悪魔立デビルニカ男子学園
第5話 ハロー悪魔界
……
…………
………………
「ん……」
窓から差し込む朝日が眩しく、思わず目を細める。そういえば昨日はダイニチに案内されてそのままこの部屋に泊まったんだっけ。……試しに髪とほっぺたを引っ張ってみる、やっぱり夢じゃないな。
「おはようございます、ご主人様」
「うわぁ!?」
突然目の前に現れたダイニチに驚いて思わず飛び起きてしまった。ダイニチはクスリと笑っている。
「朝食とお風呂の準備ができておりますので、ご準備が済みましたらお呼びください」
「あ、ああ……ありがとう」
「いえ、僕は執事だからね」
それだけ言い残すと、再び姿を消した。改めてダイニチの能力の高さに驚く。きっと俺が眠っている間もずっとそばにいたんだろう。俺が起きた気配を察してすぐに姿を現したに違いない。
「ダイニチって実はすごいヤツなのかも……」
ダイニチが消えたのを確認すると、俺は準備……と言っても布団を整えてカーテンを開けるぐらいだけど、気休め程度にしておいた。
「わぁ、悪魔界の景色も悪かねぇな」
魔界は人間界とほとんど変わらない。会えて違うところを言うとすれば、空が若干紫なこととか、太陽が2つあることとか、建物や植物が人間界のとは少し違っていたりすることだろうか。
「待たせたな、ダイニチ!」
「大丈夫だよ」
「えっと、先に風呂に案内してくれないか?」
「うん。じゃあ一緒に行こうか」
昨日風呂に入っていないのが気になって先に風呂を提案したら、笑顔で対応してくれた。2人で並んで歩く。ダイニチは俺より少し背が高いから、歩幅を合わせてくれる。それが少し嬉しかった。俺が今までここまで交流をした事がある大人の男といえばダイニチだけだが、それでも周りと比べて精神的に成熟しているのは目に見えてわかった。見た目は俺より10年ぐらい歳上に見えるが実際はもっと上なんだろう。
階段を降りて、大きなドアを開けて、まるで銭湯のような大きな脱衣所が広がっていた。俺とダイニチしか住んでいないのが惜しいぐらいだ。
「ここが浴室だ。使い方はわかるかい?」
ダイニチは更に奥の扉を開けて中を指差した。脱衣所からすぐのところに洗面台を超え、奥の方には大きな浴槽が見える。シャワーはつあり蛇口は4つだ。どれも見たことがある形をしているから問題なく使えそうだ。
「ああ、多分」
「それならよかった。泡風呂を沸かしているしラズベリーの香りがするリンスもあるよ。着替えを用意しておくからゆっくり浸かってくるといい。タオルは置いてあるのを使ってくれ」
……なんか1人で使うのが忍びないほど気を使わせているな。ダイニチはもうお風呂に入っているのだろうか。「ダイニチは入らないのか?」
「……! ぼ、僕のことは気にしないでいいよ」
「いや、でも……」
「……! いや、えーと……」
「なんだよ急に」
ダイニチは顔を赤くしながら何かを言い淀んでいる。どうしたんだ?
「……だ、だって、君と一緒に入るなんて……恥ずかしいじゃないか」
「……ッ! そ、そうか……」
「……うん」
今更昨日したキスを思い出した。確かにあれはかなりの衝撃だったし、ダイニチにとっては初めての経験だったのかもしれない。いや俺にとってのファーストキスだった。
「ま、まあ、俺とダイニチと一緒ってこれから一緒に住むんだろ? こんなに照れてたらキリねえぜ……」
「……う、うぅ……」
ダイニチは俺の言葉を聞くと、俯いて黙ってしまった。俺もそれ以上は何も言えず、沈黙が流れる。
「……ご、ごめんね、正義くん」
「お、おう。準備してくれてありがとな直ぐに出るから……」
恥ずかしそうに退室するダイニチを見て少し後悔した。悪魔とはいえ思ったよりも純愛派かもしれない、配慮が足りなかったか。1人であることを確認して昨日から着っぱなしだった服に手をかける。着替えってどんな物を準備してくれるのだろう、やっぱし無難に悪魔界の服、いいやこの世界では普通の服を準備してくれるのだろうか。そんなことを考えながら湯船にむかう。
身体を適当に洗い高そうなシャンプーとリンスに慄きつつ、何とか泡でモコモコの湯船につかれる時が来た。
「ふぃ〜……」
思わずおっさんみたいな声が出てしまう。お風呂に入るだけでこれほどの幸福感を得られるなんて知らなかった。俺の家は風呂が狭いからいつもシャワーで済ませていたのだ。夢にまで見た幻の泡風呂も、甘いかも爽やかな匂いがして、何というか女の子が好きそうな匂いだ。入ったらお肌すべすべになる系のやつだ、ようわからんけど。
「……にしても、ダイニチのやつは本当に色々してくれるな」
俺がお風呂に入ったのを確認してから、すぐに着替えと直ぐに食べれるよう朝食の準備に取り掛かっているのだろう。ダイニチは料理ができるのかな、できるとしたら何が得意なのだろう。そもそも悪魔界の料理とは何だ。まさか動物の生き血とか虫とか、ゲテモノじゃないだろうな……気を使えるやつだからちゃんと人間用の飯を準備してくれるはず。
悪魔界の服とはなんぞや、朝食とはなんぞや、考えるほど不安と期待が多すぎておちおち風呂にも入らない。気が付いたら足早に湯船を出て脱衣所に帰ってしまった。
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