第8話 入学式

「そりゃそうだろうね、君みたいな可愛い子が歩いていたら誰しも振り返るさ」


「……俺が?」


悪魔界め突然気が狂ったか。それとも男子校故の男しかいない空間で可愛いに関するハードルが異常なまでに下がってしまったとでもいうのか。どちらにせよ俺は可愛くないし、そもそも可愛いなんて言われてもこれっぽっちも嬉しくない。


この学校は人間界で言うところの中高一貫と言うものらしい。悪魔は元々女性の絶対数が少ない。みな種の保存のため、女性を多種族がいる学校には通わせず、自分達の里だけで育てるらしい。極め付けに人間とは違って化物のような容姿をした生徒も普通にいるからか可愛いものにはめっぽう弱い、とのことだ。合すれ違う人全員にジロジロ見られるのはダイニチ曰く仕方のないことらしいが、俺は納得出来ない。


この流石は悪魔の学園と言わんばかりの制服の格好良さと対照的に扱われていてシンプルに不服だ。黒を基調としたブレザーに赤のネクタイ、ズボンも黒い。それに校章は十字架に蛇が巻きついたデザイン、厨二心をくすぐりすぎてムズムズするがかっこいいことに変わりはない。我儘かもしれないが俺もそんな評価をしてもらえたらと考えている。


「……やっぱり悪魔は怖いかい?」


「いや、なんでもねぇよ。それより、もうすぐ着くんじゃねえの?」


「ああ、見えてきたね。あれが式典館だ」


ダイニチが指差す先には式典館という名のお城のようなものが見えた。どう考えても学校内に設置していい風貌の建物ではないがそこはやはり悪魔界、人間とは価値観が違うのだろう。


「じゃあ入ろっか」


「おう」


ダイニチが扉を開けると、そこには既に沢山の生徒がいた。パッと見で200人はいるだろうか。中高一貫ってことは6年生までで、1学年大体200人ぐらいってことは1200人か……多くね?


「毎年これぐらい入学するね。それに今年は凄い家柄からの入学生も多いと聞く。……じゃ、僕は他の先生方と入学式の準備をしなきゃだから、後は1人で頑張ってね」


「は?」


ちょっと待てよと言う間も無く俺から離れていくダイニチ、待て待てこんなに辺な視線を感じる場所で1人にしないでくれ、せめて居てくれるだかでいいから。しかしそんな俺の心の叫びなんてどこ吹く風。どうしようこんな周りに人が、いや悪魔がいるのに孤独感がすごいぞ。


「新入生だな、こっちに来い」


そんな途方に暮れそうになっていた俺に声をかけてくれたのはこの学校の先生であろう人物。見た目は完全にゴリラ……いや筋肉ダルマってだけだ、筋骨隆々な顔ゴツい系のイケメンって感じ。


「はい、わかりました」


「……そういやお前がアスモデウス家の長男なんだってな? 俺は生徒がどんな家から来ても気にしないが、他の奴らはそうとは限らねえ、頑張れよ」


「え、あ、はい」


なんだろう。釘を刺されたのか、それとも心配してくれたのか、定かではないが悪魔とは思えないぐらいには普通の教育者らしいことを言ったてくれた気がする。ダイニチが悪魔としては真面目なんだと思っていたが、案外こう言った悪魔の方が多いのかもしれない。何というか、熱心なファンよりもアンチの方が声が大きいのと一緒で。


「じゃあ行くか」


「あ、あの!」


「なんだ?」


「名前を教えてくれませんか?」


「あー……そういえば言ってなかったか? 俺はリゲル・バーゲスト、よろしく頼むぜ」


そう言って笑うと、俺を席に案内してくれる。気が付けばそろそろ入学式が始まるようで、式典館という名のお城には俺を含める全ての新入生が集まった。


俺は早くもちょっと安心しかけていた。一部の、いいや悪魔はみんななのか? とにかく悪魔は基本紳士的という事がわかった。ダイニチもそうだったがあの人、えっと、バーゲスト先生もそうだ。俺がマオだと案外すんなり受け入れてくれたし、ちゃんと1人の生徒として扱ってくれるみたいだ。


「じゃ、俺は教師席に行くから、あとは頑張れよ」


そう言って俺の頭をポンッと撫でると、バーゲスト先生は他の教員と共に舞台裏へと消えていった。これから一体何が行われるのか全くわからない、そもそも悪魔界の事は何も知らない。どんな風に入学生を祝うのかなんて未知数だ。それに俺は影武者とはいえアスモデウス家の当主になるのだ。何か粗相をしたら、それこそアスモデウス家に迷惑をかけてしまう。もうマオ以外死んでいるとかそう言った問題じゃない。


「ではこれより、第58回、悪魔立デビルニカ男子学園の入学式を始めます」


マイク越しに聞こえてくるのは理事長らしき男性の声。ひと目見てわかったことだから、そいつはさんじゃそこらのちんちくりんとは訳が違った。羽はでかいしヤギみたいなツノもでかいそもそも図体自体もダイニチやバーゲスト先生よりデカイし、兎に角見た目だけでも規格外だった。それにしてはアンバランスというか、意外としっかりした喋り方をする。理性も知性も物凄く高そうなかっこいい低音ボイス。まぁいいや、それよりも入学だ!!

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