第9話 ここは地獄か

「まず初めに、この学園の理事長である私ルドセブ・ベルフェゴールが、この学園の意義について説明します」


そう言うと、ベルフェゴール理事長はそのまま話し始めた。


「この学園は、悪魔界でも指折りの名家が集まる場所です。しかし近年の悪魔界は実力主義、貴方たちにはそれに負けない強い子になって欲しいと考えます。故にこの学園は、家柄など関係なく、己の才覚で這い上がってもらうための場所と心得てください」


この学園が実力主義の悪魔界でも指折りのエリート校であることに間違いはないらしい。それにしても、悪魔でもこんなに真剣に物事を考える奴がいるとは驚きだ。この学園に来て俺の中での悪魔の株は右肩上がりの上昇傾向ってやつだ。


「続いて、この学園の生徒会長を紹介しましょう。彼は中等部3年生にしてこの学園の頂点に立つ逸材、君たちが見習うべき先輩であり、乗り越える障壁でもある……頼む」


「新入生諸君、私はアル・ルフロル・ベルゼブブ。悪魔界を束ねるサタン一族の側近を代々務めるベルベブブ家の悪魔だ。私が直々に、諸君の入学を歓迎しよう!」


そう言って出てきた男は、一言で言うならイケメン。今まで見てきた悪魔もそれはもうイケメンだったが。それとは比較にならないほどの超絶美形、顔のパーツが完璧に配置されている上に、その全てが黄金比のように整っていた。髪は白銀、瞳の色は血のような赤。肌は病的なまでに白かったがあまりの顔面のおかげか気にもならない。イケメンというより美しいという言葉が似合う。そんな男が、入学式の壇上で堂々と演説をしている。その姿はまさにカリスマ、この学園のトップに相応しい悪魔だ。


そこまではよかっためちゃくちゃ平和だったんだ。俺は心底ベルゼブブ会長を尊敬しようとしていた。しかし、運悪くいや必然か、



会長と目が合ってしまった。

 


「……っ」


「……ふむ」


やばいやばいやばいやばすぎる。なんだあれ、なんだあの威圧感、いやオーラ? とにかくヤバい。さっき尊敬できる悪魔とか言ったな、あれは嘘だ。正しくは絶対に関わってはいけないタイプの悪魔だ。


「……よし、決めた」


「ベルゼブブくん?」


「理事長、今年は面白い新入生が入ったようですね」


「そうですね。来年に比べ変わり種の生徒は多いと思います」


「今年は退屈せずに済みそうだ」


そう言ってニヤニヤ笑うベルゼブブ先輩を見て周りの同じ新入生の悪魔も固まっていた。ちょっと肝が触った奴は先輩と同じような不敵に笑みを浮かべていた、……やっぱり悪魔は怖いのかもしれない。腹黒いタイプが多いのかもしれない。ベルフェゴール理事長は涼しい顔で司会を続け、ベルゼブブ先輩は舞台裏に戻っていった。


「では次に、新入生代表2名の決闘を始めます。全員式典館の奥にある決闘場まできてください」


ベルゼブブ先輩のせいで震え上がっていた他の新入生達はいろめき立ち始める。新入生の代表に決闘をさせるというのは……なんというか斬新だと思った。スピーチみたいなのはあるとは思っていたけどまさか決闘だなんて、人間界にはない文化だ。俺には関係のない話だが、その新入生代表の2名とやらは大変だな。


テンションの高い周りの悪魔達に振り落とされないように決闘場に行く。コンクリートの広い踊り場のようなものがある、あれが決闘場だろうか。あそこから落ちたものが負け……と言った優しいルールならいいが、さっきのベルゼブブ先輩のことを考えると殺し合いとか……ともかくさっさと早くそして安全に終わってくれ。


「さあ新入生代表、カガチ・サタン、マオ・アスモデウス、踊り場に」


……ここは地獄か。何故俺が決闘を、まだ悪魔の術とかアスモデウス家の魔権能とか知らんことばっかだったのに。やばい辺な汗出てきた。しかし、そんな俺の圧倒的絶望感と対極にある男がいた。


「遂にこの時が来たな、マオ・アスモデウス!」


さっさと踊り場に上がり俺を見下ろすそいつは明らかにアウトドア派な褐色が眩しいいかにも熱血で五月蝿いやつだった(今回も例に漏れず顔がいい、将来は熱血イケメン待ったなし)。コイツがサタンというやつなのだろうか。しかし遂にこの時が来たとはどういうことだ、マオは誰にもその姿を見られた事がなかったのだろう? 俺がマオを名乗っても何も言われないのがその証。まるで知っているような口ぶりに不安になる。


「昔文通でしたあの約束を果たす日が来たようだな! このデビルニカ学園での新入生代表決闘で絶対に戦うって!!」


あーそういう約束か。いいんじゃねえの、友情とはいいものだ。俺はマオじゃないから期待に添えるかは不明だが、さあどうしようか……


「そして俺が勝ったら、マオ!! お前をオレの妻としてサタン家に向い入れる!」


ごめんやっぱなしだ。本当に、本当に怖いが、魔界の真髄が少しずつ見え隠れしている。

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