ガガチ・サタンという少年

第14話 永遠の初恋

…………


………………


……………………


「……ん」


目が覚めるとそこは知らない天井だった。いや、ここは医務室、もっというと奥にあるベットだ。確かオレはマオと戦って……そうだ、急に隠れて準備していた花嫁衣装になりやがったんだ。隠れて作っていたあの服をどうやって突き止めたのか、何故あのタイミングで着て見せたのか、ひょっとして勝っても負けてもオレの嫁なってくれるんじゃ……そう思うだけで嬉しくて興奮して、気が付けば鼻血を噴き出すっつう悪魔としてあるまじき失態を犯したわけだ。


「起きたか」


「……マオ」


「マオ・アスモデウスへの思い本当に強いんだな」


「ああ、お前への愛はモノホンだぜ」


「……ん? ああ、そうだな」


マオはベットの横に座っていた。オレは起き上がってマオを見る、ああやっぱり可愛いな。オレはマオが好きだ、手紙とのやりとりだけで惚れてしまった。それでもマオが欲しいけど我慢して将来に向けて修行をした、結婚して2人で子供何十人も作って幸せになりたい想いをグッと堪えて決闘に勝つために鍛錬を怠らなかった。そして結果は負けたのだ。それでも諦められないのはきっとオレという存在がおっそろしく負けず嫌いだから。


手紙の文章だけでも愛おしいのに、実物はもっと可愛いのだから、いや文面が可愛いのだから本物も可愛くて当然か。夢見てた、積もり続けてきた俺の理想を軽々と超えるその可憐さは今や思うだけでも胸が苦しい。


「マオ。お前が好きだ」


「知ってる」


「お前はオレのことが嫌いか?」


「……好きじゃねえよ」


しかしどうやらオレのことが嫌いらしい、仕方がない。自分で言うのもなんだが阿呆だから手紙の返事も遅いし内容もおざなり、しかも生殖や誕生も司るアスモデウス家とは真逆に位置する滅亡と破滅を司るサタン家、そもそも根本的にズレている。子供の時とは違い一族への誇りを持って生きるようになったオレ達はこのままでは離れ離れ一直線だ。もちろんそんなことはさせんがな。


「マオ、オレは諦めねえぞ」


「ん?」


「愛してるぜ」


マオは驚きと呆れを隠せないように目をぱちくりさせる。待ってろよ、今度愛してるっていう頃には顔を真っ赤にして喜ぶぐらいにまで好感度を上げてやる。永遠の初恋、多分オレは死ぬまでこの恋を忘れなれない。


ぶっちゃけ修行なんてほっぽり出してマオと結婚したい、今すぐにでもまぐわってマオとの子供が欲しい。マオが嫌がるなら無理矢理襲ったりはしたくない、出来ることならあいつから誘ってもらえれば天国に堕とされても悔いはない。いつか必ず振り向かせてみせる。そのためには……まずはこの学園で一番になる必要があるだろうな。


「……なあさガガチ、話は変わるんだが__」


「ん? どうした、その服の真意を悟り結婚する気になったか?」


「ちがわい。……お前が良ければ、その、武術を教えてくれないか?」


確かに話は変わっているが、変わり過ぎだろう。いや確かに何か思うところがあったのか上の空だなって思ってたけど、本当に何考えてたんだ。あともう一つそんなに可愛い顔で凄んでた意味はないぞ、強いて言うなら物凄く可愛い。


「あ? なんでまた?」


「オレはアスモデウス家の当主だ、この魔界で生きていく以上は強くなきゃいけない。それに、お前の槍捌きは敵ながら恐ろしいし何より使える。要はその強さが欲しいから盗ませろって事だ」


ほう、流石だぜハニー。医務室まで連れて行ってくれるなんて悪魔にしては随分と面倒見がいいなとは思っていたが、そう言う魂胆か。恩は絶対に仇では返させないその姿勢はサタン家の花嫁に相応しい資質だ。是非父上や母上にも見てもらいたい、今度の連休に実家に来れるか誘ってみようか。


「だが、オレはお前に勝てなかった

ぞ?」


「それでもだ」


「修行中はオレの事ダーリンって呼んでくれるなら……」


「なんだその馬鹿みたいな条件は、この際オマエが俺をなんて呼ぼうが勝手だが俺は恥ずかしいから嫌だぞ」


つれないな、まあそんな所がキュートなんだけど。こうして旦那より先にマオの剣の先生になった。槍が本業だが剣の使い方も叩き込まれているオレとしては大した問題じゃあなかった。家系のために精一杯なマオは相変わらず可愛いかったし、何より放課後に花嫁の身柄が自分の手元にあってそれだけでも嬉しかった。

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