第15話 空の旅

入学式はいつの間にか終わっちまったようで、明日から授業が始まるらしい。あんだけ英才教育を受けたオレが今更何を習う必要が……座学とか座学とかは苦手だな。では最強になるためにも家に帰り明日に向けて座学の鍛錬を始めるとするか。その前に、


「マオ、外は……どうだ」


「あ? どう言う事だよ」


ほう、意外にも堂々たしてきて何よりだ。マオ・アスモデウスは極度の引きこもりでデビルニカ学園に通うまでなんとしてでも外には出ないと宣言していたからな、いざ外に出ると何かしら心身にストレスがかかるだろうと思っていたのだ。しかし流石はオレのハニーその程度ではなんともないようだ、トラブルに巻き込まれていないのもあのツノが生えた執事のおかげかもな。あいつには後で褒美をくれてやろう。


「おい、聞いてんのか」


「ん? ああ、すまんな。オレはマオの事が心配だったんだよ」


「そ、そうか、ありがとうな」


さて、医務室なんぞに長居は不要だ。養護教諭はどこに行ったのか気になる所だがまあいい、向こうもさぞ忙しいのだろう。……それに外がやけに騒がしい、さてはマオに目をつけた下級悪魔どもだな。オレとマオの蜜月(まだ一方的だが)を邪魔するということか。取るに足りない低級悪魔どもめ、少しばかり懲らしめてやるとするか。


……いいや、誇り高き魔王の家の悪魔として弱い者いじめなどもってのほか。真の誉れある魔王になる男なら、ここは見逃してやるのがせめてもの慈悲。強きを制し弱きを守る、そして弱き者が強き者になると今度はそいつを制して新たな弱き者を守る、これが親父の目指す悪魔界の姿。ならばそれもそれに応えよう。つまり今は、逃げるが勝ち!


「マオ、舌噛むなよ」


「えっ__ちょ! 何してんだよ!」


「俗に言うお姫様抱っこってやつだ」


「聞いてねえよ!」


「聞いたじゃねえか」


無理矢理お姫様抱っこをして医務室の窓を叩き割る、修理費は後で払うから安心しろ。それよりもガラスの破片がマオにあたったりは……していないな。ちゃんとオレの翼が守っただけあって傷ひとつない、相変わらず何すんだと恥ずかしそうに暴れている、可愛やつめ。流石に三階から落ちるのは怖いのだろう。しかしオレの飛行能力は伊達ではない。これぐらいは朝飯前だ。


「ちょっ、おまっ!?」


「大丈夫だ、落ち着け。ほーれ」


「わっ、わわっ」


ひょっとして空を飛ぶのは好きではないのだろうか? 翼を広げて更に駆け出したらマオはオレにしがみついて離れなくなってしまった。やはり怖かったか……もう少し優しく抱えてやれば良かったかな? まあでも、この状態だとオレに抱きついている感じになって良いかもしれない。この様子なら絶対に落ちることもないだろうし。安心させるために、離さないようにしっかり抱きしめる。


「わ、ガガチ・サタンだ!」


「マオたんもだ一緒だ!」


「くそー!!! しねぇーーー!!」


……弱き者からの嫉妬は勝者への勲章だ。胸を張り堂々たしているとしよう。こんな所で暴れてしまえばマオが怪我をしてしまうし最悪落ちてしまう、こんなに震えた花嫁の目を離すなんてこととてもではないができない。……剣の修行も大事だが、空を飛ぶことも教えないといけないな。


「なぁ、マオ。今からオレと一緒に飛ぶ練習をするか?」


「え、何する気だよ」


「先ずは空に慣れないとな、今日はオレが飛ぶから、2人で青空デートしようぜ」


「……勝手にしろ」


マオ・アスモデウス、本当に可愛い奴だ。こんなに可愛い花嫁を放っておくなんてとんでもない。責任持って幸せにするからな。しかしそんなワクワクしているオレとは対照的に、マオはボロボロと涙を流し始めた。ヤバ、そんなに怖かったか……?


「え!? わ、わりぃ……」


「グズッ……ぢげーよ! なんでもねぇーから!」


まるで何か悪いことをしてしまった子供のような姿に焦ることしかできなかった。ただせめてもの気遣いで、綺麗なところにでも連れて行ってやろうとか。オレは悪魔だからそう言うのは苦手だ、マオは得意そうだが……本当に特別なんだな。


「すごい場所に連れてってやるよ。覚悟しとけよ、ハニー」


「ズズッ……がっでにじろ、くそダーリン!」 


はー……紳士的って言うのも案外疲れるんだな、控えめに言ってマジですぐにでも犯したい。

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