第49話 再会
深夜0時ーーー
僕はリーアに言われた通り、昼間に彼女と戦闘を繰り広げた場所に向かっていた。
僕とリーアの融合魔法の結果、周辺が大炎上した機に乗じて戦闘から離脱し、一緒に同行していた冒険者の人達を探した。一瞬、このまま姿を眩ました方がいいかと悩んだが、後々の事を考え、彼らと合流することにした。
幸いにして、それ程時間もかからず冒険者達と合流することが出来き、周囲には襲ってきていた別の魔族達は既に姿を消していた。リュックさん達が言うには、轟音と大規模な火の手が空高く上がる様子を見て、それを確認する為に空を飛んで離脱したということだった。
僕と分断されてから、おそらくは魔族の襲撃者と大なり小なりの戦闘があったとは思うのだが、見た目にはそれ程の負傷は確認できず、衣服にも目立つような汚れは見られなかった。
そんな僕の視線にリュックさんが、「俺達の方の襲撃者は2人だったからな。数的優位で何とかなったぜ!」と説明してくれたのだが、何故だかその言葉を胡散臭く感じてしまうのは、僕が最近人を疑うことを覚えてきたからだろうか。
ただ、それを表情に出すわけにもいかないので、一先ずは先程の戦闘についての報告を行った。といってもあまり具体的なことは言わず、相手の人数や、無我夢中でなんとか戦っていたとか、最後には魔族の魔法が暴走して大爆発が起こったなど、真実と虚実を織り混ぜて伝えた。リュックさん達は僕の説明に、時折驚きの表情を浮かべながらもうんうんと相槌を打っていた。
また、破壊された馬車だが、物資はある程度回収することが出来、一応任務自体は継続可能だとリュックさんが発言しつつ、僕の考えを聞いてきた。
正直、こういった状況下でどう判断していいかの知識が僕には無かったため、結局リュックさんにどうすべきか問い返す形となり、任務続行という結論になった。そうして明日の行動再開の為、今日は早めに夜営して休息をとる事となったのだった。
深夜。僕は交代で警戒に当たっている冒険者達の目を盗み、夜営テントから抜け出した。そうして、昼間の戦闘場所に来たのだが、月明かりに照らされるその光景を見た最初の感想は・・・
「・・・何だこれ???」
緑の木々が生い茂ってたはずの森は、広大な範囲に渡って真っ黒焦げの荒野に成り果てていた。地面は余程の高温だったのか、所々ガラス状に変質しており、ここが別大陸で行われている人族と魔族の主戦場だと言われても納得できる惨状だった。
「ほんと、すごい有様でしょ?」
その光景に呆気にとられていると、待ち望んだ人物が音もなく僕の隣に降り立ち、呆れを含んだ声音で話しかけてきた。
「リーア・・・」
「ライデル・・・」
僕達は仮面を外すと、しばらくお互いの顔を見つめ合った。2年ぶりに見るリーアはとても綺麗になっており、赤みを帯びた艷やかな黒髪はあの頃よりも長く伸び、魔族特有の角も少し大きくなっているようだ。それに、身体は女性らしく丸みを帯びていて、雰囲気も大人っぽくなっていた。
あの戦いの場では特に意識せずに会話していたはずなのに、こうして改まった場所で顔を合わせてみると、何故か何を話していいか困惑してしまう。
「・・・こんな形で再会するなんて思ってもみなかったわ。でも、こうしてまたライデルと言葉を交わすことが出来て嬉しい」
「僕もだよ。2年前のあの日から、リーアの事を忘れた日は無かったよ」
リーアの言葉に胸の中が温かくなるのを感じつつ、僕も今までの率直な想いを伝えた。その言葉にリーアは少し顔を赤くしたが、次の瞬間には真面目な顔をして口を開いた。
「ライデル。あなたには聞きたいこと、話したいことが沢山あるけど、先ずこれだけは聞かせて。あなたは、魔族と戦争したいと考えてる?」
リーアは真剣な表情で、僕を真っ直ぐに見つめながら問いかけてきた。彼女は僕の勇者候補という立場を危惧し、これからもお互い敵同士として、戦場に立つことを確認したいのだろう。
「そんなわけない!僕が望んでいるのは、魔族との和平だよ!僕の今の勇者候補という立場は、成人の儀の時に女神の神託が降りてしまったからなんだ!」
「神託・・・そう、自分が望んだものではないということね」
僕の返答に、リーアは安堵した表情を見せた。そして、次の瞬間には意を決した顔で口を開いた。
「ライデル・・・私は今、魔族の英雄候補としてこの地に来ているの」
「英雄候補?それって・・・」
「私と一緒にライデルと戦っていた人が魔族の現英雄なの。そして私はその英雄の弟子の一人・・・あなたに教えてもらった身体強化の魔力操作方法で実力を認められてしまったの。ごめんなさい・・・まさかこんな状況になるなんて思ってもみなかったの・・・」
リーアは罪悪感を含んだ悲痛な表情で、謝罪の言葉を口にした。僕としても、まさかあの身体強化方法を教えただけで彼女が英雄候補になっているなんて驚きだった。
「僕の方こそごめん。まさか僕が教えた事で、リーアが英雄候補にまで選ばれてしまうなんて考えてなくて・・・両親を無くしたリーアが、魔族の英雄と呼ばれる人の元に引取られたって話を聞いていたはずなのに・・・」
リーアが今の立場に望んでなったわけではないというのは、言葉の節々から伝わってくる。その事を申し訳なく思い、僕は視線を下に逸らして謝罪の言葉を口にした。
「あなたが謝る必要なんて無いわ。私もライデルを利用して今の立場になってしまったようで、とても申し訳なく思っているの・・・」
「リーア・・・」
お互いに謝罪し、何となく気まずい空気が流れる。そうして少しの間、辺りを沈黙が支配した。
話題を変えようと、僕は意を決して口を開いた。
「そ、そうだ。ところでリーアの弟さんは大丈夫?」
彼女が以前人界に来た本来の目的である、弟さんの事について聞いた。
「もうすっかり元気よ。といっても、虚弱な体質が完治したわけではないから油断は禁物だけど。ライデルの事を話したら、あの子もあなたにお礼を言っていたわ。ありがとうってね!」
「そうか。それは良かった!」
僕の問いかけに、彼女は表情を和らげながら弟さんの状況を話してくれた。体調が良くなったと聞いて嬉しいが、やはり体質的なものまでは完治していないようだ。
「「・・・・・・」」
待ち望んだリーアとの再開で、話したい事はたくさんあったはずなのに、どうしてか中々会話が続かず、再度訪れた沈黙を掻き消そうとするように、僕は懐から虹鉱石を取り出した。
「これ、覚えてるかな?」
「忘れるわけないでしょ」
僕の問いかけに、リーアは微笑みを浮かべながら返答した。そして彼女も胸元から、僕が渡した水晶のネックレスを取り出した。
「2年前の約束・・・人族と魔族との戦争は中々終わりが見えないし、伝えられる時に伝えないといけないと思うんだ」
「そうね。本当にそうよね・・・」
実感の籠ったリーアの言葉に、自分と彼女の今の立場や状況が、あの時よりも更に複雑になってしまっている事に悲しさを感じつつ、今の内に自分の想いを伝えるべきだと直感していた。
「リーア。その水晶は、将来の伴侶となる者と交換するっていう習わしがあるんだ」
「ライデル。その虹鉱石は、婚約の証として交換するものなの」
「僕はリーアの事がーーー」
「私はライデルの事がーーー」
「「好きだ(です)!!」」
想いを伝える言葉が重なった。僕としては生まれて初めての告白だったので、カッコ良く伝えようと色々と頭の中で考えてのものだったのだが、何故かリーアは僕の言葉に被せるようにしてきた。
「あの・・・僕が先に言おうとしたんだけど?」
「だって・・・何だか恥ずかしかったんだもん・・・」
僕が苦笑いを浮かべると、リーアは顔を真っ赤にして俯きつつ、上目遣いに頬を膨らませて、言葉を重ねてきた理由を吐露した。その様子がなんだか無性に可愛らしく、彼女のことを抱き締めたい衝動に駆られ、一歩踏み出した時だった。
「「ーーーっ!?」」
突如上空から、僕とリーア目掛けて魔族の英雄が降り立ったのだ。
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