第10話 俺がやること
おいマオ、いくら文通であったとしても、幼少期にした約束だとしても、なんて約束をしてくれたんだ。おくでダイニチが整った顔を青白くしプルプル震えている、隣でバーゲスト先生が心配している。
カガチ・サタンも大概だ。なぜ顔を見たことない文通だけしてるやつと結婚の約束してそんでその日を待ってしまうんだ、ある意味ピュアだと思うが、そういう純粋さはいらない。ってかコイツ苗字サタンかよ。ベルゼブブ先輩が言ってたよな、サタンは魔界の王様だって。ってことはひょっとして……
「おいアスモデウスの長男、魔王の子供に求婚されてるぞ」
「次期魔王vs次期王妃……?」
「マジかよ、今日伝説の日になるんじゃねえの?」
周りの悪魔がざわつき始めた。俺はもう帰りたい。まだ魔法も魔権能もわかんないのに、まともに使ったこともないのに、魔王の息子と戦わされるのかよ。しかも負けたら嫁になる、俺はもらわれるのだ。同い年にしては背が高い(まあ俺と比べたら誰だってデカイ)カガチは俺を見下ろし、そしてニヤリと笑う。この時を待っていた、その言葉に嘘はなさそうだ。この日までにさぞ熱心にトレーニングを積んでいたのだろう。俺じゃない、マオを嫁にするために。
半分焦りを隠しながら、そしてもう半分は諦めながら決闘場に立とうとする。すると頭の中から声が聞こえてきた。
『正義くん、正義くん、聞こえますか?』
一瞬何が起きたのか分からず歩く足が止まってしまった。何故頭の中にダイニチの声がこだまするのか、緊張で遂におかしくなってしまったのか。気づかれない程度に辺りを見回すもダイニチの姿は見えない。
『大丈夫ですよ、今魔法で貴方の脳内に語りかけています。正義くんも心の中で念じていただければ僕に声が聞こえるかと』
『なんというか、お前ほんとなんでもできるな』
突っ込むことと考えるのを放棄した瞬間だった。
『ありがとうございます。そしてすみません、僕の準備不足でした。まさか新入生代表になるどころかマオ様が婚約をなさっていたなんて』
『ま、まあ求婚の件についてはマオのプライベートなこともあるから……』
『今まで悪魔界にその御姿を見せたこともないマオ様は新入生代表にならないと……てっきりサタン家とルシファー家の御子息の一騎討ちになるとばかり……』
『いや本当に気にしてないから……もう諦めてるから安心しろよ』
『いえいえ、正義くんを嫁入りなんてさせませんとも! このダイニチ共闘することはできませんが、知識を駆使しお力になることはできますので!』
とは言ってももう時間がない……即席で何か教えてもらうぐらいじゃないとダメだよな。それで魔王の息子に勝てるとは思えないが、何もせずに大人しく嫁になるよりかは幾分マシだろう。それにダイニチがそう言うのなら俺はいう通りに戦おう、俺は影武者とはいえダイニチの主人だ、期待に応えねば。
『……で、俺は何をすればいいんだ?』
『はい。これから、そして戦いの中でもいくつか魔法の呪文や、魔権能解放の呪文を教えます。それで対処していただければと』
『……わかった』
踊り場に立つ。俺の目の前にはサタン家の次期当主、カガチがいる。その顔には余裕が伺える。俺はどんな顔をしているのだろうか。決闘場には俺達2人だけしかいない。他の新入生達は皆外野から俺たちを見るばかり。ベルゼブブ先輩が決闘のルールを説明し始める。
「ルールを説明する。どちらかが戦闘続行不可能になった、もしくは参ったと言った時点で終了。また、決闘場から落ちた者はその時点で負けとなる。では、決闘開始!」
ベルゼブブ先輩が指を鳴らすと同時に決闘場に透明な壁、多分結界が張られる。これで誰も手出しはさせないってか、わかっていたことだが、もう腹括るしかねえのな。これから戦うことも、ひょっとしたら結婚してしまうかもしれないことも、全部。
「さあマオ、お前をオレの妻としてサタン家に向い入れる!」
「……ああ」
「ッ!! いいのかマオ、お前がオレに勝つことができれば、あの日の約束通り結婚してその、こ、子を産んでくれるのか!?」
「……ああ、いいぜ、やってやるよ!」
「そ、そうか……よし行くぞマオ! 俺は絶対に勝ってやるからな!」
「おう来いよ!」
もうなんでも良くなった俺は結婚だろうが子作りだろうがやってやろうと覚悟が決まってしまった。人間は悪魔の子を産めるのかとか、そもそも男同士だけど子供はできるのかとかそんなちんけな話をしている場合ではない。そもそもダイニチも手伝ってくれるし負けるつもりもないからな!
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