第6話 悪魔の学校
服は……これか。籠には畳まれたしわ一つない服と、その上にカードが乗っていた。何か文字が書いてあるな。
『これは執事の僕が準備した物なので安心して着てください。お風呂から上がる頃にはお食事をご用意してお迎えにあがります、髪を乾かし服を着ながらしばらくお待ち下さい』
「……ダイニチってマジ有能」
身体を拭き俺が着るだめに準備してくれた服を見た。下着こそは問題がないブリーフと白いタンクトップ。しかし問題はそこならだ。ワイシャツになんだろう、ブレザーっていうのか、着たことないからわからんが恐らく制服だ。それも学校の制服だ。
「……これでいいのか?」
見よう見まねで来てみる。サイズはぴったりだが、やはり違和感がある。鏡を見るとそこにはまるで中学生のような姿の俺がいた。
「……似合ってんのかな?」
項垂れながらしばらく鏡に映る自分を見ていた。なんか、俺が背伸びしてるみたいでやだな。
「正義くん、おまたせ。ご飯の準備ができたよ」
「あ、ああ。ありがとう」
ダイニチの声にハッとして我に返った。ちょっと背伸びしてるなという自己評価が下ったこの姿を見てニッコリ笑う顔はやっぱりイケメンだ。
「その、この制服は何なんだ?」
「ああそれはデビルニカ学園の制服だよ。サイズがあってよかった」
デビルニカ学園? 悪魔界にも学校があるのか、なんかファンシーというかちょっとおしゃれな名前だな。でも何で俺がそこの制服を着ているんだ? というより着させられているんだ?
「えっとね、今日から正義君には悪魔立デビルニカ学園に通ってもらうから、制服をプレゼントしたんだ。せっかくの入学式なんだから華々しくしないとね」
……え、そうなんか? 昨日頼まれてたことは簡単に言えばマオの影武者になってくれってだけだったから、てっきりマオの肉体が戻るまでの繋ぎ役というか、居候しつつ他の悪魔の目を誤魔化せばいい物だとばかり思っていた。俺人間だけどそこら辺はいいのかよ。人間が悪魔の学校に通っていいのか、ってか通えんのかよ。人間だってバレた場合どうなるんだ? まさか食べられたり……
「……本来はマオ様が通うはずだった学校だよ。幸いマオ様は今まで一度も他の悪魔に御姿を見せた事がないし、そもそも魂も魔権能も魔力だって君に譲り渡したんだ、君がマオ・アスモデウスを名乗ってもバレやしない。生徒も先生も君がマオ様だと信じてくれるはずだ、人間だと思われることなんてないよ」
「そ、そういうもんなのか」
意外に悪魔というのは生まれ持った魔力とか地位とかで人を判断する所があるんだな。もっと貴族王族なんてクソ喰らえな無法地帯というか、そういう無鉄砲なものを想像していた。そのせいかこれぐらいの権威主義が横行しているほうが人間らしいところもあるんだなと安心できる。
「うん。それに君はこれからマオ様に成り代わって悪魔界で生活するんだから、まずは悪魔の常識や文化に慣れないといけないでしょ? だから丁度良い機会だと思うんだ」
「んー確かにそうだな」
「大丈夫。実はね、僕はデビルニカ学園の先生なんだ。何かあったら直ぐにサポート出来るよ」
マジかよ。それは確かに頼りになるな、さすがダイニチといった所だ。学校に、入学式に行くにはパワーが必要だと朝食を薦められた。そうだ、なんか違和感あるなと思ったら俺腹減ってんだ。思えば昨日の昼から何も食っていない、しかも最後に食べたのは昨日の残りの味噌汁に米を入れたやつだ。
食卓に案内された。1人で使うには勿体無い……多分生きていた頃の家臣やマオ、皆んなが使うためのものだったはずの食卓には俺が食べる朝食しか乗っていなくて、何というか寂しい物だ。
「今日の朝食は高級クック鳥の卵を使ったバターオムレツと、新鮮な地元産ニガニガソウのサラダ、、パンにスープ、デザートに沼苺のタルトを用意しました。どうぞ召し上がれ」
クック鳥やニガニガソウといった聞いたことのない食べ物は見た目は普通の卵とレタスだ……沼苺はなんか茶色で恐ろしいが、まだいけるはず。タルトは大好きだからどんなものが上に乗っていてもきっと美味しく食べられると思う。
「……いただきます」
「はい、めしあがっれ」
ダイニチがニコニコしながらこちらを見てくる。何か緊張してきた、それにしてもこんなにちゃんとした朝食を食べるのは初めてだ。まずは前菜っていうのかわからんけどこのニガニガソウというものから手もつけていこうか……
「……ッ!」
その瞬間、俺の舌に衝撃が走った。
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