、明らかに普段の様子とは違う。配信前のテンションでこれなのだから、配信が始まるとどうなってしまうのか。少し不安に思いつつ、配信の流れや注意事項を確認していると、ついに配信時間がやってきた。


『あれ、シャオちゃんは?』

『特徴一致しているし、あれがシャオちゃん?』

『予告なしで新モデル!?』

『幼児化!?』


 画面が切り替わった瞬間にコメントがざわつく。それもそのはずで、本日シャオさんだけは新規モデルでの配信となっている。しかも、本人には内緒で。


 彼女の元々の3Dモデルは本人とは似つかない大人の女性であるが、新モデルはそれをベースに頭身を縮めて顔立ちを幼くした姿。だいたい、本人の外見年齢に会わせて設計されているので、ちょうど中学生くらいをイメージして作られている。理由はもちろん、中二病対策である。このモデルなら多少言動が痛々しくても、今日はそういうキャラ設定なのだと視聴者も納得してくれるだろう。


 ちなみに、このモデルはパソさんが一晩で作ってくれた。高知能AIには3Dモデリングもお手の物らしい。


 では何故俺たちのモデルは外注なのかというと、それはパソさんの技術レベルがこの世界の標準技術に比べて高すぎるから。パソさんの技術力をフルに発揮したモデルが世に出れば、間違いなく目立ってしまう。


 もちろん、インベーダーズの注目度を上げるという意味ではひとつの選択肢ではある。だが、弱小事務所に凄腕の技術者がいたりすると引き抜き工作などが面倒だという懸念もあって外注を選んだそうだ。


 今ではデータ収集も進んでこの世界のレベルにも合わせられるそうなので、第二陣以降はパソさんがモデリングを担当することもあるかもしれない。


 それはともかく。シャオさんの新モデルにコメントが湧いている。配信直前にはシャオさんが倒れたことを心配するコメントが多かったが、すっかりと話題の中心はそちらへと変わったようだ。


 配信が始まれば、各々簡単に挨拶をしていく。当然、シャオさんも。


「心配をかけましたね、我が同胞たち。先日の失態は本日の活躍でもって取り返して見せます。生まれ変わった私の実力を、しっかりとあなたたちの目に、脳裏に刻んでさしあげましょう」


『誰w』

『シャオちゃん、どうした!?』

『このモデルではそういう路線かw』


 狙い通り、多くの視聴者はシャオさんの言動を新モデル用のロールプレイと考えてくれたようだ。これで正気に戻ったあとも傷は浅いはず。おそらくだが。


「さて、諸君。集まってもらったのは他でもない。我々は10万人を超え、20万に近い支持を得たわけだが……由々しきことに、マスコットの後塵を廃する事態になっている」


 マスコット……つまりガルロ君は相変わらず人気で、インベーダーズの動画再生トップはいまだにガルロ君の踊ってみた動画だ。今回はそれにかこつけた企画となっている。


「例えダンスといえども、侵略軍の幹部としてマスコットに負けるわけにはいかん。……というわけで本日の企画は、ダンスダンスバトラーです!」


 ダンスダンスバトラーとは、付属のセンサーを使った対戦ダンスゲーム。画面に表示されるお手本ダンスに合わせて動き、その正確さによってスコアが上がっていく。より正確に踊れた方が勝者というわけだ。


 以前やったマリオンの爆走トロッコはゲーム初心者のミュゼさんが不利だった。しかし、このゲームなら直感的で難しい操作もいらないので、ミュゼさんにも不利にならないだろう。

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