第18話 悪魔な愛情観念

「俺って愛に弱いのかもな」


「……人間は悪魔よりも愛や友情に近い種族だって本で読んだことあるけど」


確かに俺以外の人間は他人が好きなやつが多かった気がしないでもない。少なくとも観察してきた立場からではそう見えた。悪魔から見て人間はどう見えるかなんてものには興味もないが、少なくともカガチとその本の著者はそういう生物だと解釈しているようだ。しかしそういった印象を持たれている人間の身でありながら、たった1人の悪魔にここまで執着するなんて、この世で最も無意味な愛を注がれて喜んでいるなんて、誰が想像できるだろうか。しかも悪魔は人間より愛に疎いんだったか。……ダイニチと言い、そんなふうには見えないがな


聞けばこれはホンネグサ(別名暴露花)と言い、近づくと胞子を噴き出しそれを吸ったものは少しの間本音しか喋れなくなるらしい。その程度の効果なのかと思われるかもしれないが、虚栄も悪事も大の得意な悪魔にとっては致命的な毒花だ。こんなに綺麗なのにカガチ以外が近寄らなかったのはこのためだろう、こいつも相当な変わり者だな。カガチも花粉を吸っていたのに逃げなかったのを見ると、よほどマオが好きなのか、はたまたただの阿呆なのか。


なんにせよカガチの本音を聞けたのはいい収穫だった、涙を流した甲斐があったというものだ。あいつも俺もお互いに隠し事なんてしないし出来ないだろう。これからの学園生活が2割増で憂鬱になったが、こいつを見ていると気負う心配もないだろう。


「よし! マオ、じゃなくて……セイギ? 人間だってバレたら大変なことになっちまうからな、俺が守ってやるよ!」


「ほう、具代的にどうヤバいんだ?」


「人間と交尾したら力がみなぎるっていう伝説があってな。多分今よりいろんな理由で襲われるぞ」


「それは嫌だなぁ……」


「だから守ってやるんだよ、俺強いから安心しろ!」


「……ありがとな」


「おう!」


こうして俺とカガチは秘密を共有することになった。オマケにボディーガードにまでなってくれるというのだからボロ儲けである。それにその……ちゃんと優しいから安心もできる。


だからこそ今聞きたい、今どうしてもコイツに聞きたいことがあった。こんな事、優しいカガチにしか頼れない。


「ところで、魔権能ってどうやって解くの?」


「え?」


「いやその……この格好続けるの意外とつらくてさ」


あー……とカガチはいう。そうだろうな、こんなゴスロリでずっといた俺の気持ちを悟ってくれたのだろう。保健室で話していたあの時、空を飛んでからの花畑デートの時もずっと俺はゴスロリだった。もっというとその後におこる暴露からの床ドンも全部俺ゴスロリだった。別に好き出来てたわけじゃない、制服に戻るやり方がわかんなかったんだ。


「オレ的にはもうちょっとこのままでもいいと思うんだけどな……」


「俺的にはさっさと戻りてえんだよ」


「なんでだよ、可愛いのに」


「実際着た事あるかは別として、そんな女物好んで身に付ける趣味ねえし、そもそも普通に動きやすい服装が好きなの」


「……そっか、残念だな」


さっき俺の心中を察してくれたのだと思っていたがそんな事はなかった。あの「あー……」にはどうやったらこの格好を継続してもらえるだろうという感情しか込められていなかった。畜生め、やっぱり悪魔だ、きっと此奴らは人間よりも変質的な愛情を持ちやすいんだろう。


「あとな、あんまりジロジロ見んな、穴が開く。これ以上布面積が減ってみろ、ただのフリフリが多い水着になっちまうだろ」


「オレの花嫁なんだからいいだろ?」


「よくねえよ、あとマオはどこに行った。一応魂だけは俺の中にあるんだ、今頃草葉の陰で泣いてるぞ」


「色々悩んだけど、両方愛したらセーフかなって」


「どこがどうセーフなんだ」


「一夫多妻制とか一妻多夫制は悪魔じゃよくある話だ」


だそうだ。聞けば悪魔は負けず嫌いな上欲しいものを手に入れるためには手段を選ばない傾向があり、そうでもしないと殺し合いとかに発展するから、らしい。野蛮にも限度ってもんがあるだろう。今では理性を勝ち取った悪魔が大多数を占めているからか、今や結婚したい悪魔が五万といる王族や貴族、一部の技術者の家系のように跡取りが沢山いた方がいい家柄や、種としての力が弱く保険的に子供が沢山いないといけない場合に限られているという。


「マオとセイギどっちも好きだ、人間界から来てくれてマオの代わりなんてしてくれてありがとな。明日からはオレが守ってやるから、安心して学校に来いよ」


そう言って俺の手を握ってくる。戻り方を教わりたいだけだったんだが……まあいいだろう。しばらくこの格好でいてやるのも悪くないと思ってしまった。

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