第2話 飲み会

 それから1月後のことだ。俺は秘書課の人を交えた飲み会に誘われた。話を持って来たのは俺の部下で、20代の男。そいつが、秘書課の女の子と仲がいいから「一緒にどうですか?」ということだった。秘書課と言えば美人ぞろいだった。完全に顔採用の世界で、顔だけじゃなくてスタイルもいい子がゴロゴロしている。新入社員の男は、みんなが秘書課の子と付き合いたいと夢を見ていた。しかし、すぐに現実を知って、もっと手近な女性を狙うようになるというのがお決まりのパターンだった。


 俺を誘って来た理由は、まだ独身だってことと、飲み代を多く払ってもらうためだろう。40代になって20代の子と付き合いたいとは正直思わないけど、せっかく誘ってくれたんだから行くことにした。


 メンバーは秘書課の女の子3人と、俺の部署の若手2人と俺。最悪だったのは、その場に小枝がいたことだった。俺は小枝の隣に座らされた。秘書課の子が、小枝の恋愛を応援しているんだろう。大迷惑だった。


 目を合わさないようにしていたが、あいつは露出の多い服を着ていて、胸の谷間を見せつけられて、俺は居心地が悪かった。料理を取り分けてくれたりして鬱陶しかった。トイレに行くふりをして、若いのに席を変わってもらった。


「やっちゃえば?」

「遠慮しときます・・・」


 その飲み会は、ひたすら小枝が喋っていた。前の職場は銀行で、言ってはいけないような企業秘密も口走っていた。みんな、そういう話には興味があるから、その場は盛り上がっていた。


「小枝さん、キャバクラで働けば?稼げるんじゃない?」

 他の男が言った。

「前ちょっとやったことあるんですけど、人の名前を覚えられないからお客さんに怒られて、全然稼げませんでした」

「え、でも、向いているよ。きっと」

「事務職っぽくないよね」


 俺はずっと黙っていた。

「Line交換しませんか?」小枝が切り出した。

「いいよ」

 他の2人の男は、すぐにスマホを差し出していた。

「江田さんも教えてもらえませんか?」

「俺、Line入れてなくて」

 とっさに嘘をついた。

「知ってるから、後で教える」

 部下の男が余計なことを言った。

「お前知らないだろ!」

 俺は切れた。

「用があったら、内線に電話しま~す!」

 小枝は明るく言った。これが普通の人だったらどうってことはないんだけど、本当にかけて来そうだった。


 俺は立ち眩みがして、2万置いて先に帰った。


 次の日からは、元キャバ嬢らしく、毎日内線がかかって来るようになった。内線だと本当に用があってかかって来るかもしれないから、無視できない。


「はい。江田です」

「おはようございます!」

 声を聞いた瞬間、血圧が20位上がってしまう。

「江田さん、今日のお昼ランチどうですか?」

「いや・・・弁当持って来てるから」

 実際は持って来ていないのだが。

「じゃあ、また今度。いつがいいですか?」

「俺、弁当派だから」

「自分で作るんですか?」

「うん」

「え、すごーい。料理できる人って素敵ですね。ふふ」


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